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残業体質は世代や職場を超えて「遺伝」する 月60時間以上だと「働くこと自体をやめたい」のに幸福度が高いという矛盾

2018年02月09日 07:11  キャリコネニュース

キャリコネニュース

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残業は優秀な人に「集中」し、周囲の人に「感染」して「麻痺」させ、さらには世代や職場を超えて「遺伝」するということが明らかになった。人材サービスのパーソルグループは2月8日、人材開発が専門の中原淳・東京大学准教授との共同研究「希望の残業学プロジェクト」の結果を発表。都内で記者説明会を開いた。

調査は、従業員10人以上の企業に勤める管理職1000人、一般社員5000人の計6000人を対象に実施。1か月の平均残業時間が最も長い業種は、一般社員では運輸業・郵便業(29.26時間)で、管理職では建設業(35.54時間)だった。サービス残業に限定すると、教育・学習支援(12.26時間)がトップだった。

職種ごとに見ると、一般社員では配送・物流(35.39時間)、管理職では商品開発・研究(39.1時間)がトップだった。サービス残業に限れば、営業職が12.37時間で最も長かった。

働き方改革、管理職の3割は「部下に残業を頼みにくくなった」と回答

では、残業はどのようにして生じているのか。同調査は、集中・感染・麻痺・遺伝というメカニズムを明らかにしている。

「集中」とは一部の人に仕事が偏ることを指す。管理職の60.4%は「優秀な部下に優先して仕事を割り振っている」と回答しており、"できる人"に仕事が「集中」していることがわかった。

また、働き方改革が推奨される中、管理職の30.4%が「部下に残業を頼みにくくなった」、20.7%が「仕事を自宅に持ち帰ることが増えた」と答えている。部下に仕事を頼めなくなった結果、管理職に仕事が「集中」しているようだ。

しかし上司が仕事を抱え込めば、部下が早く帰れるというわけではない。上司が残っていると部下も帰りづらいからだ。

「周りの人がまだ働いていると、帰りにくい雰囲気がある」と回答する人の割合は、上司の残業時間が0時間のときは17.7%にすぎないが、45~60時間では45.5%にまで増加している。残業を削減しようにも、上司が仕事を抱えて帰れない、その結果周囲も帰れないという悪循環に陥っている可能性がある。

新卒のとき「残業が当たり前」だった上司は部下にも残業をさせている

月60時間以上の残業は、個人を「麻痺」させることもわかった。幸福度は、残業時間が1~10時間未満で18.58だが、残業が長くなるにつれて低下し、45~60時間未満では16.98となっている。ところが60時間以上になると17.54と上昇に転じているのだ。

だが、60時間以上残業している人は、主観的には幸福でも、健康リスクは高い。食欲がないと回答した人は0時間の2.3倍、強いストレスを感じる人は1.6倍、重篤な病気・疾患があると回答した人は1.9倍に上っている。また「この会社にずっと勤めていたい」と思う人は60時間未満では33.8%だが、60時間以上では28.8%まで低下している。会社を辞めるのではなく、「働くこと自体を辞めよう」と考える人も増える。

この点について中原氏は、次のように評している。

「ストレスを感じたり、食欲がないと自覚しているのに、幸福度は高く、矛盾している。正常な判断ができなくなっている可能性がある」「自覚症状が薄いまま、病気や精神疾患になったり、突然休職したりするリスクがある」

組織風土の改革による「集中」「感染」の是正を

上司が若い頃から長時間残業していると、その部下も残業が長くなるということもわかった。残業は「遺伝」するのだ。新卒のとき「残業が当たり前の雰囲気」だった上司を持つ部下は平均で22.1時間残業をしているが、そうでない上司を持つ部下は14.8時間しかしていない。

上司が「時間が掛かっても粘り強く働く人を評価する」など、残業を助長するようなマネジメントを行うからだ。この調査項目は、転職経験がある管理職を対象にしており、その人個人の残業体質が世代や組織を超えて、受け継がれることを示している。

こうした調査結果に基づき、同プロジェクトでは、オフィスの消灯やPCのシャットダウンで時間に上限を設けて強制的に残業できないようにする「麻痺」の防止、評価制度の変革などによる「集中」「感染」の是正を提唱している。なお、さらなる調査結果は同プロジェクトの公式サイトに順次、掲載されるという。