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小林聡美と阿部サダヲの“職人芸”が光る 広瀬すず主演ドラマ『anone』で見せた“叫び”の名演

2018年02月14日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 広瀬すず主演ドラマ『anone』(日本テレビ系)で、登場するたびに“笑”も“悲”も自在に見せる、小林聡美と阿部サダヲ。これまで多くの映画やドラマ、舞台を主役として牽引し、また脇役として支えてきた2人が、本作ではほどよいアクセントやスパイスとして機能している。そのさじ加減の絶妙さは、まさに職人芸である。


 1979年に『3年B組金八先生』でデビューした小林は、3年後に大林宣彦監督作『転校生』で主演に抜擢。以降、絶え間ない活動で長いキャリアを持ち、『かもめ食堂』(2006)をはじめとした“スローライフ”を主題に捉えた多くの作品で主演を務め上げてきた。


 一方の阿部も、劇団大人計画に所属し、同じ劇団の脚本家・宮藤官九郎作品の常連俳優であることは誰もが知るところであり、『舞妓Haaaan!!!』(2007)では映画初主演を務めた。昨年の『彼女がその名を知らない鳥たち』ではあまりに人間くさい一面を見せ、いまだに進化は止まらない。両者に共通して言えるのは、観客に常に驚きを届ける唯一無二の存在であるというところだ。


 本作『anone』では、持本舵(阿部サダヲ)が「余命宣告」された日に、彼が営むカレーショップを青羽るい子(小林聡美)が偶然訪れたことで、2人は出会う。第1話冒頭での、視聴者にとってこの2人が何者なのかよく分からない状況ではあるものの、ここでの掛け合いにさっそく魅せられる。謎めいてどこかかみ合わないこの会話は、視聴者の興味を引き、それがそのままドラマへの興味へと引き継がれる。


 第3話では旧知の仲である西海(川瀬陽太)を通して舵の人生が、第4話では生まれてくるはずだった娘・アオバ(蒔田彩珠)を通してるい子の人生が、それぞれ大きくフォーカスされる機会であった。自暴自棄に陥った西海に向かって必死に生きることを諭し、それでも救えなかったことに慟哭する舵。るい子に至っては彼女の半生が映し出され、母親としての顔も見せた。舵は実際に叫び、るい子は心の中で叫ぶ、いずれも深刻さを湛えた2人の名演であった。


 第5話では、鍋料理を食べたことのないハリカ(広瀬すず)の前で、舵が「みかん鍋」を作ろうとし、るい子が「ファーストキス」を例に回りくどいツッコミを入れる。実際のところ両者とも“ボケ”を担当した場面であり、ともすると暴走状態になりかねないが、ハリカや亜乃音(田中裕子)のリアクションに合わせてさじ加減を変えていく。あくまで中心に位置するハリカや亜乃音を支えるように、包むように、彼らは演じるのだ。


 大量の札束(偽札)を見つけたことをきっかけに交錯する人々の運命だが、いままで陰で動きを見せていた中世古理市(瑛太)が、ついに彼らにアクションをかけた。亜乃音を中心にした疑似家族を築き、つかの間の平穏を手にしていた彼らにとって、理市は闖入者とも呼べる存在。それも、彼らみなの出会いのきっかけであり、破滅の原因にもなりかねない偽札づくりを「協力してくれ」とのことである。るい子らとの交流のうちに、「物作りをしてみたい」と生きる気力を見いだした舵。その想いが思わぬ闖入者を招いてしまったのだ。シリアス一直線にも思えるこの複雑な状況下で、るい子・舵のコンビは、どんなアプローチに出るのだろうか。


 ドラマとしてはようやく中盤にさしかかったところ。もともとは“死に場所”を求めていた2人である。ハリカや亜乃音らとの交流の果てに、彼らが何処へ行き着くのか目が離せない。あたたかく迎えるべき存在から闖入者へと変身した瑛太を相手に、小林、阿部の両者が見せる掛け合いに注目である。


参考:広瀬すずが語る、“青春モノ”ではない作品の届け方 坂元裕二脚本ドラマ『anone』インタビュー


(折田侑駿)