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逃した優勝、勝負の分かれ目は悪天候による走行キャンセル/2018年ホンダダカールラリー

2018年02月28日 12:22  AUTOSPORT web

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2018年総合2位を獲得したモンスターエナジー・ホンダ・チーム
『世界一過酷なレース』と言われるダカールラリー。2018年のダカールラリー二輪部門を、ホンダは総合2位で終えた。ホンダのファクトリーチーム、Monster Energy Honda Team(モンスターエナジー・ホンダ・チーム)のラージプロジェクトリーダー(LPL)、本田太一氏によると今回の分岐点になったのは悪天候による走行キャンセルにあったという。

 ダカールラリーとは、真夏の南米大陸を舞台に砂漠地帯、アンデス山脈などの高地を舞台に争われるラリーレース。ロードブックと呼ばれる、スタート地点からの距離や目印などが記載された、主催者が制作したA5版サイズの巻物状のものを解読しながらルートを走破し、ラリー中の競技区間の累積走行時間を競う。二輪部門のみならず、四輪部門、トラック部門が開催されている。

 その始まりは1978年で、パリをスタートしアフリカ大陸に入ってサハラ砂漠を越え、セネガルの首都ダカールをゴールとしていた。現在のルートである南米に舞台を移したのは2009年の第31回大会から。ダカールラリーが南米大陸で開催されるようになって10回目の2018年はペルー、ボリビア、アルゼンチンを回るルートで2018年は15日間全14ステージが開催された。

 2018年、ホンダのファクトリーチーム、モンスターエナジー・ホンダ・チームはエースライダー、ホアン・バレダを含む5人のライダーと、2018年型ワークスマシンであるホンダCRF450RALLYという体制で参戦。 

 チームの総合的な決断などの責任を担うLPLを務めた本田氏は、「今大会の分岐点はステージ9だった」と振り返る。ステージ9は天候悪化によりキャンセルされたが、モンスターエナジー・ホンダ・チームは、ステージ8時点でケビン・ベナバイズが総合2番手につけていた。

「このキャンセルは痛かったですね。差をもっと広げるチャンスだと思っていたけれど、それができなかった」

 ステージ10では上位ライダーのミスコースが発生した。モンスターエナジー・ホンダ・チームのベナバイズもそのひとりだった。

「ステージ10はスペシャルステージといって、実際に競技をする区間がA、Bの2箇所あったんですね。A区間でケビンはトップのライダーに対して6分差を広げて帰ってきました。我々はレースの途中でサービスしていいところでライダーを待っているんですが、ケビンは『非常に良いリズムだった』と。そのときのケビンの感じだと非常に集中してましたし、このまま次のスペシャルステージもいってくれるであろうという風に思っていました」

「ところが、次のナビゲーションが非常にトリッキーだったんです。ルートを誤って47分くらい走ってしまいました。そこが大失敗ですね。そのタイム差が痛かったところです」

 さらに、後半戦のステージ11時点でもベナバイズが総合2番手につけていたが、ステージ12の前半部分が荒天を理由にキャンセルになってしまう。追い上げたかったところに起こったこのキャンセルについて、もどかしく思うところは大きかったと本田LPLは言う。

「本当に? という感じでした。キャンセルになったのは痛かったです。ライダーたちは非常に悔しそうでした。特にケビンなんですけど、逆転できるって本人も信じてましたし……。そこについては悔しかったですね」

「ステージ12はナビゲーションと言って、ウエイポイント(通過しなければならない地点)を通過しながら走っていくんです。それがステージ12は比較的難しいとされてたところなんですね。なので、言い訳になってしまうかもしれませんが、ステージ12が開催されていたら、展開としてはだいぶ違っていたとは思います」

 ステージ12に続くステージ13は、スタート直前にウエイポイントの改定があったという。こうした突然の改定など、モンスターエナジー・ホンダ・チームにとって「ダメージが続いた」という。天候によるステージキャンセル、ルールの改定に加え、さかのぼってステージ7ではエースライダーであるホアン・バレダが転倒して左足を負傷し、途中リタイアというアクシデントもあった。

 2018年のダカールラリーはKTMが17連覇。モンスターエナジー・ホンダ・チームは2位で終えた。2019年のダカールラリーでの優勝に向け、本田LPLはこう語る。

「マシンに関しては、14日間で少なからず問題は出てますので、そこはしっかり直さなきゃいけないということですね。ライダーについては、ナビゲーションなどをもっと強化しないと圧倒的に他社に勝つことはできないと思います。今回みたいに平気で40分とかひっくり返ってしまいますから。そこについてはライダーもそれぞれ強く感じたと思うんですよね。事実を強く受け止めて、そのなかでしっかりやってくれると思っていますね」

■水のシャワーにレインウエア紛失。アクシデントは日常茶飯事
 全14ステージ15日間にわたって行われるダカールラリー。その期間中はアクシデントが頻発する。ライダーにはケアマネジャーのようなことをする担当者がつくが、それでも必要なものがなくなってしまうこともあるという。

「2018年はレギュレーションがいろいろ変わっていて、ライダーがカッパを持っていかなければいけない、とか細かいものがありました。でも、ライダーってそういうことにまったく関心がないんですよ。朝になると忘れてしまうんです。極端なことを言えば、次の日別の国に入らないといけないのにパスポートを持っていかないとか」

「映像だけ見ると結構うまく走ってますけど、その裏には世話をしてる人がいっぱいいるんです。子供が5人いるみたいな(笑)。携帯が必要なレインウエアをライダーが誰かに渡して行方知れずになったり、マシンにかけるカバーがなくなったり。それからは、カバーの代わりにゴミ袋を使いましたよ。いろいろ起きますよね、やっぱり」

「そういうのが普通すぎて、ひどいアクシデントだと頭を抱えたものはない」という本田LPL。しかし、大会期間中で唯一お湯のシャワーが浴びられるはずだったところで水が出てきたときはさすがにショックを受けた。

「我々スタッフも14日間、温かいシャワーは浴びられないんです。ビバークというラリーのキャンプ地が毎日移動していくのですが、シャワーは常に水。でも唯一サルタというところだけはお湯のシャワーが出るんです。我々のなかでは有名なところになっていて、みんな2週間のなかで非常に楽しみにしているんですよ。なのに、そこのシャワーに行ったら水だったという……。かなり衝撃的なことがありました」

 過酷な環境下でレースを行うダカールラリー。ライダーたちにはロードレースとは違った素質が求められる。速さだけではダカールラリーで勝つことはできないと本田LPLは言う。

「当然、最低限のスピードは重要になってくると思うんですけど、それに加えてナビゲーションですね。ナビゲーション能力で、どれだけ間違えないかっていうところが非常に重要だと思います。もちろん、タフさも重要です。長く過酷なレースですから、ライダーも途中体調を崩したりします。それをいかにコントロールしながらやっていくかっていうところですよね」

「ダカールライダーはなんでも食べるんです。食べられる時に食べるだとかそういう所はしっかりしています。あと、ボリビアなどでは5000m近い山の上でレースをやるのですが、高山病になるライダーもいますよ」

 さまざまな要素のタフさが必要とされるダカールラリーライダーだが、もちろんスタッフも同様だ。スタッフも含め、事前準備が重要になってくるのだという。 

 長く過酷なダカールラリーを戦い抜くには、心身のタフさとアクシデントにも臨機応変に対応できる柔軟さが必要なのだろう。そして、それらを存分に発揮するための事前トレーニングも。「速いだけでは勝てない」という複合的な強さが求められるダカールラリー。2019年こそ、ホンダがKTMの連覇を食い止めたいところだ。