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FOB、Son Lux、Shame……「モデルチェンジと新世代台頭」を感じる新作4選

2018年02月19日 12:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 2018年もあっという間に12分の1が終わってしまいました。1月は好リリースが盛り沢山だったうえに、今後の展開に期待したくなる新曲も届いています。後者でいうと、まずは何といってもジェイムス・ブレイクの「If The Car Beside You Moves Ahead」。彼は衝撃的なデビューを飾ったあと、記名性の強すぎるサウンドの解体/再構築に挑み続けてきましたが、今回の飛躍ぶりはこれまでにないレべル。初期の名曲「CMYK」を想起させる歌声のカットアップは、MVでも描かれているように、永遠に同じ場所を走り続けるドライブ(=未来を追い越すことのできない過去)を表現しているのでしょう。そのディストピア感も最高です。


参考:小熊俊哉が選ぶ、2017年邦楽ベスト10 作り手の意識の変化による“アップデート”感じた一年に


 あと、Yo La Tengoの次作のタイトルが『There’s A Riot Going On』(暴動!)だと聞いて痺れていたら、ジャック・ホワイトも新曲「Corporation」でスライ直系のファンクを奏でていたので二度びっくり。Talking Heads的なファンクも披露していたり、他の新曲もこれまでになく「黒さ」全開で、ニューアルバム『Boarding House Reach』はかなりの冒険作になっていそうです。Talking Headsといえば、こちらも新作『American Utopia』を控えているデヴィッド・バーンの新曲「Everybody’s Coming To My House」も素晴らしかった! ここまでの3枚は、どれも3月にリリース予定。非常に楽しみですね。


 このように大御所が次々とアップデートを重ねているのも、実に2018年っぽい光景ではないでしょうか。さらに、ニューカマーも続々と台頭している模様。そこで今回は、「モデルチェンジと新世代」をテーマに、1~2月リリースのアルバムから4枚を紹介しましょう。


 まずは、全米チャート1位に輝いたFall Out Boyの新作『M A N I A』。2000年代のエモ/ポップ・パンクを代表する人気バンドである彼らも、2013年の活動復帰後は、その範疇に囚われない意欲作をリリースしてきました。そして、今回のニューアルバムに至っては、EDMのグルーヴを取り入れた「Young and Menace」でも明らかなように、もはや原型すら留めていないレベル。セルアウトという批判もあるようですが、個人的には勇気のある一枚だと思いました。


 突然ですが、昨年もっともヒットしたロックシングルが何かはご存知でしょうか? 答えはImagine Dragonsの「Thunder」。ただし、その音はヒップホップに限りなく接近しており、ロックと言われて首を傾げる人も多いでしょう。もうひとつのロック系ヒットであるPortugal. The Man「Feel It Still」は、先日のグラミー賞で最優秀ポップデュオ/グループパフォーマンスを受賞したばかり。アラスカの生んだサイケバンドが、ここにきて「ポップ」枠でブレイクしたのは考えさせられました(非常にイイ曲ですけど)。この2曲が成功した背景には、直球のロックがメインストリームで居場所を失っている現状も関係しているわけです。


 Fall Out Boyもまた、そんなシビアな状況と立ち向かいつつ、自分たちのポテンシャルを拡張させる道を選んだのでしょう。そういう事情もあってか制作は難航したらしく、シーアも作曲陣に加えた「Champion」、獰猛なラウドロック「Stay Frosty Royal Milk Tea」、シャキーラを彷彿させるラテンポップ「HOLD ME TIGHT OR DON’T」やダンスホール調の「Sunshine Riptide」、ホーリーなゴスペル「Church」まで、多彩な収録曲にも悲壮感が漂っています。そのなかで、The Clashの「Straight to Hell」をサンプリングした「Wilson (Expensive Mistakes)」は、変わらぬパンク精神を証明する好ナンバー。かつてのThe Clashも、様々な音要素を吸収しながら「パンクの成熟」を成し遂げたわけで、Fall Out Boyも2018年のマナーを踏まえつつ、ある種の伝統を受け継いでいるのは一目瞭然。4月の来日ツアーも楽しみです。


