二輪ロードレースの最高峰、MotoGPの裏話を語る『2017MotoGP覆面座談会』を開催。今回もMotoGPに精通した関係者3人が集まり、2017年シーズンを総括する。ロレンソに出たサインボードの正体とはなんだったのか。また、ハイパワーのMotoGPマシンがライダーにどのような苦労をもたらすのか。
事情通A氏:自身もサーキットで走るという二輪界のパイオニア
事情通B氏:ライダー情報に精通したベテランジャーナリスト
事情通C氏:恐れ知らずでズバッと切り込むベテラン編集員
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ーーでは、2017年シーズンの後半戦の出来事について。後半戦も多くのトピックスがありましたね。
B氏:第17戦マレーシアGPで(ホルヘ・)ロレンソのサインボードに『マッピング8』ってあったじゃないですか。あれなんなんですかね。
C氏:「ロレンソが下がれ」という意味ではないと思うんだけどな……。わからない。ホルヘのこと考えたら(アンドレア・)ドビジオーゾに譲るでしょ。
A氏:ロレンソも譲ろうとしていたと思いますよ。だけどロレンソがミスっちゃったから。
C氏:最終戦でもう少しドビジオーゾと(マルク・)マルケスのポイント差が近くて、そこにホルヘが絡んでいたら動いたと思うよ。ロレンソはチャンピオン関係ないから、そこはチームプレイになると思う。
ーーバレンシアでもサインボードでドビジオーゾが上、ロレンソが下というサインを出してました。それでもロレンソがどかなかったってことは、それなりにチームオーダー無視してるっていうことなんでしょうか?
C氏:微妙だね。完全に言うこと聞いてはいなかったけど、チームオーダーじゃなくて自分で判断していたんだと思う。このコーナーでは譲るけど、このコーナーでは譲らないとか。真後ろについて何度も抜こうとしたらそれは譲るだろうけど、離れてたら待つことはない。
B氏:昔のグランプリはチームオーダーがけっこうありましたね。最終コーナー立ち上がってきて止まって待ってたりとか。
C氏:俺が見て一番すごいと思ったのが1990年の125ccクラスかな。ただそれは、チームプレイというか国別対抗だったけど。オランダ人ライダーのハンス・スパーンとイタリア人ライダーのロリス・カピロッシのチャンピオン争い。最終戦はメーカー関係なくイタリア人とオランダ人の戦いになってて、何人かのイタリア人ライダーがカピロッシを前に出したあとにスパーンが前に出ないようにブロックしたんだよ。カピロッシはそのまま逃げきって優勝して、チャンピオンを獲得したんだよね。イタリアの星だったカピロッシをチャンピオンにさせるためにメーカー関係なくイタリア人ライダーは明らかにやってた。目配せしながら。もちろん他の国のライダーもいて巻き込まれてるんだけど。
B氏:そう考えればドビジオーゾとマルケス、イタリア人対スペイン人で国別対抗が再発しそうな予感がありましたね。
C氏:MotoGPクラスで国対抗はないと思うけどね。ただチームに入れる入れないとか、チームメイトは誰がいいとかの話になると、イタリア人はスペイン人に対していろいろな思いはあるんじゃない?
■ロレンソとドビジオーゾの成績差にチームも混乱か?
ーー前回の座談会では5人勝者が出て、後半戦でもう少し出るかと予想されましたが、そのあたりはいかがでしょうか。
A氏:結局ずっと5人でしたね。ビニャーレス、マルケス、ペドロサ、ロッシ、ドビジオーゾ。
B氏:ドビジオーゾは凄いですよ。誰も予想していなかった。
A氏:チャンピオン獲ったマルケスもドビジオーゾとタイトルを争うことになるなんて全然思ってなかったって言ってましたよ。
C氏:ドゥカティの人たちもドビジオーゾが6勝するなんて予想外だったと思うよ。シーズン前の第一ライダーはロレンソだから。ドビジオーゾは開発もできるし、サポートもできるからドゥカティにとっては絶対になくてはならない存在だけど、ロレンソはチャンピオンを獲るためにチームに入ってもらった形だったからね。
B氏:ロレンソは1年目から期待されてた。それが初っ端からダメでしたから多分チームも混乱していたし、ロレンソ自身も混乱してた思います。途中でバイクをぶん投げたくなるような感じがあったでしょ。
C氏:ロレンソがバイクを投げ捨てるようなシーンはあったね。昔、ジョン・コシンスキーがスズキのバイクで似たようなことをやってチームをクビになったことがあったよ。
A氏:あれは本当ヒヤヒヤもんでしたよ。だけど、ロレンソは後半戦でなんとかまとまってきて表彰台に登っていたから、2018年はチャンピオン争いをする可能性が高いよ。
ーーロレンソの調子が良くなったのはドゥカティが後半戦から投入した空力カウルのおかげなんですかね?
