2018年02月11日 10:22 弁護士ドットコム
オリンパスに勤務する社内弁護士が、オリンパスを相手取って精神的損害500万円を賠償するよう東京地裁に提訴したと朝日新聞が1月29日付の朝刊で報じた。
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報道によれば、中国現地法人で不明朗な支出があったと追及した幹部が異動した人事を巡り、本社法務部勤務の社員(弁護士)が、公益通報者保護法違反の疑いを指摘するメールを社内に送り、メール使用を禁じられた。そのため、この社員は「使用禁止は公益に対する不利益扱いで、公益通報者保護法に違反する」と会社を相手取り、訴訟に踏み切ったという。
オリンパスではこれまでも、別の社員や幹部から内部告発への報復があったなどとして訴えられている。今回の問題について、公益通報者保護法に詳しい大森景一弁護士に聞いた。
ーーどのように今回の問題をみていますか
「今回、このような事態となったということは、通常の業務過程では不正を是正することができていなかったことを示しているといえます。
それに加え、内部通報制度さえもうまく機能しないということになると、重大な不祥事が発生するリスクがあるとみられ、取引先・投資家・消費者などからの信用は大きく低下し、人材獲得の上でも大きなディスアドバンテージとなってしまいます。今回の訴訟の結果のいかんにかかわらず、オリンパスの負ったダメージは大きいと思います」
ーー今回の会社の対応は公益通報者保護法に違反するのでしょうか
「公益通報者保護法は、組織内の不正を組織内部に通報した者に対する不利益取扱いについても一定の要件の下で禁止しています。本件においては、幹部に対する人事が、不明朗な支出を指摘したことを理由とする不利益な取扱いであった場合には、この人事は公益通報者保護法に違反する可能性があります。
他方、公益通報者保護法に定められた通報対象事実は、原則として刑罰法規に違反する事実に限定されており、今回の社員のように、刑罰の定められていない公益通報者保護法への違反などを通報しても、公益通報者保護法では保護されません。
もっとも、今回の件では、通報した社員は同じメールで不明朗な支出行為自体の是正も求めていたとの報道もありますので、公益通報者保護法により保護される余地はあります」
ーー他にはどのような点が争点になると考えられるでしょうか
「多くの企業では、社内規程において、刑罰法規に違反しない法令違反行為や社内規程違反行為についても内部通報を受け付けることとし、通報者に対する不利益取扱いを禁止しています。本件でも、もしそのような内部規程が設けられていれば、それらに違反するのではないかが争われることになります。
そして、たとえそのような内部規程が存在していなかったとしても、不正を通報した者を保護するという公益通報者保護法の立法趣旨や、社内弁護士には弁護士倫理上の通報義務があることなどを踏まえ、そもそも、メール使用の全面的禁止といった対応が適法な業務命令なのか、争われることになるでしょう」
ーー通報者の主張は認められるでしょうか
「人事異動が通報を理由とした不利益な取扱いなのかどうかは立証が非常に難しく、公益通報者保護法が制定されたにもかかわらず、裁判で通報者側の主張が認められないことは珍しくありません。
しかし、かといって通報者を不利益に取り扱うことは、通報すれば報復されるという暗黙のメッセージを周知しているのと同じであり、内部通報制度を形骸化させてしまいます」
ーーどのようにすれば制度の形骸化を防げるのでしょうか
「内部通報制度を機能させるためには、経営者が、通報をしても不利益を受けることはなく、むしろ、有意義な通報を行った者は積極的に評価されるというメッセージを広く発し、それを行動で示すことが何より重要です。
また、組織の外に内部通報の外部窓口を設置することも重要です。その場合、外部窓口には中立的な立場の弁護士などを配置し、利益相反のないようにすることが必要です」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
大森 景一(おおもり・けいいち)弁護士
平成17年弁護士登録。大阪弁護士会所属。同会公益通報者支援委員会委員など。
一般民事事件・刑事事件を広く取り扱うほか、内部通報制度の構築・運用などのコンプライアンス分野に力を入れ、内部通報の外部窓口なども担当している。著書に『逐条解説公益通報者保護法』(共著)など。
事務所名:安永一郎法律事務所
事務所URL:https://omori-law.com/