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社会学者 太田省一が語る、“テレビとジャニーズ”の過去と未来 書籍刊行記念インタビュー

2018年02月28日 10:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 社会学者・文筆家の太田省一が、書籍『テレビとジャニーズ ~メディアは「アイドルの時代」をどう築いたか?~』を2月21日に発売した。


 『中居正広という生き方』、『SMAPと平成ニッポン』などを著書に持つ同氏の最新刊は、タイトルとおり「テレビとジャニーズ」がテーマ。長きにわたり共に歩んできた「テレビ」と「ジャニーズ」2つの軌跡を追った、現代メディア・アイドル論の最新版となる。


 リアルサウンドでは同書の刊行を記念し、ジャニーズやドラマをテーマにした執筆活動を多く行っている芸能ライター・佐藤結衣氏を聞き手に、著者である太田氏に話を聞いた。太田氏が考えるジャニーズの魅力から“テレビとジャニーズ”を起点としたさらなるエンターテインメントの可能性にまで話は及んだ。(編集部)


(関連:滝沢秀明はなぜ『クレイジージャーニー』出演した? 太田省一『テレビとジャニーズ』一部公開


■ジャニーズはもともと想像以上にテレビ向きな集団


佐藤:連載執筆や書籍化までのプロセスを振り返るとどのような感想がありますか?


太田:私は普段テレビなどメディアの歴史を研究しているのですが、ジャニーズへの個人的な関心もずっとあって、これまでも『中居正広という生き方』などの本を執筆してきました。だからジャニーズの出演番組は人並み以上に見ているつもりだったのですが、「ジャニーズとテレビ史」の連載を始めるにあたり、改めて今ジャニーズがどんな番組に出て、どういうトレンドや特徴があるかということをチェックするようになると、「これはそんなに安請け合いをするものではなかったな」と思いましたね。歌、ドラマ、バラエティ、ニュース……とジャンル問わず日々様々な番組で活躍しているので(笑)。でもその中で、1回目の『ミュージックステーション』に関する原稿を書いている時に「音楽番組の歴史とジャニーズの繋がり」といった発見がありました。そのような発見がたびたびあったのは書いていてとても楽しかったです。今回書き下ろしで総論の「テレビとジャニーズの55年史」を書いたことも良い経験になりました。双方の歴史を一気に見通した文章は書いたことがなかったので、自分なりの考察が書けたかと思います。


佐藤:奇しくも『SMAP×SMAP』が終わるなど、ジャニーズとテレビの歴史が動くタイミングで連載が始まりましたよね。


太田:そうですね。SMAPの解散もあったし、KAT-TUNの活動休止などもありました。これは本当に偶然ですが、ジャニーズとテレビのある意味、節目だった。そこには巡り合わせを感じます。


佐藤:この本の「はじめに」では滝沢秀明さんの『クレイジージャーニー』出演にフォーカスしています。滝沢さんは先日、その際の出演でも焦点が当てられていた溶岩湖研究の分野で注目を集めました。この巡り合わせもすごい偶然ですよね。


太田:そうなんです。僕も、「ジャニーズは学術の分野にも進出していくのか」という意味でも驚きました。そもそも滝沢さんの『クレイジージャーニー』出演は衝撃だったんですよ。特に溶岩がわきたっている傍で彼がたたずんでいる画面はとんでもないものを見ているような気になりました。滝沢さんといえば、一般的にはテレビで活躍するというよりは『滝沢歌舞伎』をはじめとした舞台に打ち込んでいるイメージがありましたよね。それが『有吉ゼミ』でのヒロミさんとのDIYリフォーム企画あたりから意外な一面を見せる番組にも出るようになり、感心していたところでの『クレイジージャーニー』だったので。ちょうど「はじめに」を書くタイミングで放送があったので、どうしても書きたくなってしまったんです。


佐藤:総論「テレビとジャニーズの55年史」は私もとても勉強になりました。太田さん的に一番「おもしろかった時代」や「思い入れのある時期」は、いつになるのでしょうか?


