2018年02月27日 09:42 弁護士ドットコム
会社の経費を使って、海外で遊び、私物の購入や飲食をする。そんな上司を持った人が、「会社上司の経費濫用に歯止めがかからず、法律的に抑制できないものかの相談です」と、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに質問を寄せた。
【関連記事:「田中の対応最悪」社員名指しの「お客様の声」、そのまま社内に貼りだし公開処刑】
問題の上司は、海外での商談の際「実際のアポイントよりも数日前に海外入りし、会社の経費で滞在する」、「会社の経費で商談とは関係のない私物の購入や飲食を行う」、「部下との食事会で割り勘にし、その領収書を後日会社経費として精算する」、「航空券のグレードを会社の経費で無断にアップグレードする」などの行為をしている。
この上司は、部長クラスであるため、経費はしっかりと確認されることもなく、承認されているそうだ。この上司の行動には、法的な問題行為はないのか。部下はどう対応するべきか。金井英人弁護士に聞いた。
「結論から言えば、問題の部長の行為はいずれも『業務上横領罪』または『詐欺罪』にあたる可能性があります。業務上横領罪も詐欺罪も、刑罰は『10年以下の懲役』と重いものです」
金井弁護士はこのように指摘する。
「そもそも、会社の経費は会社の事業目的のために使われるべきものですから、経費をどのように使えるかについてはおのずと制限があります。部長などの役職にあるからと言って、会社が認めた使い途を無視して自由に使えるものではありません」
横領や詐欺とは、どのような違いがあるのか。
「『横領』とは、ある任務のために他人から預けられて手元にある他人の財産を、不法に自分のものにしてしまうことをいい、『詐欺』とは、他人を欺いて他人の財産を自分に交付させることをいいます」
今回の件では、具体的にはどう判断されるのだろうか。
「会社から商談のための出張経費として事前に預かった現金などを、商談のために必要な使途以外の目的で自分の利益のために使ってしまった場合、『業務上横領罪』(刑法253条)にあたるといえます。
また、会社の業務としてではなく自分のために支出したお金の領収書を会社に提出し、そのお金を会社から経費として受け取った場合、それは会社を欺いて財産を交付させているのですから、『詐欺罪』(刑法246条1項)にあたるといえます」
このような点から、問題の部長の行為はいずれも「業務上横領罪」または「詐欺罪」にあたる可能性があると金井弁護士は指摘する。では、刑事罰に問われる可能性もあるのだろうか。
「業務上横領罪も詐欺罪も、刑罰は『10年以下の懲役』と重いものです。会社が部長のそうした行為を問題視した場合、会社に告訴され刑事罰に問われる可能性は十分にありますし、会社から、着服したり、騙し取ったりして会社に与えた損害の賠償を求められることになります。もちろん、懲戒事由として解雇などの重い懲戒処分を受けることにもなりえます」
では、部下はどう対応すべきか。
「上司の法令違反行為に会社が気づいていないのであれば、コンプライアンス窓口に通報することなどが考えられますが、残念にも上司から後で思わぬ報復を受けるケースもなくはありません。自分の身を守りながら上司の不正を正すためにも、個別の状況に応じた適切な通報の方法を事前に弁護士に相談すべきです」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
金井 英人(かない・ひでひと)弁護士
愛知県弁護士会所属。労働事件、家事事件、刑事事件など幅広く事件を扱う。現在はブラックバイト対策弁護団あいちに所属し、ワークルール教育や若者を中心とした労働・貧困問題に取り組んでいる。
事務所名:弁護士法人名古屋法律事務所
事務所URL:http://www.nagoyalaw.com/