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「秘密裏の解決では改善しない」労働審判の「口外禁止条項」、労働弁護士が批判

2018年02月26日 10:42  弁護士ドットコム

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「和解するかわりに口外するな」。労働審判や裁判などでこのような趣旨の要求が相手方(被告)からあり、申立人(原告)側としては仕方なく、合意に応じることがある。長い時間をかけて交渉をし、ようやく和解が整いつつあるなか、こうした口外禁止条項があるからといって、はねのけるには勇気がいるだろう。そうした心境を相手方が見透かしている面もあるようだ。


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一方、もめた問題を内々に解決したとしても、どのような点が問題で、どのように和解に至ったかなどという点を対外的に明らかにできなければ、第2、第3の類似問題が起きて、さらに被害者が生まれかねない。こうしたことを考慮して、口外禁止条項を受け入れずに和解に応じないという選択肢もある。


2月16日、長崎県弁護士会の中川拓弁護士はTwitterで、自らが担当する労働審判の調停(和解協議)に関して、相手方(会社)が求める口外禁止条項を拒否したら調停が決裂し、裁判官がのちに出した労働審判の主文で口外禁止条項がついたことを明らかにした。口外禁止条項がもつ問題点について、中川弁護士に聞いた。


●「秘密裏の解決」を助長しているおそれ

ーー今回どのような点が問題だと感じていますか


「今回、労働審判で口外禁止が命じられたのは大問題です。まず制度上の問題点として、労働審判委員会という『国家権力』と言っても過言ではない存在が、市民に対し、特定の事実を『口外するな』と命じる権限があるのでしょうか。


労働者にとって、労働審判は今後の人生を左右する一大事です。そんな重要な出来事を今後一生、正当な理由がなければ誰にも話せなくなるというのは人権侵害だと思います。労働者側の傍聴を認めない運用とあいまって、『迅速な解決』という労働審判の趣旨が、『秘密裏の解決』に捻じ曲げられているように思います」


ーーそもそもどのような事案だったのでしょうか


「今回の事案は、会社の労働環境に不満のある労働者数十人が会議をし、唯一PCを使えた申立人が内容をまとめ、『要望書』を作成したところ、申立人が『反旗を翻した首謀者』と目されて雇止めにあったものです。


労働審判委員会は、雇止めを無効とし、バックペイ(解雇されてから現時点までの本来支払われるべき賃金相当額)満額に慰謝料まで含めた金額で和解をあっせんしました。このような事案で口外禁止を入れれば、申立人の勝利解決は社内では隠蔽され、雇止めを恐れて誰も会社に物を言えなくなります」


ーー新たな被害者が出かねないですね


「はい。新たに不当な雇止めが起きても、諦めて泣き寝入りすることになってしまいます。労働審判委員会は、本来、申立人の名誉回復措置こそ会社に命じるべきであるのに、口外禁止条項により、違法行為の隠蔽と会社のその後の労働環境の悪化に加担しているのです」


●口外禁止条項を軽く考えるのは問題

ーー当事者双方が合意して盛り込まれる場合はいかがですか


「今回は審判で口外禁止が命じられましたが、和解の場で当事者双方が合意して口外禁止条項を入れる場合でも、例えば『みだりに口外しない』と表現されることがあります。この『みだりに』とはどのような場合なのか、口外して会社に影響が生じた場合にどのような賠償責任を負うのかなどは全く不明確です。


裁判官は口外禁止条項を『紳士条項』として軽く考えることがありますが、当事者にとっては、人生の一大事について曖昧・不明確な義務を一生負わされる重大なものです。和解時に口外禁止を入れる場合でも、義務内容を可能な限り明確化すべきだと思います」


(弁護士ドットコムニュース)



【取材協力弁護士】
中川 拓(なかがわ・たく)弁護士
大阪出身。2007年大阪弁護士会で弁護士登録。2012年結婚を機に妻のいる長崎に転居し,長崎県弁護士会に登録換え。同会の労働と貧困に関する委員会委員長。日本労働弁護団常任幹事。九州労働弁護団幹事。労働者側の労働事件が多い。

事務所名:諫早総合法律事務所
事務所URL:http://isahayasogo.web.fc2.com/index.html