2018年02月09日 10:22 弁護士ドットコム
2018年4月から、労働者の「無期転換」がスタートする。労働契約法18条を根拠に、有期雇用で働いた期間が通算5年を超えると、労働者側に期間の定めのない雇用(無期雇用)を申し込む権利が生じるというものだ。「申し込みをしたときは、使用者は当該申し込みを承諾したものとみなす」と規定されており、使用者(会社側)は拒否できない。
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つまり、無期転換によって労働者は突然の雇い止めリスクから解放されることになる。ところが、この無期転換が始まる前に各地で「駆け込み」のごとく、不当な雇い止めが起きているとの訴えが相次いでいる。
理化学研究所や東北大学などいくつもの名だたる機関(法人)でも、多くの非常勤職員が雇い止めの危機に遭っているとして、それぞれ撤回を求めて弁護士を交えた交渉に発展。日本労働弁護団は「いろいろな方法で脱法的な措置が取られようとしていることには対抗したい」(事務局長の岡田俊宏弁護士)としている。
こうしたなか、化粧品や健康食品の製造販売を行うファンケル(本社・横浜市)の取り組みが異彩を放っている。2018年1月、立て続けに有期雇用の従業員を無期雇用にする方針を発表した。2018年4月から始める。
ファンケルの取り組みは大きく分けて2つ。1つ目は、有期雇用で働いている店舗スタッフ971人全て(全国204店舗、2017年末時点)を、4月から「地域限定正社員」とし、待遇も改善するという内容だ。具体的には毎年の更新が不要となり、賞与が増え、年間休日数も増える。転勤もない。
2016年1月から有期(1年更新)の店舗スタッフとして銀座で働く30代女性は「入社時から正社員を目指していたので嬉しいです」。この4月から地域限定正社員となることについて、「契約社員ということに不安を抱くこともありましたが、これからは安心して働いていけます。いっそう頑張ろうという気持ちです」と話す。
2つ目は、本社や工場などで働く契約社員(月給制)とパート社員(時給制)を無期雇用にするという内容だ。対象は938人(2017年末時点)で、4月以降に新たに入社する契約社員とパート社員も全員を無期雇用とする。
人事企画グループの熊谷洋介課長は「安心して長く働いてもらえる環境をつくることが、優秀な人材に引き続き働いてもらえ、将来的に優秀な人材の確保につながる」と狙いを語る。
今回、ファンケルがこうした取り組みに打って出る背景には、業績が好調に推移していることに加え、人手不足に伴い競合との間で人材確保が難しくなっている点や、「無期転換」が制度として始まる点がある。「1年以上前から検討を進めていた」と熊谷課長は明かす。
ファンケルは1月30日に業績予想の上方修正を発表し、2018年3月期の売上高は1075億円(17年3月期は963億円)で、最終利益は54億円(同51億円)になるとの見込みを示した。
近年、ファンケルの人件費は120億~130億円前後で推移しており、今回の待遇改善を含む取り組みによって人件費が膨らむのは確実視されている。今後、株主総会などで株主へ説得力のある説明も求められるが、「人材確保に力を入れることが、将来的にも会社のプラスになる」(熊谷課長)と判断した。
ファンケルにも、従業員と処遇をめぐって争いに発展した過去がある。2003年、横浜西労基署から「社内隔離」でうつ病を患った従業員2人に対する労災認定があり、その後、訴訟に発展。結果的に和解に至ったものの、当時、ファンケルのブランドイメージは傷ついた。
それから時間は経過したが、今回のファンケルの取り組みは従業員にとって喜ばしいというだけにとどまらず、ブランドイメージの向上にも寄与しそうだ。既に、同業他社をはじめ、いくつかの企業が参考にしようと関心を示しているという。
(取材:弁護士ドットコムニュース記者 下山祐治)早稲田大卒。国家公務員1種試験合格(法律職)。2007年、農林水産省入省。2010年に朝日新聞社に移り、記者として経済部や富山総局、高松総局で勤務。2017年12月、弁護士ドットコム株式会社に入社。twitter : @Yuji_Shimoyama
(弁護士ドットコムニュース)