 USからもう一組、Son Luxの新作『Brighter Wounds』も凄まじい内容でした。激情的なボーカルとオーケストレーションは、アカデミックな素養と共に、Fall Out Boyとも紐付けられそうな「エモさ」を感じさせるもの。あるいは、本連載の第3回で取り上げたThe Nationalのエレクトロニックで実験的なアプローチと重なる部分も多く、近年はプレゼンスが低下していたNYのインディロックが、今も進化していることを証明するような仕上がりです。


 もともとこのバンドは、LA出身のライアン・ロットによるソロプロジェクトが出発点で、スフィアン・スティーヴンス(インディロック)、yMusic(クラシック)、Punch Brothers(アメリカーナ)などNYの異端派と交流を重ねながら、先鋭的なサウンドに磨きをかけていきました。そんな彼らに魅了されたのが、今をときめく歌姫ロード。2014年には両者のコラボ曲「Easy (Switch Screens)」も発表しています。そして、2015年の前作『Bones』を前に、ギタリストのラフィーク・バーティアとドラムスのイアン・チャンが加入。この2人がまた凄いんです。


 クラシカルな音響表現、自由度の高いアンサンブル、静と動が織りなすダイナミズムーーポストロック的とも形容されるSon Luxの世界観は、この新作『Brighter Wounds』で完成したのではないでしょうか。その真価が遺憾なく発揮された曲が「Slowly」。現代ジャズにおけるマーク・ジュリアナを彷彿とさせるマシーナリーなドラミング、エフェクティブかつ空間を活かしたギターワーク、ジェントルかつ暴力的なプロダクションと、どこをとっても徹底した美意識を感じさせます。


 それにしても、個人的に驚かされたのはイアン・チャンのドラム。最近もPaste Magazineが「今日、もっとも革新的なミュージシャン20人」のひとりに選んでましたが(https://www.pastemagazine.com/articles/2018/01/20-of-the-most-innovative-musicians-working-today.html)、今もっともクリエイティブなプレイヤーだと思います(気になる方は、YouTubeで彼のパフォーマンス動画もチェックするべし。格好良すぎてビビります)。彼らは最近だと、映画『ラブストーリーズ コナーの涙 | エリナーの愛情』(2月14日公開)のスコアも手がけており、新作をきっかけに来日公演も期待したいところです。


 次はUKに移って、Franz Ferdinandのニューアルバムについて。このバンドが別格の成功を収めることができたのは、ビジュアルからサウンドに至るまで、コンセプトが徹底的に作り込まれていたから。そして、「Take Me Out」や「Do You Want To」の大ヒットで、フランツの代名詞となる「踊れるロック」を支えていたのは、キャッチーなコーラスワークと、歌以上に口ずさみやすいギターリフ。The White StripesやArctic Monkeysも然り、2000年代前半~中盤のロックシーンというのは、リフの鋭さで人気が決まったといっても過言ではない、大らかでエキサイティングな時代でした。


 その一方で、PoliceやBlondieと同じように、遅咲きの再デビュー組だったフランツは成熟するのも早かった。最初の2枚でブレイクしたあとは、同時代のクラブシーンにも目配せしつつ、鋭角なグルーヴのみに頼らない音作りを実践していきます。そして、原点回帰の趣も感じられた2013年の前作『Right Thoughts, Right Words, Right Action』を経て、新作『Always Ascending』では往年の鋭さが後退し、しなやかで柔らかいグルーヴが強調されるように。急ブレーキを踏んでギアを入れ替える「Take Me Out」が縦ノリなら、ディスコチックなタイトル曲「Always Ascending」はどう考えても横ノリ。「踊れる」のは一緒でも、その質はだいぶ変化しているようです。


 特に目立つのがキーボードの多用で、このあたりはメンバーの入れ替えも関係している模様。煌びやかな音色やアレンジも相まって、演奏も一層グラマラスに感じられます。ここで思い浮かぶのが、2015年にFFSとしてコラボした大先輩のSparks。「Lois Lane」や「Glimpse of Love」あたりのナンバーは、Sparksとジョルジオ・モロダーがタッグを組んだ『No. 1 In Heaven』や『Terminal Jive』の音にかなり接近している印象です。


