2018年02月19日 10:52 弁護士ドットコム
若い女性が意に反して、わいせつなビデオへの出演を迫られる「AV出演強要」。その問題を指摘した報告書(NPO法人ヒューマンライツ・ナウ)が世に出てからもうすぐ2年になろうとしている。警視庁は2月1日、業界関係者に説明を開くなど、取り締まり強化の姿勢をみせている。
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関係者からは「政府は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックまでに、AV業界をつぶそうとしているのではないか」という声が漏れ聞こえる。AV人権倫理機構ができて、業界側のルールをつくっているが、本格的な健全化に向けた取り組みはこれからだ。
AV出演強要問題について、ツイッターやブログだけでなく、リアルの「お茶会」(月1回都内で開催)で発信をつづけてきたAV業界30年の男優、辻丸さんは「業界は相変わらず思考停止状態」と指摘する。最近の業界をとりまく情勢に触れながら、この問題の本質について聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・山下真史)
――警視庁は「淫行勧誘罪」という古い法律を使ってまで、摘発を強化する姿勢をみせている。この問題に関する最近の情勢を受けて、何を考える?
この問題を指摘するHRN報告書が公表された2年前(2016年3月)からまったく変わっていません。相変わらず、AV業界側は「強要なんてありえない」「どうしたら健全化できるのかわからない」「細かいことを言い出したらキリがない」と言いつづけている。本音は、強要問題を早く消したい、嵐が過ぎるのを待っている、というもの。それでは健全化は進みません。
このままだと、AV業界は、反社会勢力や、かつてのオウム真理教と同じような末路をたどるかもしれません。結局、反社もオウムも、世間から理解されていないまま。なぜ、一連の問題・事件が起きたのか、しっかり検証することが再発防止につながるのに、「異常な連中だから、四の五の言わずにつぶしてしまえ」ということになりかねない。
――業界団体「日本プロダクション協会」が発足して、「健全化」に向けてアピールするイベント(2月7日)を開催した。辻丸さんも参加したということだが、どう見たか?
AV女優たちが壇上にあがって、シナリオ通りの言葉を言わされている印象でした。拍子抜けしました。まじめにこの問題を知りたいファンは決して少なくないと思います。なのに、どうして、そういう声に真摯に向き合わないのか。どうせ説明してもわからないという態度です。それこそ「忖度」ではないでしょうか。
ヤクザ抗争を描いた映画『仁義なき戦い』シリーズ。こんなセリフがあります。「なんら実りなき終焉をむかえ、ヤクザ集団の暴力は、市民社会の秩序の中に埋没していったのである。だが暴力そのものは、いや人間を暴力にかりたてるさまざまの社会矛盾は、決してわれわれの周囲から消え去ったわけではない」。
これは、そのままAVに置き換えることができます。建前上の市民社会の秩序に埋没していくが、AVに変わるものが出てくる。そして社会矛盾は決してなくならない。この社会矛盾の中には、男尊女卑、表現規制、貧困、性の抑圧と解放、バブル以降の日本全体を覆っている拝金主義・ビジネス優先主義などが含まれます。そういった背景を理解・議論しなければ、本質的な改善・検証は見えてきません。
――AV人権倫理機構については?
あくまで個人的な考えですが、AV人権倫理機構そのものが、業界の人たち、特に女優を蔑視しているように思えてなりません。自己決定権なんたらかんたらと言っても、僕には響かない。業界に対して血の通った思いはなく、AV自体への理解すらないまま、偏見のもとに決めたルールは、実態にそぐうものになっていないと思います。
――どうしてそう考えるのか?
現場を見ていないし、女優ともほとんど会っていないからです。AVと言っても、すべて同じような撮影現場ではありません。どういう現場があるのか知れば、それに即したルールができるはずです。僕が見聞きした限り、AV人権倫理機構のルールでは、女の子がプロダクションに入ってから出演するまで、5枚くらい書類を書かないといけない。単体女優ならわかりますが、企画の女優にそこまで手間暇かけてられないと思いますよ。
とにかくいろいろな女優に会って、彼女たちの話を直接聞いてほしい。そして、単体から企画、フェティッシュまで、いろいろな撮影現場を見てほしい。どんなジャンルがあるのか知ってほしい。目の前で撮影をみたら、人生観・考え方が変わってくると思います。
女優たちは、本物の性行為をみせています。脱ぐ脱がないのレベルじゃない。性行為をみせるという重みがあるのです。そういう現場をみれば、強要の被害者がどれだけ傷ついているか、そして自発的に出演している女優がどれだけの覚悟とリスクでやっているか、少しは想像できるでしょう。善と悪、適正・不適正、そんな単純な問題じゃないです。
――AV業界に言いたいことは?
まず、男優も女優と同じ実演家なんだから声をあげてほしい。そこに監督やプロダクションの人たちもどんどんつづいてほしい。強要を見たことないというなら、そう言えばいい。自分が感じている範囲でかまわない。何を話しても、余計なこと言いやがってと言われるんじゃないか、ほされるんじゃないか、脅されるんじゃないか・・・と心配する。それも勝手な「忖度」ですよ。
女優が一番大事と言うなら、彼女たちの盾にならないといけない。オウムのような末路になった場合、AVに対する差別と偏見が残る。それを延々と受け続けるのは女優です。その差別と偏見をどうなくしていくか。そのためには、AV問題について説明する責任が、業界の男性にあります。このままだと、業界はつぶれて、差別と偏見が残り、それを一生負い続けるのが女優、そして強要被害者ということになる。そんな構図、僕は納得がいきません。
――AV人権倫理機構は、「5年経てば、作品の販売・配信を停止する」というルールをつくった。この部分は評価しないのか?
AV女優は、風俗嬢などセックスワーカーよりも、世間からの歪んだ蔑視が強い気がしています。だから強要被害者までもが下劣なバッシングを受ける。そして、性行為が映像として残ります。仮に残らなくても、本人の身体に、記憶が残っています。本人は一生かかえて生きていく。たとえ映像が削除されても、救われない女の子は救われません。
AV女優たちは「AV村」に閉じ込められています。いざ引退しようとしたときに初めて慌てる。だから、「せめて映像は消してほしい」。だけど、過去は消えません。「せめて映像だけでも削除するしかない」というのが、強要被害者を含む彼女たちの思いでしょう。
単に「5年で削除すればいい」など、その重みが全然わかっていない。非常に機械的な対応です。血の通ったドラマがまるでみえてこない。結局、この問題とは何か、その原因はどこか、その背景は・・・そういうことが社会的に考察されないままだと、また同じようなことがかたちを変えて起きると思います。
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