ウインターリーグ制で開催され2年目のシーズンを迎えたTCRミドルイースト・シリーズの最終戦が2月24日にバーレーン・インターナショナル・サーキットで開催され、ドイツ出身の17歳ルカ・エングストラーが悪天候をモノともしない走りで、見事TCR史上最年少王者に輝いた。
アブダビ、ドバイなど中東を中心に開催され、ヨーロッパ勢の冬季トレーニング的な位置付けにもなるこのTCRシリーズに、昨年から引き続きドイツ勢として遠征するリキモリ・チーム・エングストラー。代表を務める元WTCC世界ツーリングカー選手権ドライバーのフランツ・エングストラーの子息で、フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCRをドライブする17歳のルカは著しい成長を披露している。
2年目のTCR中東に向け今季年明けのドバイ24時間レースTCEクラスを制すると、このウインターリーグのTCRミドルイーストでもここまで4戦2勝と、絶対的な強さで初タイトルに向け邁進。
最終戦バーレーンに乗り込んだルカは、彼自身が表現するところの“フルアタックモード”で臨んだ予選で、その宣言通りのポールポジションを獲得。サクセスバラスト30kgを搭載したゴルフGTIながら、その影響を感じさせないほどのスピードを見せつけた。
しかしその夜に、この地域には前例のない異変がサーキットを襲い、夜間から翌日にかけて激しい降雨量を記録するスコールが来襲。その雨雲はレース1スタート時にもトラック上空に居座り、砂漠地域で誰も経験したことのない“ウエット宣言”という、難しいコンディションでのスタートを迎えることとなった。
降雨ナイトレースというシビアなコンディションのため、ペースカー先導のフォーメーションラップが2周追加されて始まったレース1は、そのエングストラーが先頭のクリアな視界を活かして盤石のスタートを切る一方、セカンドロウにつけていたカイ・ジョーダン(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)と、ルカのチームメイトであるフローリアン・ソーマ(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR)がスロースタートとなり、ルカとタイトル争いを演じるライバル、ピットレーン・コンペティションのジャコモ・アルト(アウディRS3 LMS)や、同チームのロレンツォ・ベリア(フォルクスワーゲン・ゴルフGTI TCR DSG)が先行。
先頭を行くルカをこの2台が追いかける展開となるが、5周目にはさらに雨脚が強まる難コンディションに。その状況変化を逆手にとって、さらにペースを上げる巧さを見せたティーンエイジャーのルカは、2番手ベリアとのギャップを5秒にまで拡大。
そのリキモリ・チーム・エングストラーのセットアップの正しさを印象付けるかのように、スタートで遅れていたソーマのゴルフも雨量の増加で勢いを取り戻し、8周目にはアルトを、12周目にはベリアを仕留めて2番手に浮上。そのままシーズン2度目となるワン・ツー・フィニッシュを飾り、チームメイトとしてルカの初戴冠に華を添えた。
「僕にとっては完璧な夜になった。TCRミドルイーストのタイトルを獲得できるなんて、本当に最高の気分だ」と、父フランツと抱き合い喜びを語ったルカ・エングストラー。
「トラックの状況は本当に厄介で、この地域に望む天候ではないクレイジーな経験になったけど、マシンは本当によく機能してくれた。セットアップは完璧で、雨脚が強まってもゴルフを本当に信頼してドライブすることができたし、ウエットが全然怖くなかったよ」
一方、終盤のバトルでベリアを仕留め3位表彰台を確保したアウディRS3 LMSのアルトは、ソーマをかわしてランキング2位浮上に成功。
しかし、レース1の結果によりタイトルが確定したことと、レース後さらに強まった雨の影響でトラックコンディションが悪化したこともあり、レースダイレクターは全ドライバーとの協議の上でレース2のキャンセルを決定。中東のモータースポーツ史に残る波乱づくめの最終戦となった。