太田:タイミングとしては2回あります。僕は1960年生まれで、小学校高学年くらいの時に最初にテレビで出会ったジャニーズがフォーリーブスなんです。間もなくして郷ひろみさんが登場しました。フォーリーブスは歌や踊りだけではなく、バラエティやMCやコントに挑戦したジャニーズグループの先駆け的存在です。対して郷ひろみさんは歌手だけでなくドラマでも活躍していく。彼らがジャニーズのテレビでの活動スタイルの原型を作った人たちだと思っています。フォーリーブスは音楽シーンでも歌謡曲全盛の中で新しい立ち位置を築きました。洋楽っぽいおしゃれさと、バク転なども取り入れた本格的なダンスを踊るという点が新しかったですね。当時の歌手はスタンドマイクで直立不動で歌うのが主流でしたから。今の若い人たちには想像がつきにくいと思いますが、ステージ上を動きまわるかっこ良さがとても新鮮でした。一方、郷ひろみさんは声が個性的で中性的な美少年、そういった感じも新しかった。それが今思えば「ジャニーズ」的なパフォーマンスやビジュアルにつながっているのだと思います。そしてもう一つは、やはりSMAPです。いろいろな本でも書いていますが、ジャニーズの中で「普通の男の子」のかたちをはじめて確立した存在。そして研究という立場は離れて、彼らが『SMAP×SMAP』のような本格バラエティで才能を発揮していく姿にはいち視聴者としてとても興奮を覚えましたね。


佐藤:なるほど。ジャニーズに関心のある男性の中には、彼らに憧れて自分も「ジャニーズに入りたい」という方もいらっしゃると思うのですが、太田さん自身はどのようなスタンスで、ジャニーズの活躍を追っていこうと考えていらっしゃったんですか?


太田:応援ですね。世代的なこともあるかと思いますが、「なりたい」という感覚はなかったです。あとは尊敬ですかね。たとえばSMAPがすごいのは、お笑い芸人ではないのに、コントに挑戦すれば芸人にも劣らないくらいのレベルに到達できる。なんでもこなせる“テレビの達人”になっていったと思うのですが、そういった部分は尊敬の念を覚えます。また、メンバーそれぞれの人間性にも惹きつけられました。仕事人として評価しているだけではなく、「この人たちのことが好きだ」という、いちファンとしての感覚ももちろんあります。


佐藤:ジャニーズのタレントたちがここまでテレビで活躍できるようになった一番の要因はなんだと思いますか?


太田:テレビ番組には、音楽、バラエティ、ドラマ、報道、ドキュメンタリー……と様々なジャンルがありますが、基本的にそういったカテゴライズはだんだんなくなっていくものだと思うんです。たとえばバラエティだと、90年代には『進め!電波少年』のようなドキュメントバラエティが出てきたり、あるいは今回の本でも書いたように、久米宏さんが『ニュースステーション』でニュースをエンタメ化していくというような流れもある。一方のジャニーズはもともとそういう総合的なエンタメ志向を持った集団で、ノンジャンル/ボーダーレスなエンタメがジャニーズの本質です。だからこそ、「ジャンルの融合」という特性をもつ近年のテレビ番組と彼らがフィットするのではないかと考えています。つまりジャニーズはもともと想像以上にテレビ向きな集団なのではないかということです。アイドルの活躍の場であった『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』などの歌番組が終わりを迎えていく中で、結果としてSMAPが時代を切り拓きジャニーズの可能性を開花させましたが、どのグループにもやはりテレビで活躍できる資質があるのだと思います。


佐藤:たしかに。太田さんがおっしゃっていたように、SMAPの活躍は「普通の男の子」たちがスターへと成長していくドキュメンタリーそのものでした。そういった意味ではSMAPは少年隊や光GENJIなどとはまた違った、私たちの生活している延長線上にいる人たちという存在感があったことも大きいですよね。視聴者が「アイドル」に対して求めるものも時代の流れとともに少しずつ変化していったのかなとも感じたのですが。


太田:そうですね。私たちの生活の中でのテレビのポジションの変化も関係しているかもしれません。昔のテレビには家具のようなフォルムのものがあって、観ない時にはわざわざ画面に布をかけてあたかも劇場の幕のようにしている家庭もあったんですよね。テレビを見ることがありがたい時代があったんです。それが一家に1台以上あるのが普通になって、それぞれが好きな番組を選んで見るような時代になり、どんどんパーソナルに、一人ひとりに近いものになっていった。そういった意味では、テレビに出ているアイドルたちも憧れの存在から視聴者に近い存在へと変化していったというのはあるかもしれないですね。


