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ましのみが語る、音楽で生きていくことへの決意 「私にしかできないことをやらないと意味がない」

2018年02月06日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 シンガーソングライター・ましのみが、2月7日発売のアルバム『ぺっとぼとリテラシー』でメジャーデビューを果たす。ましのみは現在20歳の現役女子大生、キーボードの弾き語りスタイルで活動するシンガーソングライターだ。2016年にはヤマハグループの音楽コンテスト『Music Revolution 第10回東日本ファイナル』で約3,000組の中からグランプリを獲得。それを機にデビューへの歩みを進めることとなった。アルバムリード曲「プチョヘンザしちゃだめ」や「ストイックにデトックス」(TVアニメ『たくのみ。』エンディングタイアップ曲)といった独特なワードとキャッチーなメロディを備えた楽曲たちは、一度聞いたら忘れることができないインパクトと個性を放っている。


 今回リアルサウンドでは、ましのみにインタビューを行った。音楽の原体験や楽曲の制作方法など、話を聞けば聞くほど興味が湧いてくるから面白い。本取材が「ましのみとはどんなアーティストなのか?」を知るための一助となれば幸いだ。(編集部)


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■音楽原体験は電子ピアノのサンプル音源と「プレイバックPart2」


ーーましのみさんというとピアノ弾き語りのイメージが強いですが、ピアノはいつ頃から始めたんですか?


ましのみ:ピアノはちっちゃい頃から小6ぐらいまで、本当に楽しく、ふわっと習っていた感じです。


ーーでは音楽自体にはずっと興味を持って接してきたんですか?


ましのみ:そうですね。小さい頃から歌うのも踊るのも大好きだったし、笛を吹くのも太鼓を叩くのも好きだったし。一つひとつを極めるとかではないんですけど、いろいろサラッとやってみるのが好きでした。


ーーちなみに、原体験で最初に記憶に残っている音楽というと、何か覚えているものはありますか?


ましのみ:ふたつあって、ひとつは電子ピアノに入っていたサンプル音源の「エリーゼのために」かな。それを流しながら、お母さんと一緒にスカーフを振り回しつつ踊っていた思い出があって。それと、(山口百恵の)「プレイバックPart2」が幼稚園の頃の十八番だったんです。ちゃんと歌えるわけではないんですけど、園長先生の前でよく歌ってたみたいです(笑)。


ーーいろいろツッコミどころが多いんですが(笑)。まず、クラシックの楽曲でスカーフを振り回しながら踊るというのは……。


ましのみ:ちっちゃい頃から踊るのが好きで、お母さんもそういうことに付き合ってくれる人だったんです(笑)。


ーーでも、それが身近な音楽として存在していたわけですよね。


ましのみ:そうですね。でも一番身近だったのは、お母さんがよく歌っていた鼻歌かな。そのとき流行っていた曲をお母さんから吸収して、それを私が歌うことが一番身近な音楽体験でした。とはいっても、原曲を知らないまま歌うことが多いんですけど。そういう、受動的な音楽体験だったと思います。


ーーでは、自発的に聴いていくようになった、夢中になったアーティストっていますか?


ましのみ:実は、それがまだいなくてですね。


ーーえっ?


ましのみ:今、頑張っていろんな音楽を聴くようにしているんですけど。もともと音楽を聴くことは好きなんですけど、成長過程でイヤホン文化を取り入れるのを忘れてしまいまして。なので、お母さんが録画しておいた「今流行りのカラオケランキング」の番組とかを一緒に観て覚えて、カラオケで歌ったりしてました。


ーーなるほど、それが「プレイバックPart2」だったりするわけですね。


ましのみ:はい。もちろん普通に音楽番組は観ていたんですけど、「私はこのアーティストが好きでハマりました」みたいなことがなくて。だから、周りがどんどんそうなっていくのが羨ましくて憧れて、高校生のときにmiwaさんという存在を知ったときに「私はmiwaさんにハマろう!」と決めて聴いていた時期がありました。アルバムも買いました。


ーーそれは興味深い話ですね。


ましのみ:miwaさんの音楽が素敵なのはもちろんなのですが、miwaさんに憧れてこういう音楽がしたいとかじゃなくて、学生をしながらシンガーソングライターをなさっているというmiwaさんの存在自体に憧れていました。そもそも、聴いている音楽の数も少なくて、音楽性というものがよくわからなかったんですよ。ダンスミュージックとかも知らなかったですし。


ーーその感覚が今の曲作りに活きているんですかね?


