京都大学のiPS細胞研究所で発覚した論文不正問題。背景として、研究者の「不安定な雇用」を挙げる声がある。1月30日放送の「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)が、実態を取材していた。
京都大学のiPS細胞研究所には約400人の職員と研究者がいるが、9割が任期付きの非正規雇用だという。論文にデータの改ざんとねつ造があったとされた36歳の男性助教も、3年契約で今年3月に任期が切れる、非正規雇用だった。男性助教は、「図の見栄えを良くしたかった」としている。(文:okei)
成果を出さなければと焦る任期付き雇用の現実
4年前STAP細胞の論文不正で問題になった理化学研究所も、約3000人の研究者の9割が任期付きで、小保方晴子氏も同様だった。匿名で取材に応じた理研の30代の研究者は、
「有期雇用の人が(不正を)やったと思う。業績を稼ぎたい気持ちはわかります」
と、不正に手を染めた助教の心情に理解を示している。
彼もまた、1年間の任期付き雇用を10年続けてきたが、毎年、年度末になると首を切られるプレッシャーを感じるという。研究を行う上で、データの改ざんまでは行かないものの、危ういシーンを見たこともあるそうだ。同僚の中には10月頃から転職活動をする人もいる。「それが研究を阻害している」と窮状を訴えた。
こうした厳しい雇用状況に、iPS細胞研究所の山中所長も以前からたびたび危機感を表し、改善や助力を訴えてきたものの、状況は変わっていない。
なぜ非正規に? 削られる運営費と「どかない」シニア
かつて、大学に入った研究者(教授など)は雇用の安定が約束されていた。なぜ、今は非正規雇用が多いのか。近畿大学の榎木英介博士によると、「研究費がプロジェクト単位になってきている」ことが大きいという。
大学が自由に使い道を選べる「運営費交付金」という資金は、ここ10年あまりで1割以上削減された。代わって増えたのが「プロジェクトごとの研究資金」だ。テーマや期間ごとに国や企業から研究資金を受けるため、その範囲内で研究者を雇用する。任期付きのほうが、運営上都合が良いのだ。そこには、政府の「選択と集中」、いわゆる競争原理を研究に導入しようという意図があるという。
さらに、榎木博士は「世代間問題」もあると指摘する。若手研究者が任期付きの雇用に移行したが、シニアはそのまま任期のない職で、
「あまり成果の出ない教授が居座っていて、なかなかどかない」
というのが現状だ。内閣府の調査では、任期付きの研究者のうち、50.6%と半数以上を30代が占めている。一方、それより上の世代(特に50~60代)の割合は、大幅に低い。
「将来を期待できる若い研究者が潰れていく」
視聴者からはツイッター上で、取材したテレビ東京を称賛する声や、この状況を憂えるツイートが相次いでいた。さらに、こんな声が上がっている。
「就職氷河期世代とモロかぶりだよね。>研究者の非正規雇用 それについて誰も責任を取らないんだよね」
研究は頑張れば成果が出るというものではなく、結果が利益に直結するとも限らない。必要な資金が用意できない研究職の現場に、日本自体の余裕の無さを感じてしまう。
大江真理子キャスターは、「どんな理由があったとしても、不正に手を染めてはいけないのは大前提ですが、この状況が続くと研究者は疲弊してしまいますよね」と述べた。コメンテーターの学習院大学・伊藤元重教授も、
「今のままだと将来を期待できる若い研究者が潰れていくような。使い捨てみたいなものになりかねないですよね」
とコメントしていた。