筆者がはじめて不妊治療を専門としているレディースクリニックを訪れたのは35歳の時。そこから1度転院したものの、現在までに約1年間クリニック通いを続けている。最初に始めた頃、ひとつ決めていたことがあった。それは、とにかく「楽しんでやる」ということだ。ツライ、キツイなどネガティブなイメージが強い不妊治療だからこそ、いかに楽しんでやれるかが重要なことのような気がしていた。
実際、不妊治療を続けている人の声で多いものに「どんどん卑屈になる」というのがある。大金を出してツライ検査をし、治療に通い続けても成果(妊娠)がなかなか出ない。そうしている間にも、友人や知り合いはすぐ横をすり抜けていくようにどんどんと妊娠・出産していく。
受験やダイエットのように「努力した分だけ報われる」というものではないため、ココロの健康維持が難しくなり、時には何を拠り所にすればいいのか見えなくなることもある。(文:みゆくらけん)
「私も不妊治療辛くて、他人の妊娠素直に喜べなかったの思い出して泣けてくる」
深田恭子主演の不妊治療を扱ったドラマ「隣の家族は青く見える」(フジテレビ系)の3話でも、治療を始めた深キョンが精神的に病んでいることをふと漏らすシーンがあった。深キョンが演じる奈々は、夫の妹の妊娠(胎動)を素直に喜べない自分がいたといい、続けてこう告げる。
「不妊治療をはじめてから、自分がどんどん嫌な人間になっていく気がする」
このセリフには、視聴者からの共感の声が殺到している。「不妊治療中、友達のマタニティハイが辛かった」という声を筆頭に、
「私も不妊治療辛くて、他人の妊娠素直に喜べなかったの思い出して泣けてくる」
「32歳で不妊治療してる時、7歳も下の義妹から電話があって、『やっと妊娠したんですー!』って言われた時のショックは今でも忘れられない!!!」
などという声が集まっている。他にも多かったのが「子どもの写真付き年賀状が一番辛い(イライラする)」というもので、「ごめんなさいと言いながら切り刻んでいた」というコメントも。多くの場合「そんな自分が嫌でたまらない」という自己嫌悪もセットで、それがまたストレスを膨らませるようだ。
診察室から女性が泣きながら出てくる 精神的にも過酷な不妊治療
「楽しんで治療する」をモットーにやってきた筆者は、そのマインドコントロールが効いていたのか、これまでなんとか他人を妬まず落ち込まずやってこれた。しかしつい先日、痛くない検査だと信じて受けた「子宮鏡検査」の予想外の痛みにパニックになり(※痛くない人もいます)、「これで妊娠できなかったら神様終わってる」と恨めしい気持ちになってしまった。
「こんな痛みを経験することなくサクッと妊娠できた友達うらやま」とも思った。それでも、それぐらいの気持ちで収まっているのは、まだ流産や「陰性」を繰り返すというキツイ経験がないことが大きいのかもしれない。
とにかくもう重々わかったのは、不妊治療とは綺麗事では済まない闘いだということだ。診察室から出てきた女性がハンカチを口に押し当てながら、声が漏れないように泣いている姿が視界の隅に入る度、胸にギュウッと「いたたまれない気持ち」がこみ上げる。
そして、どうかこの人がネットニューストップの「熊田曜子が第3子妊娠」を目にしませんようにと願う。そのニュースを見て追い込まれない不妊治療中の女性などいない。ましてや、おめでとう!と思えないのも当たり前。パンパースのCMや、「はじめてのおつかい」や、友人からの妊娠報告や、義母からの「まだなの?」攻撃に、いちいち必要以上にココロが反応し、悲しくなったり苛立ったりするのは必死になって闘っているのだ。私は、そんな闘う人たちと自分に、熱いエールを送りまくりたい。