トップへ

松山ケンイチの「大丈夫」が染みる どんな人間も肯定してくれる『となかぞ』の優しさ

2018年02月02日 15:22  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 様々な家族の問題を描いた『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)は、コーポラティブハウスと呼ばれる集合住宅に住む4家族を描いた人間ドラマ。


参考:深田恭子&高橋メアリージュン、複雑な女性の心理を体現 『隣の家族は青く見える』の演技を読む


 第1話から嫌な予感はあったものの、早くも第2話で亀裂が入ったコーポラティブハウス。第3話では、五十嵐奈々(深田恭子)&大器(松山ケンイチ)夫妻の不妊治療を中心に描きつつ、各家庭に生じたねじりが複雑化していった。


■奈々がついに本音を吐露


 今回特に印象的だったのは、不妊治療に励んできた五十嵐奈々の心境の変化だろう。現実味がないほどの優しい心を持つ奈々は、これまでコーポラティブハウスの太陽的存在で、結果が出ない不妊治療にもめげずに挑み続けてきた。


 しかし、第3話では、排卵誘発剤「クロミッド」の副作用も影響してか、些細なことにもいら立ちを覚えてくるようになる。大器の両親が営む焼き鳥屋「いがらし」では、同店で働く糸川啓太(前原滉)の子を身ごもる琴音(伊藤沙莉)が初めて胎動を感じ、家族と客と共に赤ちゃんの成長を喜ぶが、居合わせた奈々はどこか浮かない表情。その後、奈々に妊娠の兆候はあったものの、結果的には失敗に終わり、さらに気分は沈んでいった。


 妊活の壁の高さにぶち当たってしまった奈々は大器に、「みんなが喜んで、幸せそうにしてるのに、わたしだけ喜べなくて……そんな自分がすごく嫌だった」と、珍しく愚痴を吐露。相手に対して嫌な気持ちを持つだけでなく、自己嫌悪にも陥ってしまう“嫉妬”は、人間が抱く中でも特に厄介な感情だが、大器は「それで喜んでたらお人良し通り越してバカだぜ?」と“嫉妬”を肯定する。


 「だったらバカの方がいい」。どんどん黒く染まっていく自分の心を受け入れられない奈々の心情が、この一言に詰まっていた。大器は、良く言えば楽観的、悪く言えば能天気な性格で、時に奈々の首をかしげさせてしまうこともある。しかし、今回負の感情のループに陥った奈々に「大丈夫だよ」「こんなに待ちわびてんだから。来ないわけないじゃん。来なきゃ損じゃん」とかけた言葉は、“どこにもぶつけられない悲しみ”の対処法として大正解だったのではないだろうか。


 「大丈夫」という言葉は時に無責任さを孕む場合があるものの、虚しさから抜け出せない時に掛けられる、愛する人からの「大丈夫」は、やはり救いの光になってくれる。現実はそうはいかないと分かっていれど、SNSでも「こんな旦那さんが欲しい」との声が多数上がっていた。


■マイノリティーが明るみに


 世の中にはもちろん様々な人がいるのだが、“様々”の一言で終わらせないのが本ドラマのいいところ。セリフが多少説明的なのでCMを見ているような気持ちになるシーンがあるものの、不妊治療は費用がかさむことや、検査開始日の妻の年齢が35歳以下でないと助成金が受けられないことなど、当事者にしか分からない苦労が明るみにされている。


 劇中でも出てきたが、不妊治療中に生理が来てしまうことを「リセット」というらしく、妊娠の兆候が出て期待に胸を膨らませる中の「リセット」は、精神的に相当キツいのだそうだ。


 また、ゲイであることを奈々に打ち明けた青木朔(北村匠海)は、恋人の広瀬渉(眞島秀和)のことを「クローゼット」だと紹介する。「クローゼット」とは、LGBTであることを世間に公表しない人を表す隠語。オープンな朔が、「クローゼット」な“わたるん”を思いやり、奈々に優しく口止めする姿からは、“愛する人の嫌がることはしない”という大きな愛が感じられた。


 いくら多様性を重んじる時代とは言え、自分に身近な存在でなければ興味が湧かないのが人間の性。人々が隠し続けてきた本音を描く本ドラマは、“様々”な人々を生きやすくするきっかけとなるかもしれない。(阿部桜子)