裁量労働制の拡大を巡る攻防が激しくなる中、政府与党がそもそも間違ったデータに依拠して同制度を推奨していたことが明らかになった。
安倍晋三首相は2月14日、「裁量労働制の方が労働時間が短くなる」という自身の過去の答弁について、「精査が必要なデータをもとに行った、1月29日の本委員会における私の答弁は撤回するとともに、おわびを申し上げたい」と謝罪した。
この事態にネットでは、「政府の主張の根拠とされるものが、これほどまでに杜撰で、悪意に満ちたものだったとは」と批判の声が相次いでいる。
枝野氏「間違った根拠に基づいて法案が出されていたという重大な疑義が出ている」
安倍首相は1月末、「裁量労働制で働く方の労働時間の長さは、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁していた。しかし根拠となる厚生労働省の労働時間等総合実態調査には不自然な点が多い。
同調査は、全国1万1575か所の事業所から「平均的な人」を1人選んで残業時間を調査している。しかし法政大学キャリアデザイン学部の上西充子教授は、ヤフー!個人で、「『平均的な者』のデータは、平均値とは、ずれる」と指摘している。
実際、労働研究・研修機構の調査によると、1か月の実労働時間が200時間以上250時間未満の人は、「専門業務型裁量制」で40.9%、「企画業務型裁量制」で38.6%、「通常の労働時間制」で26.5%となっている。裁量労働制で長時間働いている人がいかに多いかわかる。
こうした不備のあるデータを根拠にしていたことについて野党からは批判の声が相次いでいる。立憲民主党の枝野幸男代表は2月14日、国会で次のように指摘した。
「実は裁量労働制にしたらむしろ短くなるんだと間違った根拠に基づく議論がなされ、それに基づいて法案が出されて、国会で審議されていたのではないかという重大な疑義が出ています。ただでさえ野党の質疑時間を減らす中で、こんな時間を空費させた責任を、委員長、しっかりとらせてください」
日本共産党の穀田恵二・国対委員長も同日の記者会見で、「(法案の)前提が崩れているに等しく、法案を撤回すべきだと思います」と話した。
ユニオン「裁量労働制は残業代を支払わないために悪用されている場合がほとんど」
首都圏青年ユニオンの原田仁希・執行委員長は、キャリコネニュースの取材に次のように語った。
「裁量労働制で労働時間が短くなるなんてありえません。ユニオンに相談に来る人の話を聞いていても、残業代を支払わないために制度が悪用されている場合がほとんどです。厚生労働省のデータは実態に合っていないと思います」
杜撰なデータに基づいて議論が進められていたことについては、
「とにかく残業代を支払わずに長時間働かせたいのでしょう。それを実現するために、都合の良いデータを持ち出して、議論を進めている。本当に労働時間を短くしたいのであれば、別の方法でできるはずです」
と話している。