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山田裕貴、中村倫也、松本まりかの過剰さがもたらすバランス 『ホリデイラブ』が描く虚構を読む

2018年02月09日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

 テレビ朝日で23:15から放送されている金曜ナイトドラマ『ホリデイラブ』は、「仲里依紗が浮気される妻に再び」とうたわれたドラマである。再びというのは、2017年4月期に放送されたTBSドラマ『あなたのことはそれほど』で演じた、浮気をされた妻を演じたときのことを言っているのだ。


参考:山田裕貴の巧みな話術に引き込まれる 『ホリデイラブ』さらにドロドロ展開に!


 物語は、結婚式場から始まる。「この真っ白なウェディングドレスと同じように私たちの日々も真っ白から始まった」という杏寿(仲里依紗)と純平(塚本高史)だったが、そのウェディングドレスに黒い羽根が飛んできて、そこから黒く変色していくという、不穏な予感をさせるオープニングである。


 その後、すぐに純平の転勤が決定し、夫婦は離れ離れで暮らすことになる。そして、純平の職場にパートとして働きにきた井筒里奈(松本まりか)が現れる。純平はかつて取引先の担当者の結婚式の会場で、里奈が純平のもとに倒れこんできて、そこから関係を持った過去があったのだった。


 これだけなら、普通の不倫ものと変わらないのだが、このドラマには、サスペンスの要素も入っている。


 ネイルサロンをしている杏寿のもとに「坂口麗華」の名前で予約が入るが、その電話口の声は、甘えたような声であった(あきらかに里奈のものである)のに、実際に現れた麗華は壇蜜が演じており、まったく声質が違う。麗華も、スピリチュアル系のアプリを開発しており、すぐに杏寿をモニターとして登録するようにすすめる。杏寿は、そこにメッセージを送ってきた、杏寿と同じくネイルサロンを経営する黒井由伸(山田裕貴)と接点を持つようになっていく。


 この時点で、麗華と電話口の別の声の女、そして黒井はなんらかの接点を持っていると考えると、杏寿をめぐる出来事は、何かにハメられて進んでいるのだと気づく。


 このわかりやすさが、こうしたドロドロドラマには必要であると感じる。また、俳優たちのリアルとの距離を置いた演技も非常に効果的だ。なぜならば、ムカムカするほどドラマがリアルすぎると、観ているほうもどんよりとした感覚を引きずってしまうからだ。もちろん、ひきずる作品もありだが、ひきずらせて何かを考えさせるのか、ドロドロを突き放して楽しませるものなのかが明確でないと、モヤモヤがより強く残ってしまうこともある。それは、今期放送中の『きみが心に棲みついた』(TBS)などを観てもあきらかだろう。


 本作では壇蜜がスピリチュアルに傾倒していて、不穏な空気を導く役割を担い、浮気相手の井筒里奈を演じる松本まりかが、不自然なくらい甘いしぐさ、甘い声で話し、じっとりと純平のことを見つめる。こうした、ちょっとキャラクターを背負いすぎたような役割を過剰に演じてくれると、これは虚構なのだと安心して、ドロドロの世界を楽しむことができるのではないか。


 男性陣にしても、妻を抑圧しながらも、妻の浮気が許せず、浮気相手の純平をボコボコに殴る夫を演じる中村倫也も、突然ネイルサロン社長として現れ、杏寿に対して「おれは絶対に浮気なんかしないけどね。大切な人を傷つけたり、悲しませた理するようなことは絶対にしない」と、女性への正義を語る山田裕貴も、どちらもどこか「本当なのかな?」と思わせる訝しさがある。


 かつては昼ドラには、こうしたドロドロした虚構の世界を描くものが存在していた。今もテレビ朝日は昼にドラマを始めたが、かつての昼ドラの要素とは違うものを描こうとしている。そんな今、23時台がこうしたドラマの放送枠になろうとしているのだろうか。


 実は、主人公の杏寿を演じる仲里依紗や夫の純平を演じる塚本高史は、そこまでデフォルメしたキャラクターを演じているわけではない。リアルな杏寿が、虚構性の強い脇役に翻弄されているとうことも、ドラマを俯瞰して観られる所以かもしれない。


 ここに出演している脇を固める俳優陣は、リアリティを追求して演じることもできる人たちだが、このドラマでは少しデフォルメした形で見せることで、ドロドロの作品を、「こんなことあったら嫌だな」、「でもこの先、どう決着をつけるんだろうな?」と突き放して見せるバランスをとっているのかもしれない。(西森路代)