トップへ

和楽器バンドは日本の伝統芸能を牽引する存在に? 国内外から注目されるエンターテイメント性

2018年02月23日 10:32  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 和楽器バンドが1月27日、横浜アリーナにて『和楽器バンド 大新年会2018横浜アリーナ ~明日への航海~』を開催した。2014年からスタートした同企画は、今年で連続5回目の開催となる。作品のリリースツアーなどのライブとは異なり、これまでの和楽器バンドの集大成を示すと共に、ファンとバンドの新しい1年の幕開けを祝うようなエンターテイメント性の高いステージが繰り広げられた。


参考:和楽器バンド、世界的に評価される理由は? 和と洋を掛け合わせた無二のクリエイティブを分析


 今回の舞台は、『新年会』では過去最大キャパシティとなる横浜アリーナ。約1万5000人の観客が見守る中、和船をモチーフにしたステージにメンバーが登場し、バンド初のシングル曲「雨のち感情論」でライブは幕を開けた。


 鈴華ゆう子(Vo)、町屋(Gt)、亜沙(Ba)、山葵(Dr)、黒流(和太鼓)、蜷川べに(津軽三味線)、神永大輔(尺八)、いぶくろ聖志(箏)の8人からなる和楽器バンド。和楽器バンドが他のグループと大きく異なる点は、その音楽活動が日本の芸能文化の啓蒙や発展を担っていること。ライブの序盤、まず観客の視線を釘付けにしたのは「風雅麗々」「吉原ラメント」「反撃の刃」と続けたパート。「風雅麗々」で蜷川べにが大人数の三味線隊(津軽三味線 京極雀会)と共に登場し、軽快なソロ演奏や三味線セッションを披露すると、それに続く形で鈴華と剣舞隊(日本壮心流剣詩舞道)による殺陣が行われた。


 蜷川べにと三味線隊が音を打ち鳴らすと観客は息を飲み、鈴華と剣舞隊の豪快な舞に圧倒される。日本の伝統芸能をパフォーマンスに取り入れながら、華々しいエンターテイメントショーをアリーナクラスで繰り広げられるのは、和楽器バンドの他にいないだろう。その流れから畳み掛けるように披露した「雪影ぼうし」では、観客が一様に高揚していることが伝わってきた。


 日本の伝統的な和楽器とロックサウンドをミックスした音楽性は、そのユニークな和装と相まって国内に留まらず海外でも高い注目を集めている。2016年には米国の大手コンサート制作会社「ライブ・ネイション」からオファーを受けてライブを行い、同年にアメリカツアーも開催。そのほか、東洋のエッセンスが色濃く反映されたMVは軒並み高い再生回数を誇り、そこに寄せられているコメントを見ても海外リスナーを強く惹きつけていることがわかる。「日本古来の伝統芸能である詩吟や舞踊、和楽器の素晴らしさを国内外に浸透させたい」という考えから結成されて5年、その言葉通り、世界に向けて日本文化の魅力を伝えている稀有な存在になったと言える。


 2003年にリリースされ、現在も中国や台湾で愛聴され続けている「東風破」のカバーでは、日本語訳詞を担当した一青窈がゲストとして登場。中華圏古来の音楽を感じさせるメロディに乗せて、鈴華と一青窈が美しい歌声を会場に響かせた。続くバラード曲「郷愁の空」は尺八とアコースティックギターのみで演奏が行われると、鈴華と町屋のツインボーカルが光る「シンクロニシティ」を披露。激しいロックからフォーキーなバラード、さらに大正ロマンをイメージさせるジャズポップスまで、和楽器バンドの音楽性の広さ、和楽器が持つ可能性に筆者も驚きを覚えた。


 黒流がひとりステージに姿を見せると、身の丈以上の大きさの太鼓を長棒で打ち鳴らす。黒流の太鼓さばきと炎の演出に圧倒されるのも束の間、そこへ太鼓隊とダンサーが流れ込み「海戦乱打」がスタート。そこから「戦-ikusa-」を続けると、体の芯から響く太鼓の音色と激しく舞い踊るダンサーがステージ上でシンクロし、心身を鼓舞するような衝撃を生み出した。音と音が弾けあい、肉体が躍動する様は、もはやライブではなく祭を見ている感覚に近い。本編ラストには、桜の花弁が舞い散るようなピンク色に包まれた会場で、和楽器バンドの代名詞ともいえる「千本桜」を披露した。


 津軽三味線隊、剣舞、太鼓隊など、和楽器バンドに様々な要素をプラスして作られた今回のステージは、いつも以上に日本の伝統芸能を強く感じられるものになっていた。MCで鈴華が「『日本のバンドといえば和楽器バンドだ』と言われるようになりたい」と語っていたように、これからの飛躍によっては2020年の東京オリンピックへ繋がっていく可能性もある。


 4月25日には5thアルバムの発売も決定している和楽器バンド。2018年は新しいスタートを切る、という意味が込められている同公演のサブタイトル「明日への航海」が示すように、和楽器バンドの名前が世界を横断して広まっていくことに期待したい。(泉夏音)