F1マシンの誕生
第3章:F1マシンのデザインとは
最初のコンセプト作りから冬のバルセロナテストでの実走行まで、F1マシンの製作には1年以上の歳月がかけられる。第3章『F1マシンのデザインとは』では、ルノーのテクニカル・ディレクター、ニック・チェスターに、デザイン開発の各ステージと、そこで用いられるツールについて語ってもらった。
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■その3:デザインステージ
「デザインの参考になるのは、やはり前年型のマシンだ」と、ルノーF1でテクニカル・ディレクターとして車体開発の指揮を執るニック・チェスターは語る。
「まずはCFDで作業し、風洞実験でデータを収集する。そこで各部にかかる荷重を計算し、CADを使ったパーツ設計に移行するわけだ。しかしそこで荷重に耐えられないことがわかれば、該当パーツはCFDでの解析に戻される。あるいは前回で述べた『有限要素解析』で、剛性や強度を調べ直すこともある」
「空力にまったく関わらない足回りや駆動系関連パーツ、たとえばギヤボックスの内部パーツなどは、まさにこのサイクルで作業が進む。リヤサスペンションのパーツにしても、ギヤボックス内部に組み込まれる部分は空力性能にまったく影響しない。なので強度や剛性を最優先に考えて、この作業サイクルで設計されるんだ」
「CADでパーツを設計したデザイナーは、そのデータを強度検査部門に回す。より強度を増した方がいいとか、逆にもっと軽量化できるといった回答が、そこで得られる。その繰り返しで万一の強度不足を防げるし、極限までの軽量化も可能になる」
■テストベンチの重要性
コンピューターによるストレス検査はあくまでバーチャルなものであり、できるだけサーキット走行に近い環境での試験が必要になる。そのために不可欠なのが、テストベンチである。
F1チームのファクトリーには、サスペンションベンチ、ギヤボックスベンチ、エンジンベンチなど、さまざまなタイプのテストベンチが備えられている。
なぜなら実走行中に起こるトラブルのほとんどは、設計段階では見逃されてしまうごく些細なミスが原因だからだ。それを発見するには実際のパーツを組み込んで作動させる、テストベンチの存在が不可欠となる。
ここで異常なしとされ、期待した強度も確認できて初めて、デジタル化されたデザインが実際のパーツとして製造される。その製造過程については、次回の第4章『マシン製作』で紹介しよう。