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初登場1位『今夜、ロマンス劇場で』にみる、各配給会社の「カラー」の消失

2018年02月15日 13:22  リアルサウンド

リアルサウンド

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 前週の興行分析では、久々に実写日本映画がトップ3を独占(1位『祈りの幕が下りる時』、2位『羊の木』、3位『不能犯』)したことをトピックとして取り上げたが、『今夜、ロマンス劇場で』が1位を飾った先週末も、引き続き上位3作品は実写日本映画。4位に初登場した『マンハント』も製作国は中国、監督はジョン・ウーだが、高倉健主演、佐藤純彌監督の1976年作品『君よ憤怒の河を渉れ』のリメイク作にして、オール日本ロケのチャン・ハンユーと福山雅治のダブル主演作。5位の『羊の木』まで、上位5作品すべてが日本人俳優の主演作という珍しい現象となった。


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 初登場1位の『今夜、ロマンス劇場で』は土日2日間で動員12万6000人、興収1億6600万円というまずまずの成績。綾瀬はるか主演の時空を超えたファンタジー映画というと、万城目学原作の2011年作品『プリンセス トヨトミ』や、同作と類似する設定でありながらオリジナル脚本作品として製作された昨年の『本能寺ホテル』のことを思い浮かべる人も多いだろう。実際に、公開日の2月10日には、『今夜、ロマンス劇場で』公開記念としてフジテレビはゴールデンタイムに『本能寺ホテル』を放送していた。しかし、『本能寺ホテル』と『今夜、ロマンス劇場で』は監督も違えば脚本家も違う関係のない作品。そしてなによりも、前者は東宝、後者はワーナー・ブラザーズと、配給会社が異なっている。


 長年、日本映画のメジャーといえば東宝、松竹、東映の3社のことを指していたが、2006年にワーナー・ブラザースが配給した『デスノート』を皮切りに、ワーナー・ブラザース日本法人のローカル・プロダクションが本格化。2017年の日本映画年間興収トップ10では、東宝7作品に続いてワーナー作品は2作品(『銀魂』と『22年目の告白 -私が犯人です-』)がランクイン(残り1作品はアニプレックス作品)。今やワーナーのローカル・プロダクション作品はメジャーの一角どころか、日本映画においては東宝に続く勢力にまで成長している。


 ちなみに、昨年は『銀魂』をはじめとして、『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない 第一章』(東宝と共同製作・配給)、『鋼の錬金術師』もワーナー・ブラザースのローカル・プロダクション作品。今年の夏には同社配給の『BLEACH』の公開も控えている。近年の日本映画の傾向として「少年・青年系の人気マンガの実写化」の是非について語られる機会は多いが、実はそれらの作品にはかなりの比率でワーナーが絡んでいることがわかる。


 かつて、日本映画には東宝には東宝の、松竹には松竹の、東映には東映の、大映には大映の、日活には日活の、新東宝には新東宝の、それぞれの作品のカラーというものがあった。その背景にはスタジオ・システムのほか、監督や俳優を契約で縛る五社協定という古い習慣もあったわけだが、それらが機能しなくなった1970年代以降も、東宝作品、松竹作品、東映作品にはそれぞれの作風が残っていて、それらは良くも悪くも一部の作品においては健在だ。


 ワーナーのローカル・プロダクション作品にも、日本テレビとの強い結びつきや、藤原竜也の主演作品が多いことなど、ある程度「カラー」のようなものが形成されてきていたが、昨年から今年にかけての作品群を見るとそれが希薄になってきている。広瀬すず主演、三木孝浩監督の『先生! 、、、好きになってもいいですか?』が東宝配給作品ではなくワーナー配給作品だと知って驚いたのは自分だけではないだろう。一方で、ワーナーらしい優れたマーケティングによってヒット作となった『ヒロイン失格』の二番煎じのような『リベンジgirl』が、ワーナーと同じく海外に本社のあるソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのローカル・プロダクション作品として公開されて、作品的にも興行的にも大失敗するという事態も起こったばかりだ。


 海外では昨年末に老舗の20世紀フォックスがディズニーに買収されるなど、業界再編の動きが激しくなっている現在。日本の配給会社も今後大きな荒波に飲み込まれるのは間違いなく、そんな時に作品の独自性などと悠長なことを言っている余裕はないのかもしれない。それでも、どこかでメジャー作品には映画会社の「カラー」のようなものを求めてしまうのは、古い映画ファンの独りよがりな思いなのだろうか。(宇野維正)