「いまの仕事は嫌いじゃない。働けばお給料も貰えるし、満足してる」――なのに何かモヤモヤしている、という人も少なくはないはず。
映画『あなたの旅立ち、綴ります』は、偏屈で頑固で嫌われ者の老人、ハリエット(演:シャーリー・マクレーン)が生前に"自分の訃報記事"を作ろうと思い立つところから始まる。同作品は元々広告業界でバリキャリとして働いていた老人が"終活"と向き合う話でもあるが、それに付き合う働く女子の鬱屈や変化も描かれている。
「最高の訃報記事」を書くため、80代のおばあちゃんが挑みまくる!
アメリカの地方紙には訃報専門の記者がいて、その人の経歴を調べたり、個人の出生地を訪ねたりしながら"訃報記事"を書くという。ハリエットを担当する若手新聞記者・アン(演:アマンダ・セイフライド)は、ハリエットと離れて暮らす家族や、彼女をよく知る婦人科医、美容師、牧師などに話を聞く。
しかし出てくるのは「高飛車」「無遠慮」「コントロール魔」といった惨憺たるもの。誰一人として彼女を良く言わない。理想とかけはなれた原稿を見たハリエットは、"最高の訃報記事"を作るべくアクションを起こすことを決意。
ハリエットの考える最高の訃報記事には欠かせない4つの条件がある。「家族や友人に愛されていること」「同僚から尊敬される」「誰かの人生に影響を与える」「人々の記憶に残ること」。
しかし彼女は最後まで自分を曲げない。鉄砲玉のようにそのまま挑んでいく様子が痛快だ。近所のコミュニティセンターにいた9歳の少女・ブレンダ(演:アンジュエル・リー)の「先生」に勝手になり、地元のラジオ局に直談判してDJの座を奪い取る。ほぼ絶縁状態だった娘との和解も、彼女らしい方法でクリアしていく。
「実はやりたいことがあったけど、まあこのままでもいいかな」って、本当に?
アグレッシブに動き次々と目的を達成していく80代のハリエットを目の前にして、いま一つ動け出せずにいるのがアンだ。"若手"記者といえどそこそこ仕事を覚え、それなりにやっているように見える。
そんなとき、「本当はやりたいことがあったけど、まあこのままでもいいか」と思ってしまった経験はないだろうか。自身の演じるアンについて、女優のセイフライドは「自分が作りだした安全な世界に誰かが入ってくることを恐れているの」と話す。
アンはプライベートでも、憧れのDJとデートの約束をするが「この関係を壊したくない」と自分に制限をかけてしまう。本当は訃報記事より書きたいものがあるけど、失敗を恐れている。傷つくことが怖いから、現状に甘んじてしまうのだ。
一方、ハリエットは自分至上主義な人間だ。だからこそ「私は今まで選択をしてきた」と言う通り、自分の行動に自信がある。そんな人に励まされ、けしかけられたら、一歩踏み出してみたくなる。
人生の総決算をするハリエットと、これから自分らしく生きていくアン。その2人に自分を重ねて観るのも楽しいだろう。
映画『あなたの旅立ち、綴ります』は2月24日(土)、シネスイッチ銀座ほか公開。