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LDHはなぜ飲食業に進出? LDH kitchen代表 鈴木裕之氏が語る、食とエンタテインメントの融合

2018年02月11日 10:02  リアルサウンド

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 EXILEや三代目J Soul Brothersが所属するエンタテインメント企業・LDH JAPANが、飲食業界にも進出していることをご存知だろうか? LDH JAPANの子会社にあたるLDH kitchenは現在、都内を中心に13店舗の飲食店を経営しており、中には所属アーティストがプロデュースを務めた店舗もある。店舗ごとに事業形態が異なっていて、それぞれ個性的な店構えとなっているのは、大きな特徴だ。代表の鈴木裕之氏に、LDH kitchenの理念やビジョン、エンタテインメント企業ならではのアプローチについて話を聞いた。


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■LDH kitchenの成り立ち


ーーLDH kitchenでは現在、13店舗の飲食店を経営しています。そもそも、なぜエンタテインメント企業であるLDHが飲食業に参入したのでしょうか?


鈴木:飲食を始めたのには、大きくは二つの理由がありまして、まず一つはLDHに所属するアーティストに、健康的で美味しい食事を提供したいという目的がありました。アーティストは身体が資本ですから、やはり食べ物にも気を使う必要があります。もう一つは、アーティストが気軽に行けるお店を作りたい、みんなで安心して食事ができる場を提供したいという狙いがありました。いわば、アーティストたちが食事を通してコミュニケーションをするためのプラットフォームとして、飲食店を立ち上げたんです。つまり、もともとはアーティストへの福利厚生としての意味合いが大きかったのですが、せっかく素敵な店舗があって、美味しい料理を提供しているのだから、ファンの方や一般の方にも楽しんでもらおうと、だんだんと飲食グループとして本格化していったという流れです。


ーーアーティストへの福利厚生として始まったことによって、飲食業としてはどんなメリットがありましたか。


鈴木:まずアーティストに提供する料理なので、様々な面で妥協はできませんし、だからこそ味に関しては自信があります。実際、原価が多少高く付いても、良いものやこだわったものを出すというのは、LDH kitchenの基本的な姿勢として全店舗に共通しています。アーティストが普段から口にしている食事は、お客様にとっても安心して召し上がっていただけるものだと自負しています。


ーーLDH kitchenの理念とそのビジョンを教えてください。


鈴木:理念は、ほかのLDHグループ企業とも共通する「LOVE DREAM HAPPINESS」です。これを飲食業に即して言うなら、LOVEはお客様に対してはもちろん、一緒に働く従業員に対しても愛情を持って接するということです。まず、仲間同士でそれができないことには、お客様に愛情を提供することはできません。DREAMに関しても同様で、仕事における夢はもちろんのこと、プライベートでの夢でも良いので、従業員ひとりひとりがちゃんと胸に抱いてそれを共有して働いてほしいと伝えています。HAPPINESSは、働く仲間たちと一緒に幸せな時間を共有していこうという意味で、その幸せな時間をお客様にも感じていただけるように努力しています。


 そうした理念を踏まえたうえで、LDHならではの飲食店をやっていきたいというビジョンをもっております。私たちは、食事もエンタテインメントであると位置付けていて、お客様に対してどのようにワクワク感を伝えていけるかを重視しているんです。料理の内容はもちろんですが、空間作りやスタッフのサービスにおいても、いかに楽しんでもらえるかが大切で、それがLDHならではの店舗作りにつながっています。たとえば、店舗ごとにまったくコンセプトが異なっていて、通常のチェーン展開をしていないのも、食事をエンタテインメントとして楽しんでもらうためです。LDH kitchenはまだ世間的には、「LDHが飲食業をしている」くらいの認識だと思いますが、目標としては2020年までには、一つの飲食店グループとしての地位を確立していきたいと考えています。


■各店舗のコンセプト


ーー1店舗ごとにコンセプトが違うのは、飲食グループとしてはかなり珍しいですね。


鈴木:LDH kitchenの各店舗は、偶然の出会いから生まれたものも多いんですよ。たとえば、たまたまアーティストや幹部が訪れた飲食店の職人さんと意気投合して、その熱い思いを聞いたうえで、じゃあ一緒に新しいお店を開こうとなったり。LDH kitchenには現在、3店舗の焼き鳥屋があるのですが、職人さんありきでやっているので、どのお店も食材へのこだわりから焼き方まで全然違います。職人さんの個性を前面に出していくのは、LDH kitchenの大きな特徴ですね。店舗ごとに仕入先も違うので、スケールメリットが活かせないという欠点もありますが、私たちはそれをむしろLDH kitchenの強みと捉えています。たとえば、全国の生産者と直接やり取りすることで、地方創生の一助になれば、それはLDH本来の理念にも通じますし、お客様からの信頼にもつながるのかなと。また、それぞれ出自の違う職人たちや店長たちで月に一度、情報共有の場を設けることで、ほかの飲食業にはないクリエイティビティを発揮できるのも、大きな強みです。


