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ゴールデンボンバー楽曲の根底にあるもの 最新作『キラーチューンしかねえよ』から読み解く

2018年02月02日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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■金爆の根底にある「持たざる者のルサンチマン」


 ゴールデンボンバーの魅力といえば、楽器を演奏しないことで発生する予想の付かないパフォーマンス、親しみやすいメロディ、そして2014年には隆盛を極めていた「特典商法」に疑問をなげかける「特典ゼロ」の真っ白なジャケットでリリースしたシングル『ローラの傷だらけ』、昨年は3月に『ミュージックステーション 3時間SP』(テレビ朝日系)の生放送中に「#CDが売れないこんな世の中じゃ」の無料配信を敢行。7月にはLINEスタンプでのベストアルバムリリース(なおリリース記念イベント本編はLINEスタンプで音楽を流せる時間と同じく8秒)、11月にリリースされたシングル『やんややんやNight ~踊ろよXX~』では「XX」部分を都道府県名にし47種類リリースするなど、音楽業界の常識を破るギミック……などなど、あげるとキリがない。


(関連:鬼龍院翔&X JAPAN Toshlがコラボする必然性 ふたりの関係性から読み解く


 ゴールデンボンバーの楽曲の作詞作曲すべてを手がける、鬼龍院翔(Vo-karu)の歌詞の根底にには一貫して「ルサンチマン」があるように思う。今でこそ「ゴールデンボンバー=演奏しないエアーバンド」というイメージはお茶の間に浸透したが、エアーバンド活動を始めた当初はライブハウスやメディアから理解を得られずに門前払いをくらったことも少なからずあったということがメンバーやマネージャーのインタビューなどで度々語られている。


 認められない、(V系シーンで注目を集めつつはあったが一般的に見ると)売れない、お金もない、そんな時期に発表されたのが「幸せな歌」(2009年7月)だ。


<幸せな歌を歌いたい けれど僕は幸せを知らない>


 そんな歌い出しから始まるこの曲は、「セックスの歌を歌いたい」「同棲の歌とか歌いたい」と、己の欲望と、それを持っていないルサンチマンについて爽やかなサウンドで歌い上げる。


 ゴールデンボンバーの運命を変えたのは、この直後にリリースした「女々しくて」(2009年10月)だ。もはや説明不要のヒット曲だが、リリースしてすぐにヒットしたわけでなく、今でいうYouTuber的な身体を張ったおもしろ動画や、自ら「パクられる前に自らパクってみた」というパロディ動画をあげることによってネット住民の心をつかみ、2011年にはハウス食品の「メガシャキ」CMソングとして替え歌の「眠たくて」を発表しお茶の間の知名度を獲得。そして「女々しくて」で『NHK紅白歌合戦』に出場したのはリリースから3年後の2012年という、彼らみずから自虐的に語る「一発屋」としては長い時間をかけて生み出された「国民的ヒット曲」なのである。


■「女々しくて」の成功と呪い


 「女々しくて」でバラエティ番組で「いくら稼いでる?」という印税ハラスメントをたびたび受けるほど成功を手にしたゴールデンボンバーだが、成功によって手に入れたものもあれば、失ったもの、いまだに手に入れられないものもある。そんな心情が綴れられているのが2015年にリリースされたオリジナルアルバム『ノーミュージック・ノーウエポン』収録の「欲望の歌」だ。


 <どうも食いつきがよいと思ったら 実はファンでしかもお目当ては他のメンバァァァァァァァァ!!><ああああ面白くねぇ 想像と違うなあ><あの頃感じた 劣等感は いつまでも僕に寄り添う>とシンフォニックなメタルサウンドにのせてブチ上げ、<結果、環境は大きく変わった 僕は欲望を保ったまま 何かを手に入れたつもりだった>とヴィジュアル系ソングあるあるの「語り」が入り、それはこんな言葉で締めくくられる。