■ジャニーズ全体で魅力を出す展開にも期待


佐藤:太田さんが考える“ジャニーズの魅力”とはどのような部分にあるのでしょう。


太田:ジャニーズを好きになるのって、究極を言えばやはり人間性なんですよね。故・蜷川幸雄さんのラジオ番組『蜷川幸雄のクロスオーバートーク』に出演したジャニー喜多川社長がアイドルづくりについて問われた時、「アイドルづくりは人間づくりなんだ。成長しない子どもはいませんよ」という趣旨の発言をしていたのが強烈な印象に残っています。「成長しない人間はいない」と断言できるのはすごいことだなと。もちろんそこにはジャニー氏の「人間を見る目」もありますが、ジャニーズに所属する人たちに共通する人間性として「成長のための努力を惜しまない」ということがあるのだと思います。それがアイドルの成長プロセスを見る喜びにもつながっている。それはテレビにも共通して言えることでもあって。テレビは完成されたものを見るより、ある人の不完全な部分、努力や経験を積んで成長していく姿を見るほうが喜びがあるんです。たとえば、『プレバト!!』で千賀健永さんが俳句で1位を獲って号泣したことがありました。努力をし続けるという意志や人間性がジャニーズをテレビで見る時の喜びや楽しさにつながっているように思います。


佐藤:そうですね。Kis-My-Ft2や舞祭組の体当たりなチャレンジには、特に色濃く感じます!


太田:彼らのメインの活動は歌やダンスですが、司会など器用になんでもこなしますよね。テレビ番組で必要とされるリズム感、間の取り方がダンスなどの訓練で自然と身につくというのもあるのかなと。テレビではトークにしても演技にしても相手がいる時の間合いが重要となります。ジャニーズに入ることでそれが身についていき、様々な活動の中でさらに磨かれ、それぞれの場で発揮される。そしてその中でも得意な部分で個性が出てくる。ジャニー氏の「成長しない子どもはいない」というのはそういうことなのかもしれません。


佐藤:個性ということでいうと、活躍の幅が広がった分、冒頭の滝沢さんしかりそれぞれがすごくマニアックなところに介入している印象があります。ポジショニングとしても細分化されすぎているというか。


太田:来るところまで来ている印象はありますね。メンバーたちも「次はどこでアピールしよう?」という感じになっているのかと。だからこそ、音楽やダンス、パフォーマンスの部分をテレビでしっかり示す方向性も改めて開拓していいと思うんです。それがうまくできているのが関ジャニ∞の『関ジャム 完全燃SHOW』。いまのテレビに必要なマニアックさと大衆性のバランスが良く、今後のジャニーズの冠番組の一つのモデルになるでしょう。ここ数年テレビで存在感を示しているグループといえば、『鉄腕DASH!!』で誰にも真似できない境地にたどり着いたTOKIO、『東京フレンドパーク』のようなファミリー向けのゲーム番組『VS嵐』と自分たちの個性を出すような『嵐にしやがれ』を持つ嵐の2グルーブがいましたが、関ジャニ∞もいよいよその仲間入りを果たすように冠番組が増えています。『関ジャニ∞クロニクル』のようにあれくらいお笑いに取り組んでいるグループも他にはいないと思いますし、その意味でまさにトップランナーの列に加わろうとしているのではないでしょうか。


佐藤:そうですね。ジャニーズスタイルが成熟した印象を受ける中で、今後の“テレビとジャニーズ”に期待していることは?


太田:近い将来ポイントになるイベントは、間違いなく2020年の東京オリンピックです。つい先日もジャニー氏がジャニーズのタレントたちに英語を習得するよう言ったということがスポーツ紙などで話題になりました。ジャニー氏は1964年の東京オリンピックの記憶も踏まえつつ、自らのエンターテインメントを発信するチャンスとしてオリンピックを本気で捉えているはずです。


佐藤:たしかに2013年には2020-TwentyTwenty-という東京オリンピックにむけたグループを作るという構想もありましたよね。本でも触れられているように、歴代グループがバレーボールのサポーター的な立ち位置を務めたり、原点が野球チームであったりとスポーツとの関わりが深いジャニーズだからこそ、オリンピックでの活躍は期待してしまいます。日本のダンス&ボーカルグループ陣とのエンターテイナー共演も見てみたいですし、ジャニーズが一体となって盛り上げてくれたらうれしいです。


太田:それでいうと、最近のテレビ番組ではグループの枠を越えて共演するパターンが増えています。ジャニーズという大きな集合体がクローズアップされつつあるというか。『リトルトーキョーライフ』(テレビ東京系)のHey! Say! JUMPとジャニーズWESTのように、2つのグループがレギュラーを交互にやるものはすでにありますが、複数のグループがしっかり組んだ番組ができていくのではと期待を込めて思っています。


佐藤:年末年始の『ジャニーズカウントダウン』の中継や特番『元日はTOKIO×嵐』のようなTHE・ジャニーズのお祭り感は見ていて楽しいです。


太田:特番ではなくレギュラー的な番組があってもいいなと思います。Jr.ブームの時代には『8時だJ』などもありましたし。それぞれのグループのファンがいるので混じり合ってしまう感じになるのはイヤだという方もいらっしゃるかもしれませんが、テレビの企画・番組としてやる意義はあるように思いますね。


