トップへ

TEAM GENESISのPATOが徹底分析:ジャスティン・ティンバーレイク、「スーパーボウル」ステージが成功した理由

2018年02月18日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 アメフトのNFLの優勝決定戦「第52回スーパーボウル」が、現地時間2018年2月4日にアメリカ・ミネソタ州ミネアポリスにあるUSバンク・スタジアムで行われ、その「ハーフタイムショー」にてジャスティン・ティンバーレイクが披露したパフォーマンスが、大きな話題となった。


参考:不足するライブ会場、興行側に求められる工夫は? 三代目 J Soul Brothersの成功例を考察


 「スーパーボウル」は、毎年40%を超える視聴率を誇る、全米でもっとも注目を集めるイベントのひとつで、1993年にマイケル・ジャクソンが「ハーフタイムショー」に出演して以来、ダイアナ・ロス、U2、ポール・マッカートニー、ザ・ローリング・ストーンズ、プリンス、ブラック・アイド・ピーズ、マドンナ、ビヨンセ、レディー・ガガなど、世界のトップアーティストたちがノーギャラで出演し、最先端の音楽とテクノロジーが融合した圧巻のパフォーマンスを披露してきた。


 今回、故・プリンスとの“共演”も注目されたジャスティン・ティンバーレイクのパフォーマンスには、どんな工夫があったのか。EXILEや三代目J Soul Brothersなど、LDH所属アーティストのライブ演出を手がける、TEAM GENESISのPATO氏に分析してもらった。


「まず感銘を受けたのは、レーザーがひしめく屋内の小さな空間からパフォーマンスがスタートしたこと。最初から派手な演出に頼るのではなく、“歌とダンス”そのもので勝負しようとしていることが伝わって、ジャスティン・ティンバーレイクらしい姿勢が垣間見えました。その後、手持ちカメラに向かってパフォーマンスをしながら花道に登場しますが、我々が“ワンロール撮影”と呼んでいるこの手法は、カメラスタビライザーシステムのMoviが進化したことで可能になった演出です。たとえば、楽屋からステージに登場するまでをワンカットで見せることで、アーティストのパーソナルな部分とステージでのパフォーマンスをシームレスに繋げることができ、ライブの緊張感や高揚感をより生々しく伝えられます。


 楽曲自体もDJ的にアレンジされていて、次々と繋がっていくのもかっこよかったです。ジャスティンの流れるようなパフォーマンスと完璧にマッチしていて、これは自分が演出するステージでも応用してみたいと思いました。


 メインステージに移動してからのパフォーマンスも、ジャスティンの“個としての魅力”を最大化するものでした。あれだけ大きなステージをひとりでパフォーマンスするとなると、いかにして空間を埋めるかが大事になるのですが、バンドセットも含めてLEDパネルでデザインすることで、自然とジャスティンの歌とダンスに目が行くようになっていました。ソロ・アーティストが広大なスタジアムで観客をロックするためには、どんな演出をするべきか、そのアイデアがふんだんに盛り込まれたコンセプチュアルなステージだったと思います」


 一方で、あらゆる方面への深いリスペクトも感じられるパフォーマンスだったと、PATO氏は続ける。


「中盤では、NFLのロゴの上でパフォーマンスを披露して、しっかりとゲームを盛り上げていたのも印象的でした。さらに、ハーフタイムショーの伝統に倣って、鼓笛隊とともにパフォーマンスをしていたのもポイント。自身は、スタンドマイクが動くユニークなステージに乗って、対比的に見せていたのが上手かったです。


 極め付けは、やはりプリンスとの共演でしょう。長年、プリンスのサポートを続けていたアーティストのシーラ・Eは、プリンスから生前に『僕がホログラム化されるようなことは防いでくれ』と言われていたそうで、ホログラムでの共演に反対していました。しかし、ジャスティン側はシーラ・Eと話し合いを行って和解し、結果としてホログラムを使わずにプリンスとの共演を果たしたのです。演出が変更となったのは直前だったにも関わらず、巨大な布製のスクリーンにプロジェクターで映像を投射するというアイデアは素晴らしく、布が風に揺れることさえ演出の一部として活かしていたのには感動しました。また、この共演に合わせて街が紫色の明かりで染まっていく演出は、プリンスの生まれ故郷であるミネソタ州ミネアポリスだからこそ実現したもので、プリンスが街の人々にリスペクトされていなければ成り立たなかったものだと思います。


 テクノロジーの進化が、ライブ演出をさらに刺激的で面白いものにしていくのは間違いありません。しかし、大胆なアイデアや人を楽しませようという気持ちなどもまた、とても大切な要素であることを再確認しました」


 日本でも、2019年にはラグビーワールドカップが、2020年には東京オリンピックが控えており、スタジアム規模でどんなショーが披露されるのか、期待が高まるところだ。


「1993年のマイケル・ジャクソン以降、『ハーフタイムショー』はシアター型のパフォーマンスとして洗練を重ねてきた歴史があり、テクノロジーの面でも費用の面でも、簡単に真似ができるものではありません。しかしながら、前述したようにアイデアや気持ち次第で、人を感動させるショーを作り上げることはできます。たとえば、僕が所属するLDHのライブでは、LEDによる照明技術とダンスを組み合わせた『SAMURIZE from EXILE TRIBE』のパフォーマンスが人気を博していますし、可動式のステージを人の手によって動かすことで、これまでにない有機的なステージ演出を実現してきました。いわば、テクノロジーと人力を組み合わせることで、新しい表現を生み出してきたのです。日本ではライブ演出に関する規制が厳しく、たとえば火炎放射器などを使用することは難しいのですが、それを“表現の規制”と捉えるのではなく、柔軟なアイデアであっと驚くものを生み出せれば、日本からでもきっと世界にも通用するショーを創造できるはずだと考えています」(取材・文=リアルサウンド編集部/写真=Christopher Polk/ゲッティ イメージズ)