ましのみ:どうなんでしょうね?(笑)。


ーーでは、学生時代はどうやって過ごしていましたか?


ましのみ:すごく普通で、まあまあうるさめのグループの中でそれなりに楽しく明るく、平和に過ごしていました(笑)。イベントごとが好きだったので、学校行事にも積極的に参加してましたし。あと、中学ぐらいから勉強を頑張ろうと思ったんですよね。歌手になるっていう夢はそのときはなかった……というか、「ありえないもの」として心の底に押し込んでいたので、真面目に勉強して良いところに就職して、ひとりで生きていける女になろうとずっと思っていたんです。


■ずっと隠してきた気持ちを抑えきれなくなった


ーー歌手になりたいという気持ちは、それ以前は持っていたんですか?


ましのみ:幼稚園生の頃はみんなの前で「歌手になりたい!」と言っていたらしいし、ずっと人前で歌うのが好きでした。でも、物心がついた段階で、それって現実的ではないと気づくじゃないですか。そもそも私自身、本当にサラリーマンの家庭の普通の子供で、「この生活こそが幸せなんだ」みたいな価値観の中で育ってきたので、とてもじゃないけどそんな夢は言い出せないし、自分でも無理だと思っていたし。でも、ずっと興味はあって、道端で誰かに出会って急に「君、歌手にならないか?」って言われないかなと思ったりもしました(笑)。それこそ、携帯で「歌手 なる 方法」とか検索してみたり(笑)。


ーーそこからどうやって、自分で楽曲を作って実演していく方向にたどり着いたんでしょう?


ましのみ:動機は本当にそのままで。歌手になりたい。いろんな人に歌を聴いてもらって、それで生きていけるようになりたい。そのためには、漠然と大きくならなくちゃいけないし、覚悟も必要だし。そう思い立ったのが、将来の進路を考えたときで、高2か高3の段階で大学進学を考えるときに「じゃあ将来、自分は何になりたいだ?」というところから、ずっと隠してきた気持ちを抑えきれなくなって。それで大学に入学してから、夏秋ぐらいに音楽を始めようと思ったんです。大学でも就活が始まるまでの短い時間の中で、どれだけ自分の夢に近づけるかが勝負。いろんな人に自分を知ってもらうには、まずメジャーデビューというきっかけを掴むことが近道だと思って、そこに向かって何かしなくちゃ、じゃあライブ活動を始めよう、そのためには作詞作曲ができたほうがいいってお母さんが言っていた気がするから、じゃあ作詞作曲もやってみようと、全部あとから付いてきたものなんです。


ーーメジャーデビューを目標にするアーティストは多いと思いますが、ましのみさんにとってメジャーデビューは「自分を知ってもらう」という目的の過程にあるものだったんですね。


ましのみ:そうですね。周りに比べて私が行動を起こそうと思い立ったのが結構遅かったというのもありますし、そこに就活というのも絡んでくるから。リミットは約3年、その中でやっぱり音楽がやりたいってことは、相当音楽を仕事にしたかったわけで。その夢を叶えるためには、スピード感が大事になる。そこでバンドを組んでみんなの意思をひとつにして、みたいな時間が勿体なかったんですよ。そもそも私はそこまで人に強く言えないタイプで(笑)、そのくせ思っていることは強かったりするので、ほかの人と一緒にやってもうまくいかないだろうなと思ってひとりで始めました。だから弾き語りがやりたかったわけじゃないんですよ。


■私なりの言葉遣いを意識して書いている


ーーそれにしても、経験がなかった作詞作曲をどうやってものにしていったんですか?


ましのみ:学ぶよりも先に行動に移すのが好きなので、まずやってみようと思って適当にピアノを弾きながら歌って。だから、今考えるとすごくめちゃくちゃな曲もたくさん書きました。それを続けていくうちに、曲を書くことが楽しくなってきて、そこからどんどん歌詞にもこだわるようになって、環境のせいなのか年齢なのかわからないけど価値観も変わっていって今みたいな曲を書くようになったんです。


ーー自分の価値観の変化は、歌詞を書きながら気づいた?


