2018年02月19日 10:52 弁護士ドットコム
上司によるパワーハラスメントによって、ストレスを抱え、精神疾患を患ったり、最悪の場合には自殺してしまったりする人もいる。そうした上司に限って、お偉いさんに対しては人が変わったように低姿勢を取り、「太鼓持ち」に撤する。こんな指摘がSNSで散見される。
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部下を過剰に叱責する音声記録や被害者の証言、メールなどの証拠があればパワハラだと会社に申し出て認められる可能性は高いのかもしれない。ただ、社内である以上、その上司がもみ消しに動くことも考えられる。お偉いさんの太鼓持ちに徹した効果が出る形だ。
こういったパワハラ上司が昇進していけば、管理する部下の人数は増え、さらに「被害者」が増える懸念もある。働きやすい環境を求める社員たちが、パワハラ上司のこの先の出世を阻止する合法的な手段は何かないのか。労働問題に詳しい河村健夫弁護士に聞いた。
ーーパワハラはどんな準備をして告発したらいいでしょうか
「まずは、証拠集めが大切です。パワハラの典型例である『暴言』などの証拠を、言い逃れを許さない形で集めます。録音などが出来れば最高です。小型ICレコーダーを準備し、始業前に胸ポケットに入れて録音をスタート。暴言なしの日は録音データを消せば大丈夫です。
録音ができない環境であれば、パワハラの事実を発生当日に記録化することが重要です。手帳や日記へのメモでも良いですが、おすすめは『第三者』にパワハラ事実を報告するメールを送信することです」
ーーどのように告発をすれば認められやすいでしょうか
「告発は、可能な限り複数で行いましょう。1人での告発はリスクを伴います。告発に際しては録音などの証拠を一部引用し、(1)パワハラは生産性を損ない会社にとっても損失であり、(2)パワハラを放置すれば会社が従業員に保障すべき『職場環境配慮義務』に違反することになる、と淡々と指摘することです。
告発先は人事担当部門など、なるべくパワハラ上司と繋がらないラインを選びます。まともな会社であれば、その後調査が実施され、パワハラが認定された上司は懲戒等の処分を受けることになります」
ーー会社の対応が鈍く、残念なことに見逃すことも考えられます
「会社の対応が鈍くパワハラ上司が処罰されないときには、パワハラ上司と放置した会社を相手に裁判を起こします。これで事件の隠蔽は不可能になります。
もっとも、会社相手に裁判をするのは相当の思い切りが必要です。そこで、労働組合に加入の上(信頼できる労働組合がない場合には、個人加盟の労働組合があります)、労働組合による団体交渉と弁護士による裁判を組み合わせます」
ーー裁判だけでは不十分なのですか
「パワハラでは、既に退職した方が『裁判をやって勝ちたい』と相談に来られることが多いのですが、裁判だけでは成果は少ないです。パワハラやセクハラなどの職場環境配慮義務のケースでは労働組合との『ハイブリッド作戦』が極めて有効です。パワハラに悩んでいる方は退職前に、一度その作戦を考えてみると良いと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
河村 健夫(かわむら・たけお)弁護士
東京大学卒。弁護士経験17年。鉄建公団訴訟(JR採用差別事件)といった大型勝訴案件から個人の解雇案件まで労働事件を広く手がける。社会福祉士と共同で事務所を運営し「カウンセリングできる法律事務所」を目指す。大正大学講師(福祉法学)。
事務所名:むさん社会福祉法律事務所