佐藤:個人的にはTOKIO、KinKi Kids、V6が阪神淡路大震災で立ち上げたJ-FRIENDSにはいつか復活してほしいと思っていて。鬱屈とした世の中をジャニーズの力で盛り上げようという働きは、震災を自分ごととして捉えるきっかけにもなりました。東日本大震災や熊本地震など大きな災害の時にはSMAPが支援を呼びかけてくれましたし、彼らの団結力には人を動かす力があります。


太田:次はどのグループの冠番組が始まるのかということも楽しみではありますが、やはりジャニーズ全体で魅力を出していくような展開も期待したいですよね。個々人が隙間産業のようにいろいろな番組に出ていくのもおそらくキリがないですし、先ほどもお話したように原点である歌とダンスにも注力してほしいなと。『ザ少年倶楽部』(NHK BSプレミアム)もありますが、地上波などでも歌やダンスを見せる機会がもっとあってもいいのではとは思いますね。


佐藤:舞台のエンターテインメントを目指して立ち上げられたジャニーズが、気づけば舞台とテレビが両輪になって活動していくようになりました。この先、もう一つの車輪としてネットが加わる時代がやってきそうな機運にありますが、それについては太田さんはどのようにお考えですか?


太田:舞台やコンサートに関しては、動画サイトでジャニーズチャンネルを開設したり、ライブ生中継をやるという手もありますよね。AKBグループやハロプロなど、女性アイドルはライブの生中継も当たり前になってきていますし。また2020年の東京オリンピックを意識するのであれば、なおさら世界に発信するためにネットは不可欠です。ネットを使うにしてもそれぞれの棲み分けがしっかりできれば連携できるはずです。テレビと舞台は連動しづらいですが、ネットと舞台、ネットとテレビは連動しやすい。ドラマでもスピンオフをネットで展開するという試みが始まっていたりしますよね。ネットを使った展開は今後さらに楽しみではありますね。


佐藤:Hey! Say! JUMP以降の人数の多いグループにはネットは合っているかもしれないです。テレビでは一人一人がカメラに抜かれる機会が少なくても、ネットを使うことでそれぞれのメンバーに光があたりやすくもなりますよね。


太田:テレビ番組のジャンルがそうなっていったように、今後はメディアの壁もボーダーレスに捉えていったほうがよいはずです。業界の事情はあるかもしれませんが、視聴者にとってはより楽しみが増えたほうがありがたい。テレビとラジオとネットが連動していくことで、違うかたちの楽しみ方がどんどん広がってほしいです。


佐藤:ライブ配信やネットラジオなど、様々なコンテンツとジャニーズをかけ合わせたら、“こんなこともできるのでは?”、“あんなことも面白そう”という想像はどんどん膨らみますね(笑)。最後に『テレビとジャニーズ』をどのような方々に届けたいですか?


太田:Webで連載していたコラムがベースなので、ぱらぱらと見ていただいてなんとなく目にとまったところから楽しんでいただければこの本の役割はとりあえず果たせるかなと思っています。そのうえでジャニーズが様々なジャンルのテレビに出ているのはどういうことなのか? ということを考える手助けになればいいなと。ジャニーズのファンの方々には、放送を終了してしまった番組も含め、年表や総論とともに振り返りながら楽しんでもらいたいです。一方でジャニーズに対してネガティブな先入観がある方にとっては、ポジティブに捉えるきっかけにもなるのではと期待しています。なので、ファンではない方にもよければ手にとってもらいたいですね。ちょっと裏話的なことになりますが、性格的にゴールを決めずに書き始めるのが好きなんです。そのほうがどういう結論にたどり着くのかと自分でワクワクしながら書き進めることができる。今までの本もそのように書いているので、今回も変わらないスタンスで書きました。編集者の方は書き手のことをよく見ていて、こんな感じのものが書けるのではと提案してくれなければ書けなかった回も中にはあります。そういう意味では、コミュニケーションの産物とも言えますね。また、資料として最後にある年表は編集の方に作っていただいたのですが、眺めているだけで楽しくこれがあってこそ良い本になったなと思っています。ですので、特にジャニーズファンの方は、テレビでジャニーズ番組を見る時は、一人一冊、一家に一冊、お供にしていただきたい、というのが欲張りな願いです(笑)。ファンの方にも個々にいろんなスタンスはあると思いますが、それぞれの思いを膨らませるために役立てていただけると嬉しいです。