ましのみ:そうですね。明らかに書いている歌詞の中での、自分の考え方が以前とは違っていたので。さっき話したように、中高はフワーッと生きていたんですけど、大学に入って音楽に時間やエネルギーを割きたかったので、大学ではあんまり交友関係もない、行って帰ってみたいな生活をしていて(笑)、それ以前の学校生活とは全然違うわけですよ。しかも18、19、20歳って年齢的に気持ちが揺れる時期だとも思うし、それが原因かよくわからないけど、変わっていきましたね。それこそ音楽を始めたことで、早い段階で就活みたいな苦しさを味わったからかも。夢を叶えたいから頑張る、でもなかなか報われない、残り時間が少ない……そういう焦りとともに生きていたところもあるので、考え方がどんどんシリアスになっていったところもあるのかなと思います。


ーーあと、ましのみさんは歌詞の言語感覚も独特で。僕は普段この仕事以外で20歳前後の人たちと接する機会が少ないから、これがリアルな20歳前後の感覚なのかわからないですけど、非常に興味深かったです。


ましのみ:これが同世代の感覚なのかと言われたら、私もよくわからないですね(笑)。いろんな女性シンガーソングライターさんがすでに活躍されている中で「私にしかできないことをやらないと意味がない」と気づいて、私なりの言葉遣いというのは意識して書いているつもりです。


ーーすごくアバンギャルドな印象も受けるんだけど、でも実はめちゃめちゃポップという。この感覚が個人的にはすごくツボで、聴いていて気持ちいいんですよ。


ましのみ:ふえ~、ありがとうございます。相当な褒め言葉ですよ! 私自身、いろんな聴き方をしてもらいたいと思っているので、それこそ私と同世代の人だったら歌詞に共感して楽になってもらうとかそういう聴き方でもいいし、リズムや言葉でテンションが上がる軽い聴き方でもいいと思っていて。好きに聴いてもらう中で、なんとなく楽しいという感覚を味わってもらえたら嬉しいです。


■いろんな要素を取り入れたライブでも、一番聴いてほしいのは歌


ーーあと、これがイマドキの感覚なのかわからないけど、確実にヒップホップが根付いて以降の言葉遣いだなと思って。


ましのみ:それはヒップホップの方々に申し訳ないです(笑)。全然わからないから。


ーーでも、「ましラップ」とかやられてるじゃないですか。


ましのみ:違う違う!(笑)。あれはラップじゃないですよ! 「ましラップ」という独自の遊びみたいな感じに捉えてほしいです。


ーーライブでもいろいろ寸劇めいたことをやっていますが、アイデアはどこから生まれるものなんですか?


ましのみ:根底にあるのは、いかに楽しんでもらうかということであって。普通に「うわーっ、楽しい」というよりは、私は「えっ、次はこういうものがくるの? ワクワクする!」みたいに刺激的なエンタテインメントが好きなので、悲しい歌であったとしても最終的には皆さんを楽しませたいという気持ちが強いんです。ライブにはいろんな要素を取り入れるけど、もちろん一番聴いてほしいのは歌。歌を聴いてもらうために、いかにして飽きさせない展開にするかってことなんです。私自身ずっとMCと歌だけだと飽きちゃうタイプなので、楽しいと思ってもらえる展開をするために寸劇とかラップをしていて。別にそこにこだわりがあるわけではなくて、MCの代わりにひとつのアイテムとして使っているわけです。あとは、まだ私のことを知らない人が多い段階だし、いろんなところに刺激を用意して、引っかかってもらいやすいようにしておかなくちゃいけないなとも思っているので。


ーーすべては歌を聴いてもらうためだと。


ましのみ:はい。今は私のことを知らない人のほうが多いし、いくら「歌詞にこだわってます」と言っても歌詞までたどり着かないと思うんですよ。だったら歌詞にたどり着くように、まずメロディやサウンドやライブの構成に興味を持ってもらう、そのためにも全部にこだわっておかないといけないと思っているんです。


ーーそうですよね。もう一回観たい聴きたいと思わせたら勝ちですものね。にしても、作曲経験ゼロからよくここまでたどり着きましたね。メロディは鼻歌から作っていくんですか? それとも楽器を使って?


ましのみ:両方ですね。歌詞にメロディを当てはめていくこともあるし。とはいえ、まだコードがよくわからなくて、今も勉強している最中です。


ーーむしろ知らないからこその突然変異じゃないけど、そういう印象も受けました。


ましのみ:突然変異(笑)。そうなっていてくれたら嬉しいですね。


■曲を作るときに自分が歌うことを想定していない


ーーいよいよメジャーデビューアルバム『ぺっとぼとリテラシー』が発売されます。念願のメジャーデビューが決まり、まずどういった作品を届けようと意識しましたか?


