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橋本愛、視聴者の心を掴んだ大粒の涙 『西郷どん』難役・須賀を好演

2018年02月26日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

 『西郷どん』(NHK総合)第8回「不吉な嫁」は、先週に続き、西郷吉之助(鈴木亮平)の嫁となった伊集院家の須賀(橋本愛)がキーパーソンとなる回だった。島津斉彬(渡辺謙)から江戸へのお供に選ばれた吉之助に家族は歓喜するものの、須賀だけは江戸行きに反発する。その理由は、支度金に30両もの大金が必要であり、貧しい西郷家にはとても用意することができる額ではなかったのだ。


 西郷家は吉之助の江戸行きのため、死に物狂いで金をかき集める。しかし、須賀は無駄だと言い切り、里へと帰ってしまう。友人の大久保正助(瑛太)をはじめ、西郷家による努力の甲斐もあり、資金を確保し江戸行きが決定した吉之助。そこに、須賀が父とともに西郷家を訪ね、離縁を申し入れてくる。「須賀は吉之助にはふさわしくない未熟者」「妻にはなったが西郷家の子守にはなったわけではない」「貧乏は嫌だ」と父が須賀の代わりに吉之助へと離縁の理由を伝える。「ほんのこて、わがままで悪うございました」と須賀が口を開くと、父が餞別という名の手切れ金を渡す。須賀は「こいで綺麗さっぱい夫婦の縁を切りもんそ。江戸でん、どこでん行って勝手に出世してたもんせ。あぁ、清々した!」と最後に感謝の言葉を伝え、そそくさと西郷家を去る。そんな須賀の後ろ姿に吉之助は「あいがとなぁ」と小さく言葉をかける。吉之助は、須賀の“本当の気持ち”に気付いていたのだ。


 須賀は、帰路に本当の気持ちを父へと伝える。「私はあげな優しか男は見たこっがございもはん。優しくて、温かくて……」「優しすぎっとじゃ。一緒にいたら離れられなくないもす。江戸へ行くなち、引き止めてしまいもす。あん人の優しさは自分の身を捨てて、相手の気持ちになってしまう」と手切れ金を渡し、須賀はあえて自分から身を引いたのだ。「日本一の婿殿をこっちから離縁してやいもした!」とつよがりを見せるが、須賀は大粒の涙を流し始める。それは、西郷家では出さない素直な表情だ。


 吉之助との夫婦生活を振り返れば、正助の謹慎解除の知らせに喜び、頼まれた鰻取りを向かうことをすっかり忘れた吉之助に、須賀が「我が家の晩御飯の鰻は?」と呼びかけ、「おー! そうじゃったー!」と吉之助が須賀の両頬をグリグリする。その様子からは、仲睦まじい夫婦の関係が伝わってきた。江戸行きを諦めた吉之助と正助がぶつかり合ったときには、須賀は「旦那さぁは、私のために江戸行きを諦めてくれたとでございもす! 夫婦のことに他人は口を挟まんで欲しいとか!」と仲裁に入った。そんな須賀を「こげな嫁」と馬鹿にする正助に、吉之助は再び殴りかかり、その優しさをはっきりと表していた。さらに、貧しい大所帯の家に来たにも関わらず、須賀は「貧しさは恥ではございもはん」と言い切り、吉之助と亡き母・満佐(松坂慶子)を安心させた。この言葉があって、吉之助は離縁を切り出されても、須賀を信じきることができたのだ。


 能面と例えられる表情が多い中で、繊細で複雑な須賀という難役を務めた橋本愛の好演が光る回であった。満月が浮かぶ橋の上で号泣する、感情溢れる橋本の演技は多くの視聴者の心を掴んだことだろう。第9回「江戸のヒー様」で、舞台はついに江戸へ。華やかな新キャラクターが続々と登場する中、注目はタイトルにもある“ヒー様”こと謎の男(松田翔太)。吉之助が江戸でどのような成長を遂げていくのかも見どころだ。(渡辺彰浩)