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coldrain、バンドのさらなる未来を期待させる頼もしい姿 武者修行の成果発揮した武道館公演を見て

2018年02月23日 08:52  リアルサウンド

リアルサウンド

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 coldrainが初の日本武道館単独ライブ『coldrain FATELESS JAPAN TOUR in 日本武道館』を2月6日に開催した。本公演は昨年10月リリースのニューアルバム『FATELESS』を携え、同月29日からスタートした全国ツアーのファイナルに当たるだけでなく、2007年に結成され2008年11月にシングル『FICTION』でメジャーデビューを果たしたcoldrainの10周年を祝福するにふさわしい大舞台となった。


 いわゆるラウドロックにカテゴライズされる国内バンドの中で、現在も活動を続けるバンドとしては比較的早いタイミングにメジャーデビューを果たしたcoldrain。その道のりは決して順風満帆と呼べるものではなかったかもしれない。今回の武道館公演でもMasato(Vo)がMCで何度か発言しているが、デビュー当初は周りから「英詞で歌うヘヴィでラウドな音楽は売れるはずがない」と揶揄されたという。しかし、3rdアルバム『THE REVELATION』(2013年)や4thアルバム『VENA』(2015年)、そして最新作『FATELESS』はすべてオリコン週間アルバムランキングでトップ10入りを記録。『SUMMER SONIC』をはじめとする大型ロックフェスにも毎年のように出演し、気づけば日本武道館単独ライブまで実現……今の状況を指して「英詞で歌うヘヴィでラウドな音楽は売れるはずがない」と言う者は、もはやいないのではないだろうか。しかもcoldrainは2013年には海外マネジメントと契約し、翌2014年からはひと足先に海外へと羽ばたいたCrossfaithに続いて本格的な海外展開も実現している。実際、その頃から彼らのライブスキルは急激に向上し、邦楽/洋楽の壁を一切感じさせない個性的な存在へと進化……つまり、今回の武道館公演はツアーファイナルや10周年のお祝いという事実以上に、ここ数年の武者修行の成果を最高の環境で見せつける絶好の機会でもあったのだ。


 これまでもラウド系のバンドが武道館でワンマンライブを実施しているものの、coldrainはどんなステージを見せてくれるのか。そんな期待を胸に会場入りすると、開演時間10分前になったところでステージ後方のスクリーンに表示されたカウンターがカウントダウンを始める。そのカウンターが1分を切ったところで会場のざわつきは大きくなり、0と同時に暗転。ステージ後方に設置された5面におよぶスクリーンには「THE TIME HAS COME」「20180206」の文字が表示され、coldrainの面々がさまざまな手段で武道館へと向かう映像が映し出される。最後に「ARE YOU READY?」の文字とともに5人が武道館前に到着した場面で映像が終わると、ステージにはメンバー5人が登場し、Masatoの「ブドーカン! やっちゃいますか!」を合図に「ENVY」からパワフルにライブをスタートさせた。この日はアリーナエリアがいくつかにブロック分けされていたが、オーディエンスはそんなことお構いなしにジャンプやモッシュ、クラウドサーフで興奮を表現する。そんな観客を前に、coldrainの面々はダイナミックな歌と演奏を繰り広げていった。


 この日のライブを観て驚かされたのは、ステージ上が意外にもシンプルだったこと。だからといって決して地味なわけではない。とにかく演奏と映像のシンクロ具合が絶妙で、なおかつその映像のセンスの良さに改めて驚かされた。曲によってはMVなどの映像をそのまま同期させたり、あるいはメンバーが歌い演奏する姿が映し出されたりし、ライブ会場にいながらして豪華な映像作品を目の当たりにしているような錯覚に陥る瞬間すらあった。


 さらに、この日のバンドのパフォーマンスも非常に完成度の高いもので、Masatoの歌声は最後の最後まで疲れを見せることはなく、フロントマンとして堂々とした姿を見せ続けた。それはトリッキーなギタープレイで視覚的にも聴覚的にも楽しませてくれたY.K.C(Gt)、パワフルなリフワークとコーラスで華を添えるSugi(Gt)、同じくコーラスの要であると同時にアグレッシヴなパフォーマンスとシャープなベースでボトムを支えるRxYxO(Ba)、叩き出す1音1音がヘヴィなバンドのエンジンKatsuma(Dr)も同様で、なぜ彼らが武道館までたどり着くことができたのかが納得のいくプレイを存分に味わうことができた。


