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「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『RAW~少女のめざめ~』『スリー・ビルボード』

2018年02月02日 21:32  リアルサウンド

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 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、編集スタッフ2人がそれぞれのイチオシ作品をプッシュします。


■『RAW~少女のめざめ~』
 心はいつまでも永遠の少女・阿部がオススメするのは 、2月2日公開の『RAW~少女のめざめ~』。


 本作は失神者が出るほどグロテスクだと、海外で話題になっていたフランス発のホラー映画。厳格なベジタリアンの少女ジュスティーヌが、大学の“新入生しごき”で人生で初めて肉を口にしたことで、カニバリズムに目覚めてゆく。


 『食人族』や『羊たちの沈黙』『グリーン・インフェルノ』などカニバリズムを化け物として扱った映画はこれまでたくさんあったが、本作は“人を食べる行為”を主人公の視点から描いているのが特徴的。


 ただグロテスクなだけでなく、ジュスティーヌが抱える「イケないことなのに、止められない」カニバリズムへの葛藤は、少女が性に目覚めるメタファーとして描かれている。目覚めた対象が“食人”なだけであり、ジュスティーヌはあくまでも普通の女の子で、子供から大人に変化していく怖さというのは、思春期を経験する誰しもに重なるはずだ。本作は、自分の中に生まれた“異常な部分”をどう受け入れ、対処していくのかをテーマにしたホラー映画を超越した青春ムービーでもあると言える。


 さらに、映像もヴィヴィッドカラーを基調としており、ホラー映画ながら非常にスタイリッシュ。その美しさが、目を覆いたくなる残酷描写をさらに引き立てていく。


 ちなみに目を覆っても、生々しい音が映画館中に響き渡るので、恐怖から決して逃げることはできない。わたしは、グロテスクなシーン2か所で途中退席を検討した。鑑賞後、胃と心に経血のようなドロドロとした感情を抱えることになるが、不思議とジュスティーヌに虜になっている自分もいる。


 『RAW~少女のめざめ~』は、「気持ち悪いけど、また見たい」と観客の心に何かを目覚めさせてしまう新感覚のホラー映画だ。


■『スリー・ビルボード』


 髪の長さは、逆ウディ・ハレルソン。そんなリアルサウンド映画部のロン毛担当・宮川がオススメするのは、マーティン・マクドナー監督作『スリー・ビルボード』。


 第74回ヴェネチア映画祭脚本賞、トロント映画祭2017観客賞、第75回ゴールデングローブ賞映画部門作品賞、そして現地時間3月4日に授賞式が行われる第90回アカデミー賞では作品賞を含む6部門7ノミネートを果たすなど、ギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』と並んで賞レースを賑わせている話題作がついに公開された。


 アメリカの片田舎の大通りに並ぶ3枚の看板に、ある日突然真っ赤な広告が現れたことで巻き起こる騒動を描いたクライム・サスペンスとなる本作。そのあらすじとスタッフ・キャスト以外、予告編も観ずにほとんど事前情報を入れず、特別招待作品として上映された昨年の第30回東京国際映画祭でこの作品を観て、「こんな話があっていいのか!」と度肝を抜かれた。


 フランシス・マクドーマンド演じる主人公のミルドレッドは、何者かに娘を殺された人物だ。事件から7カ月が経つにもかかわらず、何の進展もない捜査状況に腹を立てた彼女は、警察署長に向けて広告看板でメッセージを発信する。この行動を皮切りに、ミルドレッドはとんでもない行動を次々と起こしていく。彼女の言動は、“クライム・サスペンス”である本作がどこかコメディーにも見えてしまうほどで、普通に考えたら“ありえない”ことばかり。サム・ロックウェル演じるディクソン巡査や、ジョン・ホークス演じるミルドレッドの元夫、ピーター・ディンクレイジ演じるジェームズなど、登場するキャラクターのほとんどが、どこかおかしいのだ。そんな登場人物たちのキャラクター造形に加え、ひとつの事件から複数の人間たちの関係が複雑に、しかも想像もできない方向性に我々を連れて行ってくれるその脚本の巧さが、本作最大の魅力ではないだろうか。


 その衝撃を体験するためにはなるべく情報を入れないことがベストだと思うので、ストーリーの詳細を綴るのは控えておくが、最近は『ゲット・アウト』や『バリー・シール/アメリカをはめた男』などでも強烈な印象を残していたケイレブ・ランドリー・ジョーンズが、ここでもまた男の色気溢れる素晴らしい演技を披露していた。筆者は2014年、第27回東京国際映画祭で『神様なんかくそくらえ』が上映された際に、来日した彼がQ&Aに登壇したのを見ているのだが、実際の彼は、映画の中で演じるキャラクター以上に自由で、カッコよくて、いい意味で空気が読めなくて、とても好感を持ったのを覚えている。『スリー・ビルボード』でのケイレブ・ランドリー・ジョーンズは、彼のフィルモグラフィにおいて過去最高とも言える“いい役”なので、そこにもぜひ注目していただきたい。