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AV出演強要「乗り越えられない壁がある」伊藤弁護士、軽い罪での立件相次ぎ危機感

2018年02月08日 10:32  弁護士ドットコム

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若い女性が意に反して、性行為を含むわいせつな動画への出演を迫られる、いわゆるAV出演強要問題。その解決に取り組んでいるNPO法人ヒューマンライツ・ナウ(HRN)の事務局長、伊藤和子弁護士は2月5日、都内の報告会(HRN主催)で「被害にあう人が今後もでつづけるおそれがある。良い方向にむかっているというよりは、かなり危機感を持っている」という認識を示した。はたして、その背景になにがあるのか。(弁護士ドットコムニュース編集部・山下真史)


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●「乗り越えられない壁がある」

そもそも、望まない性行為の強要があった場合、刑法の強制性交等罪(旧強姦罪)や準強制性交等罪(旧準強姦罪)に該当する。ただ、強制性交等罪には「暴行または脅迫」、準強制性交等罪には「心神喪失」「抗拒不能」といった要件を満たす必要がある。


2017年の刑法改正で、これらの罪は、被害者の告訴がなくても起訴できる「非親告罪」となり、法定刑下限も引き上げられるなど、厳罰化がすすんだが、「暴行または脅迫」「抗拒不能」といった要件は残ったまま。立件の高いハードルとして立ちふさがり、性犯罪被害の当事者・支援者から批判されている。


こうした状況にあるため、AV出演強要では、労働者派遣法違反など、比較的処罰が軽い罪での立件にとどまっている。伊藤弁護士は「本当に断れない、意に反するかたちの性行為を強要されて、ビデオになっていく状況でも、これらの罪で処罰されない」「乗り越えられない壁がある」として、「刑法改正をすすめていくべきだ」と訴えた。(編集部注:2020年までに見直されることになっている)


また、売春防止法には「人を欺き、もしくは困惑させて売春をさせた者」を処罰する規定がある。(同7条1項)。伊藤弁護士は「仮に、暴行または脅迫がなくても、これまでの類型が、欺罔(人を欺くこと)・困惑という手段で性行為させたといえる」として、こうした処罰規定を参考に「AV出演強要に即したかたちで立法化していく必要がある」と指摘した。


●「販売・配信停止」を求めてもなかなか応じてもらえない

もう一つ、被害にあった女性側が、出演作品の販売・配信停止を求めたとしても、なかなか応じてもらえない問題がある。


伊藤弁護士によると、「販売・配信を停止してほしい」と求めても、タダで応じてくれる業者は少なく、業界団体に入っているメーカーでさえも、高額のお金を払わないと販売・配信停止しないというところもあるという。


これまでの裁判例では、「AV出演を拒んだ女性に対して、違約金をとることは認められない」という判決が言い渡されている。だが、「結局、違約金と同じような高額のお金をつまないといけない状況は変わってない」(伊藤弁護士)


●監督官庁がなく、会社名をかえた場合に打つ手がない

AV業界には現在、監督官庁がない。そこでHRNなど被害者支援団体は、監督官庁の設置を訴えている。さらに、AV出演の契約を「消費者契約」の一種とみなして保護を強めて、違法行為をおこなった業者に対しては、業務停止命令を出せるようにすべきだとしている。


「消費者契約においては、いろいろな詐欺まがいの商法(ビジネス)がある。消費者庁から業務停止されても、会社名をかえて同じような仕事をする人がいる。そういう人には制裁金を課す制度がある。(AV業界についても)こうした制度がないと、同じことが繰り返されてしまう」(伊藤弁護士)


AV出演強要をめぐっては、出演経験のない20代女性に出演強要したとして、AV制作会社やプロダクションの従業員らが1月中旬、淫行勧誘罪の疑いで警視庁に逮捕される事件があった。警視庁は2月1日、業界関係者に説明会を開くなど、取り締まりを強める方針を示している。業界側の自主的な取り組みのほか、今後の法制度のあり方についての議論も見守りたい。


(弁護士ドットコムニュース)