 セットリストに関しては『FATELESS JAPAN TOUR』と謳っていることから最新作『FATELESS』の楽曲を中心に進行していくのだが、そこにデビューシングル『FICTION』をはじめ過去の代表曲と呼べるような人気ナンバーを織り交ぜており、coldrainがこの10年でどのような進化を遂げたのかが伝わる内容となっていた。中でも、この武道館公演のために用意されたストリングス隊を交えたパートでは、「STAY」「UNINVITED」「RUNAWAY」の3曲でコラボレート。「STAY」「UNINVITED」はアルバムでの世界観が再現されており、特に繊細さとダイナミックさを兼ね備えた「UNINVITED」はどこかLed Zeppelinのような神秘性すら感じさせ、このバンドの新たな可能性が垣間見えた気がした。


 さらにその後には、アコースティックスタイルで演奏するパートも用意。Masatoは「10年やってきて、いろんな人と出会って、一緒に遊んでくれてライブもやってくれた仲間が増えたと同時に、いなくなったアーティストもいたりして。いつか追い越してやろうと思ってたけど、甘く見てるといなくなってしまうんだなって痛感しました」と語ると、「ラウドロックという音楽を教えてくれたPTP(Pay money To my Pain)のKだったり、Linkin Parkのチェスター(・ベニントン)だったり、去っていった人に1曲贈らせてください」と「Confession」をエモーショナルに歌い上げた。また、オーディエンスにスマートフォンのLEDライトを点灯することを促すと、さらにもう1曲「THE STORY」を披露して場の空気を和ませた。LEDライト点灯の際にMasatoは「昔はライターだったけど」と発言していたが、それは80年代のHR/HMバンドのライブでバラードナンバーを披露する際、観客が点火したライターを掲げる場面をイメージしたのだろう。先のストリングス隊との共演やアコースティックパートなどは、往年のHR/HMのスタイルと共通するところも多い。かと思うと、ポップな映像を巧みに使い演奏と同期させる現代的な手法も積極的に取り入れている。ただ激しいだけではない、いろんな可能性を秘めたこのスタイルこそが、他のラウドロックバンドとは異なる“coldrainらしさ”なのではないか……この日を通じて、改めてそんなことを実感させられた。


 ライブ本編は最新アルバム『FATELESS』のラストトラック「A DECADE IN THE RAIN」だった。バンドの10年間の軌跡を振り返りつつも、この先も歌い続けることを宣言するこの曲でライブを締めくくることは非常に納得のいくものだが、歌詞の内容を把握してこのライブに臨んだ筆者は「この曲、この武道館公演のために作られた曲なんじゃないだろうか」と深読みをしてしまった……それくらい、あの環境、あのシチュエーションにマッチした1曲だった。昨年4月に発表された武道館単独公演。バンドはその日に向けてツアーやレコーディングを続けてきたが、この武道館はそのゴールではない。節目であることには違いないが、これは今後も続いていくcoldrainの快進撃におけるひとつの通過点に過ぎない……そんな頼もしさがしっかり伝わってくるパフォーマンスに、きっと多くのオーディエンスが感動したのではないか。少なくとも、筆者はこの曲に涙腺が刺激されたし、ここから先の展開がより楽しみになってしまった。


 アンコールでは再びストリングス隊をフィーチャーした「The War is On」、5人のみでアグレッシヴなプレイを響かせる「Aware And Awake」を経て、Masatoの「10年間、そして最高のブドーカンをありがとう! 最後に1曲、俺たちの人生を変えた曲やります。叫んで、激しくて、英語だけの曲。ここにいるみんなには刺さるんじゃないかな?」を合図にラストナンバー「The Revelation」を披露。いつも以上に激しく、そしてエモーショナルに響くこの曲に、オーディエンスはヘッドバンギングやサークルモッシュ、クラウドサーフといったアクションで感情を表現。武道館の形状もあってか、もはやこの頃にはライブハウスと同じぐらいメンバーを間近に感じることができた。この曲を通して、バンドと観客が本当の意味でひとつになれた、そんな瞬間だったのではないだろうか。


 最後の最後、Masatoは「この先も、今日みたいな奇跡を見せてくれ!」と叫んだが、間違いなくこの日の武道館公演は奇跡の一夜だった。だけど、奇跡も続いていけばそれがごく当たり前のことになる。きっとcoldrainはこの先、こういった奇跡を常に見せてくれる存在になっていくのだろう。そして、その奇跡のレベルも我々の想像を超越したものになるはずだ。だからこそ、4月からスタートする新規ツアー『ANOTHER DECADE IN THE RAIN TOUR 2018』と、アメリカからCrown The Empire迎え開催する2マンライブシリーズ『LOUD OR NOTHING』が楽しみでならない。(文=西廣智一)