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YUKIが考える“すてきな15才”の姿とは ソロデビュー15周年に迎えた歌手としての変化

2018年01月31日 18:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 YUKIのソロデビュー15周年を記念したシングルコレクション『すてきな15才』が1月31日に発売された。YUKIはこれまでも5周年、10周年と、5年ごとに自らの歩みを一つの作品として世に残してきた。喜ばしいことに、本作でその“歩みのしるし”がまた一つ刻まれることとなる。『すてきな15才』はチャック・ベリー「Sweet Little Sixteen」の邦題「素敵な16才」からインスピレーションを受け、15周年に15曲入りのアルバムとして制作されたのだという。


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 本作に収録されている2012年の『プレイボール/坂道のメロディ』から2017年の『フラッグを立てろ』までのシングル曲に改めて目を向けてみると、「坂道のメロディ」(TVアニメ『坂道のアポロン』オープニングテーマ)、「わたしの願い事」(映画『ひみつのアッコちゃん』主題歌)、「STARMANN」(TVドラマ『スターマン・この星の恋』主題歌)、「となりのメトロ」(東京メトロCMソング)、「tonight」(映画『グラスホッパー』)、「ポストに声を投げ入れて」(映画『ポケモン・ザ・ムービー XY&Z『ボルケニオンと機巧のマギアナ』』主題歌)、「さよならバイスタンダー」(TVアニメ『3月のライオン』オープニングテーマ)……この5年の間でYUKIは、アニメ・映画・ドラマ・CMを彩る名曲の数々を歌ってきたことがよくわかる。


 それに加え、アルバム『FLY』(2014年)と『まばたき』(2017年)の発表、ライブでは『BEATS OF TEN』(2012年)、『Flyin’ High』(2014~2015年)、『Dope Out』(2015年)、『dance in a circle』(2015年)、『Blink Blink』(2017年)といった5つの全国ツアーを開催。特に『FLY』リリース後の3ツアーでは、大きく趣向を変えたライブを短スパンで立て続けに披露して来場者を喜ばせた。さらに2017年はアニバーサリーイヤーだったこともあり、大型フェスへの出演、久々のレギュラーラジオなど、とにかく走り続けた。


 「バンドとソロの両方で東京ドーム公演を行った、“史上初”の女性ボーカリスト」という偉業を達成したのは2012年5月、ソロデビュー10周年を迎えたタイミングでの出来事だ。同時期にリリースされたシングルコレクション『POWERS OF TEN』の収録曲は、例えるならばCDジャケットに映るYUKIの髪の毛が浮かび上がるほどのパワーに満ちた、デジタルのリズムやビートに重点が置かれたスタイルが中心だった。しかし今作『すてきな15才』では、YUKIのありのままの歌声を生かし、言葉やメッセージを届けることに徹したポップミュージックが多くラインナップされている。あわせて、サウンドもより楽器の音色が感じられる温かみのあるものが増え、歌声やメロディの美しさが際立っている。いつの時代の写真かは定かではないが、今回のCDジャケットでは、YUKIが飾り気のない姿で、あどけない笑顔を浮かべているのも象徴的だ。


「自分がやりたいと思ったこと、自分ができることを最大限にやって、それをみなさんに楽しんでもらうことが私の仕事だと思っています。何事に対してもベストを尽くすのは当たり前のことで、どうしたらみなさんに喜んでもらえるだろうと考える作業が私はとても好きです」


 『すてきな15才』特設サイトのインタビューでYUKIはこのように語っている。ソロデビューを果たして15年、YUKIの原動力は自分が“楽しむ”ことと、誰かに“楽しんでもらう”こと。だからこそYUKIの作品は、常にリスナーに新鮮な驚きや感動を与え、ワクワクさせ続けることができるのだろう。本作のアートワークはもちろん、未発表曲+デモ音源の4曲からもそれを強く感じることができた。


 「ダーリン待って」は『Dope Out』ツアー中のアドリブセッションから生まれ、歌詞はレギュラーラジオに届いたリスナーからの恋愛エピソードをもとに書かれたのだという。15周年を迎えた今発表されるとは思えないほどの瑞々しさのある曲だ。ティーンエイジャーのような無垢な歌声、抑えきれない思いをそのままのせたようなメロディラインが切なく響く。一方「I love you」は15周年ならではのラブソング。<巨大化した愛 分けてあげよう>この包容力とストレートさはまさに今のYUKIならではの表現だろう。優しく包み込むようなボーカルも心地よい。「穴」では自分自身の過去と対峙するかのような赤裸々な思いとともに<私は幻なんかじゃない>と叫び、聞く者の心を強く揺さぶる。


 さらに、TOKIOに歌詞提供した「手紙」の悠悠として太さのある歌声は、長年YUKIの音楽に親しんできたリスナーにも新鮮に響くはずだ。そしてなにより、このテイクがもっとも良かったとの理由からデモ音源のまま収録されているということが意外だった。これまでのYUKIは、自身があるべき姿を意識し、あらゆるクリエイティブにおいて完成形を世に送り出すことを徹底してきたからだ。しかし、「さよならバイスタンダー」から続く“ありのまま”を歌う姿勢や本作を聞く限り、飾らずに、自分の言葉で自分にしか歌えない歌を歌う。それがソロ歌手としての15才を迎えたYUKIが考える“すてきな15才”の姿だったのではないかと思う。


 今振り返れば、5年前の東京ドーム公演直前に発表した「プレイボール」で<ゲームはまだ終われない>と歌ったあの頃から、YUKIはすでにその先に向けた変化の歩みをはじめていたのかもしれない。キャリアにおけるターニングポイントを越えて生み出された『すてきな15才』は、YUKIを語る上では欠かせない名盤として位置付けられる作品になるだろう。歌手として新たな境地を迎えたYUKIのこれからにも、もちろん期待しかない。(久蔵千恵)