トップへ

山崎賢人がゲス男を演じる『トドメの接吻』は、ダーク版『花より男子』だった!?

2018年02月04日 06:02  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 1月クールの連続ドラマの中でダークホース的な作品。山崎賢人が主演する『トドメの接吻』(日本テレビ系)が面白い。まず驚いたのは、謎の“キス女”宰子(門脇麦)とキスをすると死んでしまい、やがて時間が1週間前に戻って目覚める(蘇生する)という突拍子もない設定。科学・医学的にどうなっているのかは置いておいて、その仕組みを利用して成り上がろうとするホスト・旺太郎(山崎)のクズっぷりが突き抜けていて痛快ですらある。旺太郎と宰子が毎回するキス、そして毎回死んではクワッと瞳孔を見開く山崎のプロ根性(やっていてあまり楽しい演技ではないだろうに)も見どころ。宰子には特殊な力があるが、旺太郎にも狙った女はほぼ落とせるという驚異のイケメン力がある。ほぼ毎回、ラブホテルでのシーンがあるのはサービスなのかウケを狙っているのか。それも深夜枠の自由度を活かしているとも言えるし、とにかくこの設定に乗ってしまったもん勝ちのウェルメイドなオリジナルドラマである。


参考:SNSでも悶絶の嵐 『トドメの接吻』山崎賢人が魅せる“キスシーンの凄み”


 ヒロインは、キスをするとなぜか相手が死んでしまうという不思議な力を持った宰子。門脇が痛い女にもかわいそうな子にも見えるようにうまく演じている。がに股で歩く姿は不気味にも見えるし、なんだかかわいくもある。最初にキスした同級生が死んでしまったというトラウマを抱え、他人と深く関われないまま生きている宰子が、旺太郎と一緒に行動するうち彼に勇気づけられていくのは少女漫画の王道的展開だ。と、第4話まで観て思った。このドラマの基本的な骨組みは、実は少女漫画原作の大ヒット作『花より男子』に似ているのでは? だからこそ観る人は奇抜な設定を受け入れやすいのではないだろうか。


 今さらながら、かいつまんで説明すると、『花より男子』とは、庶民育ちのヒロイン・つくしが、お金持ちの子が通う高校に入り、学園を牛耳るF4(花の4人組)というイケメン集団と対決。そのリーダー格の男子・道明寺と反発しあいながらも恋に落ちていくという物語。イケメンが次々に出てくる乙女ゲーム的な物語の元祖とも言える。井上真央が主演したドラマ版を観ていた人も多いだろう。


 『トドメの接吻』でF4に相当するところの“イケメン4人衆”を演じるのは、山崎賢人(旺太郎役)、新田真剣佑(ホテルグループの御曹司・尊氏役)、佐野勇斗(クルーズ会社の御曹司・寛之役)、宮沢氷魚(道成役)。旺太郎だけはセレブリティではないのだが、彼らがハイソサエティの乗馬クラブに集っている姿はそのままF4のようだ。誰が『花男』の道明寺に該当して、誰が花沢類みたいなのかと考えてみると楽しいかもしれない。さらに謎のホームレス・春海役の菅田将暉と旺太郎に愛を告白した和馬役の志尊淳も出演していて、まさに旬のイケメン祭り。女性視聴者にとっては乙女ゲーム状態である。


 『花男』のヒロイン・牧野つくしに該当するのはもちろん宰子だが、宰子は今のところ旺太郎としか交流していない。むしろ旺太郎に「落としてやる」と狙われる一方で義理の兄の尊氏にもプロポーズされる社長令嬢・美尊(新木優子)の方が、少女漫画的なヒロイン像を担っているかもしれない。そして、宰子はタイムリープの能力、美尊は大企業の相続権を持っているがゆえに、野心的な男性たちに利用されるという設定が、なんともドライでダークだ。


 日曜夜10時半からというニッチな時間帯を狙ったこの「日曜ドラマ枠」は、3年前の改編期、2015年4月に新設された。オリジナル作もあるが、主に『デスノート』や『臨床犯罪学者 火村英生の推理』などコミックや小説を原作に、若い視聴者がアニメ感覚で楽しめるフィクション性の高いドラマを放送してきた。『トドメの接吻』は『デスノート』の鈴木亜希乃プロデューサー(日テレ アックスオン)と脚本・いずみ吉紘が再び組んだもので(同作では山崎賢人が名探偵Lを演じていた)、『デスノート』の変奏曲的な作品とも言えるだろう。名前を書き込むと相手を死に追いやることができ、死ぬ時期や死ぬ前の行動を操れるデスノートと、宰子の死のキスは共に「死を利用するツール」として機能している。デスノート的な設定をうまく組み込んでドラマオリジナル作を作れたのは、この枠のスタイルが確立されてきた兆し。今年から来年にかけて、この枠からヒットが生まれるかもしれない。


 そして、『花より男子』は折しも、その続編『花のち晴れ~花男 Next Season~』が4月クールのTBS系で放送されることが決定しているが(主演は杉咲花)、Windows 95以前の1992年に原作の連載が始まった『花男』の世界観が、今の若い視聴者層にフィットするのかというのは不安要素だ。現在は、誰でもスマートフォンを持ちインターネットで簡単につながることができるけれど、その人の本性までは分からない。旺太郎のように相手をだまそうとする人もいるかもしれない。そんな今の時代では、誰が誰を裏切るか分からない『トドメの接吻』の方が嘘っぽくなく感じられ、楽しめるのではないだろうか。性善説より性悪説の方がリアル。『花男』では男女の心が通じ合う瞬間として描かれたキスシーンが、ここでは恋愛感情抜きのリセット装置でしかなく、そのまま最後まで行くのかも気になるところ。いっそ、宰子のタイムリープ能力を狙って、イケメンたちが全員、唇を奪いに来るというダークサイド全開の展開になっても面白いけれど……。どこまで突き抜けられるか、それとも王道の恋愛路線に収まっていくのか、今後の放送を見守りたい。(小田慶子)


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。