トップへ

「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『パンとバスと2度目のハツコイ』『チェリーボーイズ』

2018年02月16日 20:32  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。


■『パンとバスと2度目のハツコイ』


 リアルサウンド映画部のロン毛担当・宮川がオススメするのは、『パンとバスと2度目のハツコイ』。


 映画の冒頭、自身が働くパン屋の女性店員と、店を訪れた女性客が、ひとりの男を巡ってバトルを繰り広げる模様を目の当たりにして、本作の主人公・市井ふみは、不思議そうな表情で心の声を吐露する。


「このとき私は目の前の2人の愛情をうらやましく思っていた。どうしてそんなに深く人を愛せるのだろうかと」


 その言葉を聞いて、「まさにその通りだ」と思った。


 人並みに恋愛経験を重ねてきたつもりではあるけれど、だれかと付き合っても長くは続かないし、そもそも本当にその人を好きだったのかさえも怪しい。30歳になったいま、友人や知人から結婚の報告をもらうことも増えてきたけれど、祝福の気持ちとともに、「自分の人生を棒に振ってしまって……」と思ってしまうことも正直しばしばある。いったい俺は人を好きになったことがあるのだろうか……。そんなことを考えながら、初恋の記憶を辿っている自分がいた。


 深川麻衣演じる本作の主人公・市井ふみは、長年付き合っていた彼氏からプロポーズされるも、「私をずっと好きでいてもらえる自信もないし、ずっと好きでいられる自信もない」という独自の結婚観によってプロポーズを断ってしまう女性だ。しかし、中学時代の初恋相手・湯浅たもつとの偶然の再会が、彼女の恋愛観に変化をもたらしていく。


 『サッドティー』や『知らない、ふたり』など、これまで独自の空気感を持った恋愛群像劇で映画ファンの心を掴んできた今泉力哉監督は、映画専門学校「ENBUゼミナール」の実践的ワークショップ「シネマプロジェクト」から生まれた前作『退屈な日々にさようならを』で、“生”にまつわる群像劇という新たな境地を切り開いたが、今回の『パンとバスと2度目のハツコイ』では、2人の男女の関係性に焦点を当てることで、彼の得意分野とも言える“恋愛”についての物語を“群像劇”ではないかたちで紡いでみせ、映画作家としてのさらなる進化を証明した。ホン・サンスが比較対象としてよく挙げられる今泉監督の作品だが、そのリアルさはもはやエリック・ロメールやジョン・カサヴェテスの域にまで達していると感じる。


 冒頭で引用したふみの言葉をはじめ、劇中で登場人物たちが口にする言葉にハッとさせられる瞬間が何度もやってくる。その言葉の一つひとつが妙に説得力があるのはなぜなのだろうか。その背景について、近日公開予定の今泉監督と深川麻衣のインタビューで訊いてきたので、そちらもぜひチェックしてもらいたい。


■『チェリーボーイズ』
 リアルサウンド映画部のチェリーボーイと思われていた石井がオススメするのは、古泉智浩原作『チェリーボーイズ』。


 本作の主人公たちは、クンニ(林遣都)、ビーチク(柳俊太郎)、カウパー(前野朋哉)という声を大にしては言えないあだ名のキャラクターたちですが、筆者も高校時代はとあるあだ名を付けられていただけに、他人事ではない共感を得てしまいました。


 中学から高校、いつの間にか同級生の友人たちが“大人の男”になっていく姿を羨む側の立場だっただけに、主人公たちの抱える悩みが痛いほど身にしみる瞬間が多々ありました。


 主人公たちは25歳になっても童貞を卒業することができず、田舎町で閉塞感を抱えながら過ごしています。それぞれが抱え持つコンプレックスを肥大化させ、自意識ばかりが膨らみ、いつまで経っても大人になれません。彼らはその現状を打ち破るために、女性を襲うという最低な行動を計画します。映画全体を通して、彼らが取る行動はほとんど褒められるものではありません。それでも、彼らのことを憎みきれないのは、互いを何よりも思い合い、“大人”になるために懸命にもがいているから。


 主人公・クンニを演じるのは林遣都。映画デビュー作『バッテリー』のスーパー野球少年から、近作『HiGH&LOW』シリーズの達磨一家・日向さんまで、ありとあらゆる役をこなしてきた“格好いい”林さんが、本当に“格好悪い”人間にしか見えず、役者のすごさを改めて感じました。近日公開予定の林さんへのインタビューでは、本作にどう向き合ったか真摯に語ってもらっているので、是非チェックしてもらいたいです。


 最後に、笛子を演じた池田エライザさん。映画・ドラマに、セクシーな役柄をこなしていますが、本作の笛子は池田エライザ史上、もっとも母性あふれるエロさを披露してくれています。その姿も堪能してもらいたいです。


(リアルサウンド編集部)