ーー具体的に、いくつかのお店のコンセプトを教えてください。


鈴木:安定して人気があるのは「居酒屋三盃」で、居酒屋らしく幅広いメニューを扱っているのですが、料理長が毎日良い食材を厳選して仕入れているので、刺身ひとつ取っても抜群に美味しいですし、行くたびにおすすめが変わるので飽きることがありません。看板メニューのカニクリームコロッケは、一つ一つ手作りで、とても人気があります。お店も活気があり温かい雰囲気で、美味しい手作りの料理を気兼ねなく楽しむことができるお店です。


 アーティストと一緒に作り上げた店舗でいうと、EXILE TETSUYAがプロデュースした「AMAZING COFFEE」もおすすめです。TETSUYAさんはコーヒーマイスターの資格も持っているほどコーヒーに対する造詣が深く、豆からこだわって最高の一杯を作りあげています。もともとはTETSUYAさんが作ったコーヒーを自分自身で差し入れするところから始まった「AMAZING COFFEE」ですが、今では中目黒、横浜、大阪に店舗をもち、今後も順次広げていく予定です。


 カレーショップの「井上チンパンジー」は、あらゆるスパイスの配合を試しに試して、ようやく出来上がったこだわりのカレーを提供しています。同店舗のイメージキャラクターの「井上てっつ」は、イベントやライブ会場などでも登場しています。こうしたちょっとした遊び心は、ファンの方にも好評ですね。


 「いえ村」は鶏鍋の専門店で、宮崎県の老舗の鍋店「おらが村」の秘伝のレシピを使っています。EXILEメンバーやLDHスタッフが宮崎を訪れた際に「おらが村」の鍋を食べて、その美味しさに衝撃を受け、いつかこの味を東京でもやりたいという想いから、業務提携が実現しました。これは一度食べていただければお分かりいただけると思いますが、ちょっとほかのお店では味わえない逸品です。


ーーLDH kitchenでは、「居酒屋えぐざいる」や「LDH LAND」など、イベントでの出店も事業の柱の一つかと思います。会場ごとに工夫を凝らしたメニューが出ていて、味わいも本格的です。


鈴木:「居酒屋えぐざいる」に関しては、おかげさまで夏の風物詩のようなイベントになりました。お祭りのような雰囲気の中で料理を提供するのは、食とエンタテインメントとの融合という意味では最たるもので、LDHらしいイベントですし、LDH kitchenにとって大切な事業です。ライブ会場の外で、物販コーナーなどとともにLDHの世界観を楽しんでもらう「LDH LAND」での出店は、その試みの延長にあるもので、ライブ本番だけでなく、ライブが始まる前からファンの方にワクワクしてもらえるようにという想いからスタートしました。イベントに合わせて、半年くらいかけて一からメニューを開発しています。オペレーションなどにはまだまだ課題はありますが、LDHの総合的なエンタテインメントの一環としてファンの方々に喜んでいただけるよう、いっそう改善していきたいと考えています。収益性よりも、まずはお客様に喜んでもらうのを第一に考えるのは、店舗もイベント出店も同じで、LDHのビジネス全般に通じるところだと思います。


■鈴木裕之氏のキャリア


ーー鈴木さん自身のキャリアも教えてください。LDH kitchenに入社して、まだ1年半ほどだそうですが、それ以前はどんなことをしていたのですか?


鈴木:29歳から18年余り、ウエディングの仕事を続けてきました。2012年頃に、たまたまLDHで働いている知り合いの幹部の方から、お声がけいただき、大変興味もあったのですが、その時の会社で責任あるポジションを頂いていたのもあり、なかなか決心が付きませんでした。それから4年経ち当時46~47歳で、これからの残りの仕事人生を考えたときに、もっと挑戦をしてみたいという気持ちがより強くなり、失敗も覚悟で入社を決心しました。お声がけしていただいた方は、前任のLDH kitchenの社長でもあったので、そのまま引き継ぐ形で代表に就任させていただきました。


 実際に転職してみて、その決断は間違いなかったと感じています。「社員がみんなで夢を叶えていく」社風は、LDHという企業全体に浸透していて、努力の結果がわかりやすいんです。私自身、部下たちの夢を尊重して、よりやりがいのある職場にしていきたいと考えています。


 一方、急成長してきた会社なので、組織としての制度が追いついていないところもあり、そのあたりは現在の課題だと感じています。また、LDH kitchenのほかにも幅広い事業を行っているので、いっそう全体としての情報共有を密にしていく必要はあるのかなと。LDHは、幹部とスタッフの距離や、所属とスタッフの距離が近いのが特徴で、コミュニケーションや仕事上のアイデア交換などが活発に行われるので、各部署がさらに連携をとれるようになると、より発展できるのではないかと思います。


ーー年初に発表された「LDH wedding」も、鈴木さんの管轄ですか?


