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『西郷どん』は舞台・鹿児島の象徴に 作品のリアリティを当地出身ライターが解析

2018年02月04日 09:22  リアルサウンド

リアルサウンド

 早くも5回目の放送を迎える、NHKの大河ドラマ『西郷どん』。登場人物たちの話す方言や、圧巻のロケーションが話題となり、舞台である鹿児島に注目が集まっている。実は、鹿児島出身である筆者にとってたいへん喜ばしいことで、本作が始まってからというもの、どうにもホームシックに陥ってしまっているほど……。その理由は、本作の力強いリアリティに郷愁を誘われてしまうからだ。


参考:渡辺謙×竜雷太、30年ぶりの共演で見事な演技合戦 『西郷どん』で見せた繊細な表情


 初回放送時から、「方言が分からない」「セリフの半分しか聞き取れない」といった声を多く耳にしていた本作。聞き慣れない単語や言葉遣いに加え、イントネーションまで違えば、たしかに難しい言葉のように感じてしまうのも無理はない。ナレーションで西田敏行が口にする「きばれ」は「頑張れ」を意味し、「わっぜ」は「とても」や「かなり」をという意味で、今の若者もよく使う方言だ。劇中で頻出する「わい」という言葉は関西では自分を指すが、“薩摩ことば”(鹿児島弁)では相手を指す。このあたりも視聴者の混乱を多少招くかもしれないが、言葉と演じる俳優陣との関係は、予想以上に上手くいっている印象を受ける。


 これまでにも多くのドラマや映画で鹿児島弁は登場しているが、その土地の人間からすれば、今ひとつのものが多い。“俳優と言葉”の関係には、それなりの時間をかけなければ、満足いくリアリティは望めない。その点つねに撮影が進行し、1年間をかけて放送する大河ドラマは、回を重ねるにつれて俳優とキャラクターのシンクロ度は深まってくるはず。とすれば、“俳優と言葉”の関係も間違いなく深くなっていく。それも主役を演じるのはストイックな役作りで知られる鈴木亮平である。もちろん薩摩言葉だけでなく、西郷という人物の生涯をその身体でどのように体現していくのか、毎話期待が高まる。回を重ねるにつれ、俳優陣の発する“薩摩ことば”はさらに流暢なものとなってくるのであろうが、あくまでも大河ドラマの、見世物としての側面とのバランス取りが重要となるだろう。


 視聴者の方の多くも、最初のうちは聞き慣れず苦戦するのは当然だが、見続けるうちに物語の文脈から少しずつ理解できるようになる。なんとか諦めずに、西郷たちとともに、奮闘していただきたいものである。


 第4話で藩主・斉彬(渡辺謙)が誕生したことで、今後ますますメインの舞台として扱われることになる「磯御殿」を含めた「仙巌園」。桜島を築山に、鹿児島湾(錦江湾とも呼ばれる)を池に見立てた圧倒的な美しさを誇る景観は1958年に国の名勝に指定され、鹿児島では一般的に「磯庭園」として親しまれている。2008年の大河ドラマ『篤姫』でも、撮影ロケ地として大きく扱われ、以降かなりの賑わいを見せていた。小松帯刀(瑛太)が駆け上がった石段などは、それを示す看板が設置され、訪れた人々の注目を集めていたが、筆者なども大河ロマンに浸りながら、何度も駆け上ったものである。本作でもその石段は、西郷吉兵衛(風間杜夫)、小吉(渡邉蒼)ら親子の会話の場面などで第1話から早々に登場し、舞台セットではない、実在のロケーションの真実味が、場面の強度を上げていた。


 もちろん本作におけるロケーションの魅力は「仙巌園」だけではない。“薩摩の小京都”と呼ばれる「知覧武家屋敷」や、オープニングでも登場する「龍門司坂」。どこまでも広がる美しい田園風景。先述した『篤姫』や、そのほか近年つくられた映画で、“薩摩ことば”の勉強も兼ねて、『西郷どん』の主な舞台である鹿児島に触れてみるのもあり。小学生たちが錦江湾を横断遠泳する姿を描いた『チェスト!』(2008)や、九州新幹線の全線開通を記念して是枝裕和監督が手がけた『奇跡』(2011)。鹿児島出身の俳優・榎木孝明が自ら企画と主演し、本作でも後にフォーカスされるであろう中村半次郎の生涯を描いた『半次郎』(2010)。いずれもが、単に舞台が鹿児島というだけでなく、鹿児島の魅力が画面いっぱいに詰まっているのだ。ちなみに1988年には藤田敏八監督、沢田研二が主演の『リボルバー』という映画がある。これは冒頭から磯庭園が登場するにもかかわらず、誰も鹿児島弁を話さないというのが面白い。


 焼酎、黒豚、芋、桜島……鹿児島を象徴するものは数多くあるが、この物語の主人公である西郷という人物もまた、「西郷さん」の愛称で地元の人々から親しまれ、鹿児島の象徴となっている。“鹿児島といえば=西郷さん”そんな魅力を広く伝えてくれるであろう作品になることを期待したい。


(折田侑駿)