ましのみ:私を知らない人がたくさんいる世の中に初めて出すメジャーデビューアルバムなので、まず私はこういうことをしているんだよってことを知ってもらえる1枚にしたいなと思いました。その中でも、興味を持ってもらえる1枚にしないといけないと思って、歌詞、メロディ、タイトルと私が気を配れるところには、さっきも言った刺激を置くようにはしています。あとは、私は普段曲を作っている上でいろんなタイプの曲を書きたいと思っていて。以前は「いろんなタイプの曲があるけど、私の軸ってどこだろう?」と悩んだ時期もあったんですけど、出てくるもの全部が私であって、私が真ん中にいる上で、不可思議な歌詞の曲もあればひたすらポップに消化した曲もあるし、リアルな曲もあれば、暗い弾き語りバラードもあるしずっとふざけている曲があるし、いろんな曲があって、全部が同じように好きなんです。なので、そこを発信する段階で狭めたくないし、どこで引っかかってもらえるかわからないので、それを全部置いておけるアルバムにしたいと思って曲選びをしました。


ーーなるほど。ましのみさんが歌うことでの統一感はあるんですけど、楽曲自体は本当にいろんなタイプが入っていますものね。


ましのみ:そうなんですよね。私の実体験じゃないこともあったりするんですけど、全部私の考え方や価値観を通して書いているので、それはもう私のメッセージなんですよね。


ーーそれにしても、先行配信された「プチョヘンザしちゃだめ」を最初に聴いたときの衝撃といったら。このメロディがどうやって生まれたのかが、本当に不思議だったんです。ましのみさんは普段、ボカロ曲は聴きますか?


ましのみ:最近は聴くようにしてます。


ーー実はこの曲を初めて聴いたとき、「ボカロ以降のメロディ」だなと思って。ボカロ曲ってそもそも人間が歌うことを想定せずに作るじゃないですか。それによって突拍子のないメロディが生まれることも多いし、そことの共通点を感じたんですよ。


ましのみ:ああ、確かに私も作るときに自分が歌うことを想定してないですね。だから(上のキーが)出ないんですよ!


ーーちょっと待ってください!(笑)。それ、どういうことですか?


ましのみ:なんて言うんでしょうか、出てくるメロディを優先して、考えることを忘れちゃうんです。「あ、そうだ。これを私が歌わなくちゃいけないのに!」って。「プチョヘンザしちゃだめ」なんて超難しくて、レコーディングは本当に苦労しました。


ーーでしょうね(笑)。


ましのみ:単純にひとつのことに熱中しがちなので、曲を作っていると自分のことを忘れてしまうというか。でも、そういう意味でいうと最近、自分の声のここが気に入っているので、そこをフィーチャーした曲を作ってみたいと思い始めてるところです。


ーー先ほど歌詞の話をしましたが、リスナーとしては音楽を聴くときに歌詞は意識していましたか?


ましのみ:実は自分で作るようになってから意識するようになりました。以前は意味とか何も考えずに聴いていて、なんならその曲をカラオケで歌いたいから聴いているところもあって。だって、誰も教えてくれないじゃないですか。


ーーそれは、ましのみさんだけに該当することなのか、それとも世代的にそういうものなんでしょうか?


ましのみ:どうなんでしょうね。でも、確かに最近はノリを重視して聴く人が多いなとは感じているし、私も時によってはそういう聴き方もするので。それもあって、私の音楽もそう聴いても楽しんでもらえるようには意識して作っているつもりです。


ーー歌詞のテーマも、そのセレクトがとても面白くて。それこそ「エゴサーチで幸あれエブリデイ」ではネット上でのエゴサーチを扱っているかと思えば、同時にある種の自己紹介ソングでもあって。


ましのみ:自己紹介の意味を込めようと思って作った曲ではなかったんですけど、そういう要素も入れようかなと。


ーー実際にエゴサーチはしているんですか?


ましのみ:めちゃくちゃします!(笑)。でも、この曲の歌詞は本当に思っている部分と誇張部分があるので、適当に楽しんでもらえたらと(笑)。どこが本音でと言ってしまってもつまらないと思いますので。


■今私が面白いと思うことを、アルバムと一緒に表現できたら


ーーかと思うと「リスクマネジメント失敗」みたいな歌詞もある。曲調含め、アルバムラストにシリアスな曲を持ってきましたね。


ましのみ:私、こういう曲も結構書くんですよ。わりかしポップな曲を前に出しているけど、それは興味を持ってもらうために一番引っかかりやすいものとして「プチョヘンザしちゃだめ」みたいな曲があるわけで。でも、それとおんなじぐらいシリアスなバラードを書くのも好きなので、アルバムの中に絶対1曲は入れたいと思ってます。どっちが私とかじゃなくて、全部大事な要素です。