鈴木:そうですね。担当させて頂いております。LDH weddingは、LDH JAPANとブライダルプロデュースという会社の合弁会社になります。結婚式は、新郎新婦にとって人生における一番の大イベントで、ある意味では究極のエンタテインメントなんですね。そう考えると、LDHとして取り組む価値はあるのかなと。LDHが持つエンタテインメントのノウハウと、ブライダルプロデュースが持つウエディング事業への専門性を組み合わせることで、日頃支えてくださっているファンの方々に特別な1日を提供できればと考えています。


■“名店”とのコラボレーション


ーー近年は、デフレ経済の影響下で低価格帯の飲食店も目立っていました。LDH kitchenの方向性は、そのような事業形態とは真逆に感じますが、こうしたやり方は飲食業界にどんなインパクトを与える可能性がありますか?


鈴木:最近は、出来合いの食事を供する低価格帯のお店が増えたことも影響して、飲食業界全体で職人が不足するという問題が発生しています。職人が不足すれば、当然ながら日本の食文化も衰退していきます。だからこそ、LDH kitchenでは新たに職人を育てていくことを重視していて、それが昨今の飲食業界における一つの価値になると信じています。いわゆる“名店”とのコラボレーションも、そうした理念のもとに行っていて、春と夏には新たな店舗を出す予定です。


 一つは、六本木の「鮨さいとう」とコラボレーションをして、中目黒に新たに寿司屋を出店します。もう一つは、京都の「ます多」とのコラボレーションで、こちらは割烹料理屋になります。どちらの店舗も日本を代表する名店です。「鮨さいとう」さんからお話を伺った際に、職人も頑張ればこんな将来像がある、そういったゴールや出口を作ってあげれば職人の世界はもっと夢が広がり、必然的にそれを志す若者が増えてくるはずと仰っていました。


 LDHでは以前から、総合エンタテインメントスクールの「EXPG STUDIO」などで、新しい世代の人材を育てて輩出していくことに力を注いできました。もちろん、スクールに通うすべての人がプロになれるわけではないですが、その中から次の人材が生まれてきていて、それが後進にとってのモチベーションになっています。同じように、飲食の世界でも夢を持った職人たちを集めて、頑張れば将来はこういうお店を持つことができるんだという成功例を示すことができれば、職人の世界の活性化にもつながるのではないかと。


 「鮨さいとう」も「ます多」も、日本の食文化を守るために、自分たちの技術を次の世代に継承していくのが大きな課題だと仰っていて、LDH kitchenとしては働く人々が夢を持って頑張れる環境や仕組みを提供することで、微力ではありますがその一助を担いたいと考えています。


■海外展開について


ーーLDH kitchenは海外展開も視野に入れているのだとか。


鈴木:食とエンタテインメントをいかにして融合するかというテーマで、夏前にはロサンゼルスに「LDH kitchen the Robata」という店舗をオープンする予定です。その店舗では、店内に25台ほどのプロジェクターを入れて、プロジェクション・マッピングでダイニングを「火の空間」に、個室を「水の空間」に演出したいと考えています。アート性の高い空間で楽しみながら食事をするのは、目新しい演出を好むLAの方々にも喜ばれるのではないかと。また、国内ですがLDH kitchenシリーズとして、夏には羽田空港のターミナルの中に大型のレストランをオープンする予定で、そこは250席くらいあるライブ・レストランになります。


ーーお話を伺っていると、60年代にロッキー青木が渡米して、パフォーマンスを取り入れた鉄板焼き屋「BENIHANA」をオープンして成功させたような、大きなロマンを感じます。


鈴木:それと比較すると私たちは全然小さなことですが(笑)エンタテインメント性や、そこでしか楽しめない空間を提供するのは、飲食店にとって味と同じくらい重要だと、この1年半で強く感じるようになりました。料理が美味しいというのは、生産者と作り手が夢と希望を持って、しっかり手を組むことで実現できます。加えて、そこにお客様が感動する、あるいは喜んでもらえる何かしらの演出や空間があれば、そのお店には自ずとお客様が足を運んでくれるのかなと。私はブライダルの会社で働く前、マハラジャというディスコで9年間働いていたのですが、当時のマハラジャはあらゆるディスコの中でも最高級のブランドで、お客様に対してどんな風に接すれば楽しんでもらえるのか、随分と学ばせていただきました。そこで培ったエンタテインメントやサービスに対する考え方は私の原点となり、その後のブライダルにも、そしてLDH kitchenにも通じているように感じます。食べて美味しいのはもちろん、その先にある価値を提供できる飲食グループとして、ますます頑張りたいですね。(松田広宣)