特集:F1マシンの誕生
F1マシンの完成には、コンセプトの提案から冬のバルセロナテストで実車を走らせることにこぎ着けるまで、実に1年以上の歳月を必要とする。ルノーF1チームのテクニカル・ディレクター、ニック・チェスターへの独占インタビューを基に、F1マシン製作の全過程を「コンセプトを決める」「開発のスケジューリング」「F1マシンのデザインとは」「マシン製作」の4テーマにわたって紹介。
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第4章:マシン製作
■その1:どこから作り始める?
マシン各部の形状が確定し、剛性強度が十分に確保されたことが確認されて初めて、デジタルの図面から実際のパーツ製作へと移行する。
デザインオフィスでCADを使って作成されるのが、3Dマスターファイルである。これによってすべてのパーツサイズ、それらをどのように組み合わせてマシンを完成させて行くかが俯瞰できる。このマスターファイルを基に、CAMと呼ばれるソフトで各パーツ製造に必要な個別ファイルを作成する。
F1マシンのほとんどのパーツは、いわばオーダーメイドの1点ものだ。それらは電子制御されたマシンツールCNCで、ほぼ自動的に製作される。そのプログラム作成に必要なのが、これらの個別ファイルなのである。ファイルには金属パーツの精細なカットライン、複合素材パーツのパターンがプログラミングされている。では具体的に、ファクトリーではどのパーツから作り始めるのだろう。
F1マシンを構成する主要エレメントは、以下の3つである。
まずシャシー(モノコックと燃料タンク、フロントサスペンションの集合体)。ふたつ目がパワーユニット。そして駆動系(ギヤボックスとリヤサスペンション)である。さらにこれらに装着されるものとして、ボディワーク、フロア、前後ウィング、冷却用パイプ類などがある。
テクニカル・ディレクターのニック・チェスターによれば「最初に製作されるのはシャシーとギヤボックス」だという。
「その後、サスペンションとウィングの製作作業にかかる。ボディワークとエンジンカバーは、最後だね。それらと並行して行うのが、エンジンの補機類や電気配線のデザインだ」
「そして前年のシーズンが閉幕する11月には、モックアップモデルを作る。各パーツをきっちり組み合わせることができるかどうかの、最終確認のためだ。すでにCADでバーチャル上の確認はできてるんだが、やはり現物を作ってみないとね」
「電気の配線や油圧系のパイプの取り回しなどは、こうやって目視するのが今も一番の方法なんだよ。もちろんCADでも、それらの配線はモデル化されてる。でも実際に実物大の模型を目の前に置いて、電気ケーブルや油圧パイプを配置するのにはかなわないね」
(その2に続く)