ーーだからこそ、ボーナストラックとして最後の最後に「チャイニーズ再履修」みたいにコミカルな曲が来るのも納得というか。


ましのみ:これはもう、ふざけて作った曲なので(笑)。楽しんでもらえればって感じです。


ーーここまでを含めて、ましのみさんのすべてが表現されていると。では、サウンド面はどうですか? 今作は抜け感の強い現代的なエレクトロの要素がありつつも、単なるダンスミュージックとしてだけでなく、リスニング重視のリスナーにも楽しめる作風だと思うんです。


ましのみ:私はどう聴かせたいかって思いはあるんですけど、もともと音楽にめちゃくちゃ詳しいわけではないので、周りの人の力で専門的なところを補ってもらっているところがあって。これはインディーズのときからずっと言っているんですけど、いろんなシンガーソングライターさんがいらっしゃる中に私が出ていく意味、そこに価値を見出していただくために必要なことを考えたときに、私にしかできないこととして歌詞やメロディをわかりやすく提示しておかなくちゃいけない。もちろんサウンドにおいても、ほかの方とはちょっと違う、私ならではのサウンドを作りたくて。今までも変な効果音とか入れてアレンジしていたんですけど、ディレクターさんから私の歌詞にわりとデジタルな言葉とかそういう感覚が多いと言われて、今の時代の流れも踏まえつつ、興味を持ってもらいやすいサウンドはエレクトロなんじゃないかというところに落ち着いて。でも、ただのエレクトロだとカッコいいだけで終わってしまうかもしれないから、そこにチープさや面白い効果音を入れたり、私が弾くピアノを残したり、そういう私のこだわりを入れることで「そうそう、これ!」っていう最高なものができたなと思っています。


ーーそれにしても、良いデビューアルバムができましたね。やっぱりデビュー作って名刺がわりの1枚になるわけですし、そういう意味でも当にいろんなタイプの曲が揃っていますし。


ましのみ:私もそう思います!(笑)。皆さんがどんな聴き方をしてくれるのか、未知ですね。


ーーライブではどういう形で表現していくんでしょう?


ましのみ:それを今、絶賛考えているところで。今までのライブと一緒ではなく、今私が面白いと思うこと、楽しんでもらえると思うことを、このアルバムと一緒に表現できたらと思います。やっぱり音源の良さとライブならではの良さって、本当にそれぞれあると思っていますね。そこに関して私は言葉で上手に伝えることができないので、ライブ会場に来てもらうのが一番だと思っています。できれば興味を持ってくださったら、一度でもCDもライブも楽しんでいただけると、本当に嬉しいですね。


■そのときの私が「これが最善」だと思う進化したものを作りたい


ーー今作はアートワークも個性的ですよね。


ましのみ:これ、合成じゃなくて頑張って撮ったんですよ。私が造船場の船の上にいてペットボトルを並べて、それを工場バックに撮りたかったんですけど、そういう場所がなかなか見つからなくて。一回諦めたんですけど、期限ギリギリにスタッフさんが見つけてくださったんですよ。


ーーましのみさんというと、このペットボトルの印象が強いですよね(取材当日も手元に2リットルの水が入ったペットボトルを持参)。


ましのみ:いつの間にか(笑)。皆さんにそう言っていただくことで私の中でも愛着が湧いて、そうなるとより身近なものに感じられるんですよ。このジャケットも自分の手の範囲に届くものを使って工場を真似しているんですけど、私も透明の衣装を着てその一部になることによって、私自体が刺激的で面白いものを生み出し続ける工場でありたいってことを表現しました。


ーーそういう意味が込められているんですね。ましのみさん自身が「エンターテインメント工場」みたいな存在になりたいと。では、ここから先のことについては現在、どこまで考えていますか?


ましのみ:今はこのへん(と目の前を指す)くらいまでしか、はっきり見えているものがなくて。今最善だと思っていることを常にやり続けて、それを探り続けて、変わり続けて、深め続けて、広げ続けていきたいな、とは思っています。このアルバムも今私ができる最善のものを作ったわけで、もしこの次に作らせてもらうとしたらこのままの状態を保つのではなく、そのときの私が「これが最善」だと思う進化したものを作りたい。そうすることで、今の私が想像できないような広くて深くて大きな存在になっていたいんです。そして、変わり続けていくためには求められることも必要だと思うので、常に面白いと思ってもらえるような存在でい続けたいと思います。


(西廣智一)