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花澤香菜が手にした“楽曲の新たな解釈” 佐橋佳幸率いる豪華バンドとの一夜を振り返る

2018年02月21日 14:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 「一聴して『なんだこりゃ』だったでしょ?(笑) 『なんだこりゃ』な人なんです!」


 花澤香菜が2月10日に東京・新宿文化センターで行ったコンサート『花澤香菜 Concert 2018″Spring will come soon”』は、佐橋佳幸率いる豪華バンドメンバーと花澤による新たな試みに「なんだこりゃ」と驚かされながら、その音楽を堪能した一夜だった。


(参考:花澤香菜、佐橋佳幸&水野良樹タッグで開いた新たな扉


 花澤のライヴといえば、北川勝利(ROUND TABLE)率いる“ディスティネーションズ”がサポートを務めるのが通例になっていたが、今回は新作『春に愛されるひとに わたしはなりたい』のリリースを佐橋が手がけたこともあり、彼の呼びかけによりメンバーが集結。バンマスとギターを佐橋が担当し、堀江博久(Key)、高桑圭(Ba)、白根賢一(Dr)、毛利泰士(Per)、三谷泰弘(Cho)、ハルナ(Cho)、ENA☆(Cho)と、J-POPシーンの手練を集めた”盤石”な面々が顔を揃えた。


 そんなサポート陣による演奏はまさに「上質」の一言に尽きる。だが、このコンサートのポイントはもう一つある。これまでの花澤香菜楽曲が、佐橋の手によって新たに生まれ変わったことだ。


 そこまでライヴ数の多くない花澤香菜だが、数年間で築いてきた「定番」や「定石」のような流れがあったことを、この日のコンサートで初めて気づかされるくらい、過去曲のチョイスと再構築によって思い知ることになった。1曲目に演奏されたのは「バースデイ」(2ndアルバム『25』収録)。この曲がスタートを飾るのは、2014年のNHKホール公演ぶりだが、花澤と3人のクワイアが声で彩る今回は、よりリッチなハーモニーで聴かせる曲に仕上がっていた。


 4曲目の「透明な女の子」は、“ディスティネーションズ”での演奏のほか、プロデュースを山崎ゆかり(空気公団)が手がけた縁もあり、過去に空気公団+オータコージ(Dr)&KASHIF(Gt)をバックバンドに歌ったこともある楽曲。今回はより佐橋のギターも映える、これまでよりもロックテイストなアレンジに変化していたのも新鮮だった。


 花澤と佐橋による軽快なトークを挟みながら、中盤のアコースティックコーナーでは「君がいなくちゃだめなんだ(Acoustic ver.)」と「Trace(Acoustic ver.)」が歌い上げられる。佐橋の伴奏のみで歌うという時点でもう卒倒ものだが、なかでもガットギターの丁寧なアルペジオが奏でられた「Trace(Acoustic ver.)」は、この日におけるハイライトといっていい。


 その後は『春に愛されるひとに わたしはなりたい』の収録曲である「ひなたのしらべ」「夜は伸びる」を堀江と佐橋の2人で、「春に愛されるひとに わたしはなりたい」をフルバンドで立て続けに演奏。どれも生音アレンジが素晴らしいものだったが、特に表題曲は音源よりもさらに奥行きのあるサウンドに仕上げられていたのが印象的だった。


 別の角度から驚かされたのは、J-POPの名曲をカバーするコーナーが用意されていたこと。しかも選んだ曲は槇原敬之の「もう恋なんてしない」。毛利が槇原のサポートをしていたり、佐橋が原曲のギターを演奏していたりと、この日の演奏陣にも縁のある楽曲だ。花澤による歌唱は、楽曲により柔らかさと優しさをもたらしていたように思う。


 本編終盤は「25 Hours a Day」、「CALL ME EVERYDAY」、「あたらしいうた」ともう一度ギアを上げる。ここまで聴いてきて、白根と高桑による“初期GREAT3リズム隊”のロックバンド的なアプローチと、堀江の攻めたピアノも、これまでの“ディスティネーションズ”とは違った解釈をもたらした要因であることに気づかされた。


 そして、アンコールはレア曲の目白押し。1曲目の「flattery?」(2ndアルバム『25』収録)は演奏すること自体も稀だが、編成も佐橋がアコギ、堀江がマンドリン、高桑がウッドベースという変則スタイル。定番曲「星空☆ディスティネーション」も、今回のバンドでは各楽器の音が攻めたアレンジに変化していたし、最後はこれまた驚きの「おやすみ、また明日」。フルバンドで盛り上げて終わりではなく、花澤と佐橋の2人でパフォーマンスし、緩やかに幕を閉じるというのも、遊び心の効いた演出だった。


 このように“ディスティネーションズ”とはまた違った形で花澤の魅力を引き出した、豪華演奏陣による一夜限りのコンサートは大成功に終わった。もう一度今回のスーパーバンドを集めるのは、なかなかに骨の折れることだろう。が、やはり一夜限りは勿体ない。できればまたどこかでもう一度、この表現を味わいたいものだ。(中村拓海)