C氏:後半戦からドゥカティが過激な空力カウルの第2号を出してきたね。あれやめてほしいな。かっこ悪いからさ。
A氏:僕結構気に入ってますよ。でも、あの形が許されるならウィングレットを禁止にした意味がないですよ。
C氏:あの形は全体が壊れるから大丈夫という判断だと思うんけど、それでもあんなに出っ張ってたら危ないよね。でもダウンフォースが必要なほどMotoGPマシンの加速とスピードがすごいってことなんだろうけど。
B氏:フロントが浮く問題をトラクションコントロールなどで制御すると、結局はエンジンパワーをカットするしかないから、フロント荷重を増やすために空力カウルが必要になってくるんでしょうね。
A氏:だけどクルマと違いますからね。ストレートではフロント荷重が確保されるけど、コーナリングではバイクが傾くから左右のダウンフォースが変わってきます。だからバイクの空力に関してはかなり考えないといけない。例えば150km/h以下の時はダウンフォースの効果がないようにしたりとか。市販車のスポーツカーで速度が上がるとウイングが出てくる可変機能があるんでしょう。バイクもウイングを可変にしたいと思うけどそれは出来ないんですよね。
B氏:メーカーは可変にしたいだろうな。そのくらいスピードは出てるし、加速も大きくなってる。ドゥカティではホルヘがずっと第2号の空力カウルを使ってました。逆にドビジオーゾはほとんど使ってなかった。ホルヘ・ロレンソはそういうところに不安があったのかもしれないですよ。
ーー2017年のオフシーズンテストが絶好調で開幕戦も制したヤマハでしたが、後半戦はかなり失速しました。そのあたりはどうでしょう。
B氏:ヤマハファクトリーの浮き沈みか。まだ調べきれていないし実際の所わからないんですけど、ビニャーレスが失速、バレンティーノが1勝。ひどいね。雨もダメだった。
A氏:雨もダメだし、テクニカルサーキットで速いはずなのに全然遅かったって印象がありました。
B氏:ストレートもダメだったね。だけど、ヤマハがダメだったのかと思ったら、サテライトチームのテック3は調子が良かったから、マシンは2017年型よりも2016年型のバイクが良かったのかもしれません。
A氏:ヤマハはエンジンを大きく変えてきたんだと思います。ハマる時は良かったけど、後半戦でハマらなかった。逆に後半戦はホンダが調子を整えてきてました。各メーカーずっとミシュランタイヤの不安定さにやられていたけど、実はホンダだけは結果だけ見るとそんな悪くなかったんですよ。
B氏:そうだね。悪くなかった。
C氏:海外のメディアのなかでは「ミシュランタイヤがホンダに合わせて作ったんじゃないか?」って言われてたらしいけど、そうじゃなくておそらくホンダはタイヤに合わせるのがうまいんだろうね。
A氏:マルケスが6勝挙げて、ダニ(・ペドロサ)はヘレスとバレンシアとで勝ってます。ペドロサって速いときと遅いときの差が激しいですよね。
B氏:他のインタビューで聞いたんですけど、ダニはマシン、セッティングすべてがハマったときは本当に速い。これは本人もよくわかってる。
C氏:苦戦の原因はやっぱり体だよ。これはマルケスが言ってたけど、ペドロサの体は他のライダーに比べて小さいし体重も軽いから、バイクが縦方向に挙動するピッチングモーションのときに体を後ろに入れたり前にいれたりがなかなかできないらしいんだよね。あと10cmか5cmでも身長があって、手足も長かったら速かったんじゃないかな。
■体格によって最高速が落ちる
■ドゥカティの強さはアウディのおかげか
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