<もう性格も顔も治らないだろう 歌って誤魔化すしかないんだ、歌って、祈るように、、、!!!!!!>


 「歌って誤魔化すしかない」とある種開き直りのように絶叫する鬼龍院だが、ライブをすればアリーナクラスを満員にし続け、テレビの音楽特番や国内フェスの常連にもなり、シングル曲もコンスタントにチャートインしている「消えない一発屋」の位置を盤石なものにしている。しかし、そういった場合の代表曲はやっぱり「女々しくて」だ。たとえば昨年出演した秋の『ミュージックステーション ウルトラFES』、年末の『ミュージックステーション スーパーライブ2017』、どちらも演奏曲は「女々しくて」。「ウルトラFES」では、dボタンの視聴者投票によってメンバーが爆発するというギミック、「スーパーライブ2017」では生演奏を披露する(そののちやっぱり爆発)というギミックが施されており、飽きさせないサービス精神には感服するしかないのだが。


 そもそもTVの音楽特番で「その年の代表曲」を披露すること自体が少なくなったという風潮もある(なお11月には「やんややんやNight ~踊ろよ東京~」でレギュラー放送のMステに出演している)。戦術家としての鬼龍院としてはそれでいいのかもしれないが、芸術家としての彼としてはどうなのだろう? 「女々しくて」以外にも名曲が多いというのはファンの間では常識ではあるものの、一般層からすると「女々しくて」ばかりが取り沙汰される状況には思うことがあったのかもしれない。たとえば2016年の音楽特番『THE MUSIC DAY 夏のはじまり。』(日本テレビ系)にて「水商売をやめてくれないか」を披露した際に、ブログで鬼龍院は「め…女々しくてじゃなくていいんですか!?( ゚д゚) ありがとうございます!m(_ _)m笑」と綴っている(参照:鬼龍院翔オフィシャルブログ)。まあ昨年8月には「女々しくて芸人 鬼龍院翔 プライドはあまりありません 替え歌ホイホイやります、御依頼お待ちしております\(^-^)/」(参照:鬼龍院翔オフィシャルブログ)ともあるが。


 そんな状況を反映しているのが1月31日にリリースされた、2年半ぶりのオリジナルアルバム『キラーチューンしかねえよ』というタイトルなのではないかと考える。ブログによるとこのタイトルはある種のフェイクでただ良い曲が入っているということだが(参照:鬼龍院翔オフィシャルブログ)、ルサンチマン、フラストレーションの果ての直球の開き直りではないだろうか。


 昨日公開されたインタビューでは、「女々しくて」を超えるヒット曲が出せないことをスランプだと悩んでいたと明かしており、しかし今では「もうヒットしなきゃという悩みからは脱出して自分が良いと思った曲を作るのみです」と語っている(参考:https://www.uta-net.com/user/interview/1801_goldenbomber/index.html)。


 成功を獲得し、それでも手に入らないものはある、しかしながら自分が信じることをやるしかないという境地にたどり着いたゴールデンボンバー。本作には歌謡テイストの「燃やして!マイゴッド」からタイトルそのままのサビがくせになる「海山川川」、そして「お前を-KOROSU-」ではモテ男に対しての怨念を爆発させ、「#CDが売れないこんな世の中じゃ」とパンキッシュに叫ぶ。しかしやはり根底にあるのは持たざる者の情念である。そして売れる前から売れた後でも一貫してそのルサンチマンは「やさしい」のが特徴だ。たとえばPVが先行公開されていた「やさしくしてね」やアルバムを締めくくる「ドンマイ」は聴くものに優しく寄り添う。J-POPの申し子と呼べるような鬼龍院翔の才能がつまった13曲が収録されている。


 本作リリースの際にも、「メンバーも初聴き」というエアーバンドならではのギミックを仕掛けたライブを1月29日に東京・豊洲PITで行い、そこで収録曲の「誕生日でも結婚式でも使える歌」は「いろいろなところで使ってもらえたら」使用料フリーであることを発表。多くの人に届くのであれば替え歌もいとわないように、「ユーザー本位」なのも彼らの「やさしさ」なのかもしれない。思い返せば、ブレイク前に口コミで広がった理由のひとつは、常識破りの「安価なワンコインシングル」だった。コストを下げるためコロッケ用の袋に入っていたという。「良い曲をユーザーの手に取りやすいように」というスタンスは昔から変わらない。


 今週の『ミュージックステーション』では『キラーチューンしかねえよ』収録曲を2分半で全曲披露するという。また彼らのことだから、こちらの予想の遥か上を行くインパクトあるギミックを考えているに違いない。しかし、これを機会に楽曲もしっかりと聴いてほしい。なぜならば、そこで披露される曲にはキラーチューンしかねえ、のだから。(藤谷千明)