 クラブマナーも踏まえたヨーロピアンな音作りは、プロデュースを務めたフィリップ・ズダールによる貢献も大きいのでしょう。Phoenixを世界的サクセスに導いた名手として有名ですが、「Lazy Boy」のファットで艶やかなベースラインを聴くと、インディディスコの大傑作であるKindnessの2012年作『World, You Need A Change Of Mind』での活躍ぶりも想起させられます。あと、色気を増したアレックス・カプラノスの歌声もたまりません。曲によってはスコット・ウォーカーみたいで、バラード集も作ってほしくなりました。


 フランツが2003年に台頭したとき、時代はポストパンクリバイバルの真っ只中。ただ、Mikikiの記事でも言及されているように(http://mikiki.tokyo.jp/articles/-/16708)、LCD SoundsystemやThe Rapture、!!!などのエッジーなNY勢に比べると、UKにおける同ムーブメントは上っ面だけなぞっていた感も否めず。小野島大さんが企画・監修した再発シリーズ『UK New Wave Renaissance 2004』や、コンピレーション『DJロマンポルシェ。のNEW WAVE愚連隊』を入り口に、70年代後半~80年代のオリジナルを掘っていた当時の自分は、フランツとDogs Die in Hot Carsの二組だけ大好きで、あとはまったく馴染めませんでした。愚痴っぽくなりますが、似たようなバンドばかりで退屈だったのです。


 そこから10年以上の月日が流れ、今度こそ中身の詰まったリバイバルが訪れるのかもしれません。激震地となっているのはサウスロンドン。Shameのデビューアルバム『Songs of Praise』は、NMEも満点の5つ星を進呈したフレッシュな充実作です。映画『T2 トレインスポッティング』でも楽曲がフィーチャーされていた過激派集団、Fat White Familyが拠点にしていたライブハウスで腕を磨き、Micachuことミカ・リーヴァイがMVの監督を引き受けるなど、今のロンドンが誇るアウトサイダーたちに愛されてきた平均年齢20歳の若き5人組。そのガレージサウンドは、今年1月に亡くなったマーク・E・スミス率いるThe Fallを連想させるものです。


 といっても、The Fallは日本だとピンとこない存在かもしれません。例えば、サイモン・レイノルズの名著『ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984』では、The Fallに関するくだりで「本当に不気味なヴォーカルがのった、荒々しい音楽」「白い稲光のような不協和音の襲撃」「不機嫌な頑固」などゾクゾクする形容が並んでいます。あるいは、一昔前のリバイバルでは参照元として抜け落ちていたけど、上述したロマンポルシェ。のコンピにはSucideやNapalm Deathなどと並んで収録されていました。そういう「本物」ゆえのヤバさが、Shameの音楽にもパンパンに詰まっているように思います。


 そもそも、不良っぽくてニヒルな音楽性なのに、『Songs of Praise』のジャケットではみんな子犬を抱えているという、その皮肉めいたインテリジェンスも只者ではないというか。それに、ジェイムス・ブレイクと一緒に1-800 DINOSAURを運営するダン・フォートと、彼の相棒であるネイサン・ボディが本作のプロデュースを担った点でも明らかなように、Shameは現代的な耳とクレバーさも持ち合わせている。どんなふうに発展していくのか、非常に楽しみな存在です。


 それにしても、最近はサウスロンドンに注目が集まっているようで、どこに出かけてもその話題になります。実際のところ、ポストパンクの遺伝子を受け継ぐGoat Girlのようなロック勢から、2018年の顔になりそうなトム・ミッシュやCosmo Pyke、Puma Blue、UKジャズのEzra Collectiveなど新世代がどんどん台頭しており、噴火寸前の盛り上がりを感じずにはいられません。今年のキーワードとして注目してみるのは、大いにアリだと思います。(小熊俊哉)