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日本のドラマ界にとって大事な一手? 安藤サクラ、朝ドラ『まんぷく』ヒロイン抜擢を考える

2018年02月03日 09:32  リアルサウンド

リアルサウンド

 2018年度後期のNHK連続テレビ小説『まんぷく』のヒロインに安藤サクラが発表され、朝ドラ史上初の“ママさん”ヒロインとして話題を呼んでいる。


 本作でモデルとなるのは、日清食品創業者の安藤百福氏とその妻・仁子(まさこ)氏。戦前から高度経済成長時代にかけての大阪を懸命に生き抜く夫婦が、“インスタントラーメン”の開発に成功する物語を描く。


 安藤は映画『風の外側』(2007)のヒロイン役で本作的にデビューして以来、『愛のむきだし』(2009)、『かぞくのくに』(2012)、『0.5ミリ』(2014)、『百円の恋』(2014)などで数々の映画賞を受賞。2017年には、『島々清しゃ』、『追憶』、『奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール』、『DESTINY 鎌倉ものがたり』と4作にも出演し、映画女優として益々の活躍を見せている。無類のドラマフリーク・麦倉正樹氏は、今回の安藤のヒロイン抜擢について、次のように評する。


「安藤百福はインスタントラーメン産業の創始者として、世界的にも認められている人物。これまでNHK大阪放送局が制作してきた『あさが来た』『べっぴんさん』『わろてんか』などで描かれてき人物よりも知名度があって、注目度が高いのは間違いありません。しかし、その妻・仁子氏に関しては、ほとんど資料がなく、これまであまり描かれることがなかった。そういう条件の下でも、ちゃんと人間味をもった人物として描けるような高い演技力をもった女優ということで、今回の大抜擢に至ったのではないでしょうか。


 安藤さんは、昨年の第30回東京国際映画祭での企画『Japan Now 銀幕のミューズたち』で、蒼井優さん、満島ひかりさん、宮崎あおいさんとともにフィーチャーされていたように、30代女優の中では、名実ともに日本を代表する実力派。少女期ではなく、20代の後半に安藤百福と結婚して以降が物語のメインとなるようですし、演技力という意味ではもちろん、年代的にも彼女の抜擢は間違いないのではないでしょうか」


 そんな安藤の魅力がお茶の間レベルで多くの人に知られるようになったきっかけは、2016年に放送されたドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)への出演だったと麦倉氏は振り返る。


「デビュー直後から演技派として、癖の強い役、いわゆる“助演役”が多く、“個性派女優”のイメージが定着していました。そんな時に、『ゆとりですがなにか』で連続ドラマのヒロイン役に挑戦したのは、彼女にとってもひとつの冒険だったように思います。もちろん、それまでもTVドラマに出演していたし、映画女優としての凄みのある演技は評価されていましたが、『ゆとりですがなにか』で彼女が演じた等身大のヒロイン像によって、今までとは違う“親近感”を持ったという人は多いのではないでしょうか。そのように、TVドラマにおいても彼女の演技の上手さが周知されたタイミングだったことも、今回の抜擢理由のひとつだったのではないでしょうか」


 また、安藤が主演に抜擢されたこともさることながら、本作は社会的にも注目度の高い作品になるのではないかと麦倉氏は続ける。


「先日行われた安藤さんの会見に対して、小さい子供を育てているお母さんたちの共感の声が続々と上がっています。特に、最初にオファーをもらった際の『悔しくて泣いた』というコメントが話題になっていました。子育てを優先して、本来なら絶対に受けていた仕事を、泣く泣く断った。そんな経験をもった女性は、実際のところかなり多いのはないでしょうか。安藤さんが『DESTINY 鎌倉ものがたり』以降、しばらくは子育てに専念するつもりだったということを、この会見で知った方もたくさんいたはずです。しかしながら、安藤さん自身も葛藤の末、家族の後押しや『働き方改革』を推進するNHKの説得もあり、今回のオファーを受けることを選んだ。女性の働き方や子育てが問題になっている現在、周りのサポートを受けながらあえて仕事を選んだ彼女を応援しようという人は、彼女の同世代を中心に、かなり多いのではないでしょうか。それもあって、今回の抜擢は、社会的にも注目度の高いニュースとなったような気がします。


 ちなみに、近年ハリウッドでは、男性に比べて低い女性のギャランティの問題や、ハーヴェイ・ワインスタインに端を発するセクハラ騒動、それを受けての『#MeeToo』運動など、女性が役者をやっていくことの厳しさと、業界をはじめとする周囲の理解のなさが、社会的にも問題視されています。日本の芸能界は、その風潮を必ずしも真摯に受け止めているとは言い難い状況ではありますが、そういった状況であるからこそ、今回のドラマをいい形で成功させるのは、NHKにとっても、果ては日本のドラマ界や女優という職業にとっても、非常に大事な一歩になるのではないかと期待しています」


 放送はまだ半年も先になるが、安藤を支えていく今後のキャスト発表を心待ちにしながら、放送を見守っていきたい。


参考:『わろてんか』折り返し地点でさらに面白く てんたちの奮闘が描く、近代芸能史の輪郭


(大和田茉椰)