■目標金額は4億円超、女性主導の劇場を作る
#MeTooやTime's Upといった女性たち主導の運動が広まる中、ロンドンの演劇界では新た なキャンペーンが展開されている。
女性を中心としたグループがロンドンの老舗劇場であるシアター・ロイヤル・ヘイマーケットを買収して女性主導の劇場にしようと呼びかけ、資金を募っているのだ。
キャンペーンを始めたのは、「Accalia Arts」という団体。2016年にパフォーミングアーツの世界の女性たちによって作られたオンラインフォーラム「Bossy」から派生して結成された。
彼女たちが買い上げようとしているシアター・ロイヤル・ヘイマーケットはニューヨークのブロードウェイと並ぶロンドンの劇場地区ウエスト・エンドに位置する。1720年開業で同エリアに現存する劇場としては3番目に古く、過去にはオスカー・ワイルド作品の初演が上演されるなど歴史のある劇場だが、今年1月末に現在のオーナーが劇場を売りに出すことが報道されていた。売却金額は公表されていないが、Accalia Artsでは300万ポンド(約4億4700万円)を目標金額に掲げ、クラウドファンディングを行なっている。
■女性主導の作品を促進し、サポートする
「#bossybuyout」「#slaymarket」のハッシュダグで支援を呼びかける同キャンペーン。クラウドファンディングのページでは「女性主導の作品を促進し、サポートすること」とこの運動の目的を説明。女性たちのエネルギーが盛り上がっている最近の動向や、#MeToo、Time's Up、#blacklivesmatterといったムーブメントなどを背景に、強固なアートプラットフォームによって変化を呼びかけ、その動きを支えるために彼女たちは1つになったと綴っている。
そしてこのキャンペーンの数ある目的の中でも、女性たちの社会的地位や扱い、力のなさに変化を起こそうというクリエイティブな気運を盛り上げ、鼓舞するために団結することが一番の動機だとしている。
■発起人が語る「やってみないと成功はない」
キャンペーンの発起人の1人であるナタリー・ダーキンはCINRA.NETの取材に対し、「『やってみないと成功はない』の精神で始めました。不可能に見えるかもしれない。でも不可能(Impossible)という言葉自体が『私はできる』(I'm possible)と言ってるでしょ」と語る。
また彼女たちを動かした、イギリスのパフォーミングアーツの世界における男女格差の現状については「#MeTooやTime's Upはイギリスでも広まっていて、変化を求める空気が現れています。舞台上の男女比も2対1だし、演劇界での男女比率は不均衡です」。
だからこそ「誰も排除することなく、多様性があって開かれたパフォーマンスのためのスペースのある、アートコミュニティーのハブを作りたいのです」と劇場を買収する運動の意図を強調した。
■500人超から160万円の資金集めに成功
クラウドファンディングはキャンペーン開始から約1か月が経って、現在までに約1万1,000ポンド(約164万円)が集まっている。300万ポンドにはまだまだ道のりが長いが、それでも大きな金額だ。資金を援助した人は500人を超える。
ダーキンは「これまでに素晴らしい反応をもらっています。多くの女性や男性が支援し、寄付をしてくれました。それが5ポンドでも250ポンドでも、私たちの信念に共感してくれたってことですから」と手応えを明かす。
そしてこの一見途方もないキャンペーンで、何をもって「成功」とするのかという問いに対しては「400人を超える人々が、女性主導のアートスペースを作ることを支持してくれたという事実だけでも、ある意味キャンペーンはすでに成功していると言えると思います」と語ってくれた。
彼女たちは今後もワークショップやフラッシュモブなどのイベントを通してファンドレイジングを行なっていく予定。成功した場合は女性主導でありながら、劇場運営に男性の意見も取り入れていくとしている。またクラウドファンディングが目標金額に満たなかった場合は、他の劇場やフェスティバルと連携しながら、集まった資金を女性主導のアート界の取り組みに提供するという。