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初登場1位『祈りの幕が下りる時』にみる、ブーム以降の「テレビドラマ映画」の傾向

2018年02月02日 11:42  リアルサウンド

リアルサウンド

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 先週末の映画動員ランキングは、土日2日間で動員20万6000人、興収2億6500万円を記録した『祈りの幕が下りる時』が初登場1位を飾った。阿部寛主演、東野圭吾原作の『新参者』シリーズが映画化されるのは、2012年1月公開の『麒麟の翼~劇場版・新参者~』以来、ちょうど6年ぶり。この6年間にテレビドラマの映画化作品をめぐる状況は大きく変わり、ヒット作品がなかなか出なくなり、製作本数自体も大きく減少しているが、興収16億8000万円をあげた『麒麟の翼~劇場版・新参者~』』とほぼ同水準の興収比95.9%という数字を叩き出した『祈りの幕が下りる時』は異例の成功を収めていると言っていいだろう。


参考:初登場1位は『ジオストーム』 ヒットの理由は超大作感を煽る予告編の完成度!?


 テレビドラマ映画化作品のヒットが出なくなった背景には、そもそもテレビドラマが初回放送時に高視聴率をあげにくくなっているという構造的な問題に加えて、本作の監督・福澤克雄が演出を務めていた『半沢直樹』をその筆頭に、ドラマのヒット作がキャストや脚本家の都合でなかなか映画化されにくくなっているという現状がある。テレビドラマの企画が立ち上がった段階で映画化を前提にキャスト、脚本家、演出家を押さえておくという方策もあるにはあるが、放送時に話題にならず、映画化の際に目も当てられないような惨状を呈してしまったいくつもの失敗作を経て、近年は『相棒』のような長寿ドラマやティーン向けの深夜ドラマの映画化を除いて、各テレビ局はドラマはドラマ、局製作の映画は映画といった方針に舵をきっている。


 『祈りの幕が下りる時』の製作委員会には当然のように『新参者』を放送したTBSが参加していて、通常のテレビドラマ映画のように、公開直前の同局のバラエティ番組には阿部寛が出ずっぱり状態で作品の宣伝に奔走していた。しかし、お気づきのように映画のタイトルには肝心の「新参者」の文字がない。この傾向は、製作局は違うものの、同じ東野圭吾原作『ガリレオ』シリーズの映画化作品、『容疑者Xの献身』(2008年)と『真夏の方程式』(2013年)の成功にあやかったものであると考えられる(もちろん、東野圭吾原作作品の場合、映画化に先行して同タイトルで刊行されている原作のファンが一定数いるというのも大きいだろう)。また、いずれのシリーズも、テレビドラマを見ていない観客でも映画の作品世界にすんなり入っていけるような配慮がされている。


 初日に行われたアンケート(シネマトゥデイ調べ)によると、『祈りの幕が下りる時』の観客は年代別で60代が13.1%、50代が40.9%、40代が23.8%と、40代から60代の客層が約8割を占めている。この傾向は同じ東宝配給作品で、先週末も8位とトップ10内をキープしている『DESTINY 鎌倉ものがたり』にもみられたもの。『DESTINY 鎌倉ものがたり』の上映館でかけられている予告編を観て、それがきっかけで劇場に足を運んだ客も少なからずいたはずだ。昨年末から今年の頭にかけて実写日本映画の興行を下支えしていたのは、東宝配給のその2作品に限らず、観客の年齢層が高めの作品だった。これからさらに進んでいく日本の高齢化社会。このような傾向は、今後さらに高まっていくに違いない。(宇野維正)