トップへ

FIVE NEW OLD、DATS、yahyel……国内外問わず活躍しうる“新しいスタンダード”の台頭

2018年02月16日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 ケンドリック・ラマーのグラミー5冠が顕著な例だが、国内外問わずエレクトロサウンドやインディーR&Bなど、大きなくくりで言えばヒップホップの手法はポピュラーな存在になってきた。いわば「新しいスタンダード」の台頭だ。そんな潮流の一端を担いそうなバンド/アーティストの作品が、ここ1年ほどでますます増加し、まさにこの1月から3月にかけて一挙にリリースされる。この機会に、サブスクリプションサービスを使うなどして、より好みのアーティストや楽曲に出会ってみてはどうだろうか。


(関連:yahyelが2ndアルバム『Human』で強めた“歌もの”としての訴求力 小野島大が選ぶ新譜6選


 まず、筆者が「新しいスタンダード」の登場を感じたのは、小袋成彬の存在だった。宇多田ヒカルをボーカルにフィーチャーした「Lonely One feat.宇多田ヒカル」は、インディーR&B、エレクトロ、ラップ、トラップ、ポストダブステップ……といったジャンルを横断した「新しいスタンダード」を体現することに成功した好例だ。また、この楽曲はSpotifyのバイラルランキング(1月25日付ウィークリーランキング・日本)でいきなり1位を獲得。多くの日本のリスナーに響いていることを証明して見せた。


 小袋同様、海外で起こっている音楽の新たな胎動をビビッドに作品に反映しているバンド/アーティストが、さらにポピュラーなフィールドに打って出そうな新作を続々とリリースする。


 開放的なアーバン・ポップロックが持ち味のFIVE NEW OLDは、1月末にメジャー1stアルバムとなる『Too Much Is Never Enough』をリリース。カラフルなポップソウルの「Sunshine」、踊Foot Worksを迎えた「Liberty feat.踊Foot Works」ではラップがフックになったバウンシーな生演奏を聴かせ、グッと幅が広がった印象だ。また、「Gold Plete」ではビートやシンセで杉本亘(DATS / yahyel)が参加し、エレクトロニックなサウンドを加味したことで、ポップソウルとハウスが融合したユニークな曲に。FIVE NEW OLDの場合、日本のバンドかどうかを意識する前に、洋楽でもポピュラーな存在であるMaroon 5などがすんなりイメージされるだろう。


 そしてFIVE NEW OLDの新作にも参加している杉本亘(Vo/Syn)が所属するDATSも新作『Message』を2月10日にリリース。同日のライブでメジャーデビューも発表した。DATSのメンバーである杉本と大井一彌(Dr)は、yahyelのメンバーでもあり、こちらも3月7日に2ndアルバム『HUMAN』をリリースする。DATSがエレクトロを導入しつつ、基本的にはギター、ベース、ドラムという形態でフィジカルに訴える演奏を基盤に置きながら、人力でダブステップ以降のスタイルをとる一方、yahyelは基本的にサンプリングとシンセで、人間の感情や肉体の細胞の動きを想像させるようなサウンドを作り上げてきたバンドだ。生音とエレクトロニクスのバランスや、世界観の明暗の違いはあるが、彼らの音楽も「新しいスタンダード」の要素を備えていると言えるだろう。


 さらに、センシュアルなボーカルで従来のR&Bリスナーを巻き込んでいきそうなPAELLASは3月7日にニューミニアルバム『Yours』を、ロンドンに拠点を移して約1年半が経過したThe fin.も3月14日にニューアルバム『There』をリリースする。彼らのこの作品に関してはプロデューサーにJamiroquai、Passenger、Alt-Jのプロデュースや、Radioheadのミキサーで知られるBradley Spenceを迎えていることも注目すべき点だ。


 少し話がそれるのだが、2017年のフジロックのレッドマーキーにはDATSとyahyelが同日の昼と夜に出演し、まるで「白と黒」の世界のような対照的な世界観を見せてくれた。そして、The xxやBonobo、サンファなどの海外のアーティストと、彼らのライブを同日に体験したことで、今、世界で起こっている新たな音楽のアプローチがすんなり腑に落ちたのだ。彼らはみな、生楽器とシーケンサー、シンセ、サンプラーやドラムパッドが並列するステージを展開していた。


 思い起こせば、ここ1年ほど、来日アーティストのオープニングアクトを飾る、音楽的な共通項を持つバンドが増えてきた印象だ。The xx東京公演のD.A.N.やJETでのドミコなど、音楽性を考慮した組み合わせは、メインアクト目当てのリスナーにも訴求できるだろう。


 また、Spotifyが独自にプレイリストを制作する「Tokyo Uprising」などのレコメンドに、これまでの日本のロックバンドやJ-POPとは異なる質感の楽曲が多くチョイスされている現実がある。実際に日本でシステムがローンチされた2016年11月頃、The fin.がプロモーション映像とともにプッシュされていて、気軽に聴いてお気に入りに加えたリスナーもいるだろう。洋楽と地続きで聴くことのできる邦楽曲はサブスクリプションサービス独自のプレイリストに取り上げられる機会が明らかに増えている。実際にレコメンド枠から、「バイラルトップ50(日本)」にD.A.N.や、The fin.などの名前を見ることも増えてきた。


 同じチャートに散見される洋楽アーティストを聴いてみるのもいいし、先ほどのThe fin.のように同じプロデューサーやエンジニアが手がけた洋楽を聴いてみるのも、近い嗜好の曲に出会える好機だ。また、アーティストが作るプレイリストや、好きな日本のバンドが所属するレーベルがチョイスするプレイリストなどもあるので、未知のお気に入り海外アーティストの楽曲に出会う機会はいくらでもある。


 これからフジロックやサマーソニックのラインナップが続々決まっていく中、もしこれまで海外アーティストのラインナップにときめきを感じなかった人も、好きな日本のアーティスト経由で、海外のアーティストのセレクションを増やしていけば、夏フェスの楽しみ方も変わってくるはずだ。リスナーそれぞれの音楽の地図が充実することは間違いない。(石角友香)