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ムロツヨシが向井理の誤算に? 『きみが心に棲みついた』呪縛から逃れられない登場人物たち

2018年01月31日 17:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 火曜10時ドラマ『きみが心に棲みついた』(TBS系)の第3話。キョドコこと小川今日子(吉岡里帆)は、星名(向井理)からの支配を拒みながらも、そのネジネジと巻かれたストールの首輪をほどくことができない。「俺のために生きてくれ」という言葉が心を縛り、ついには大切な新作発表会で下着姿でランウェイまでしてしまう。学生時代にも、星名が自分だけのものになると信じて、男たちの前で服を脱いだキョドコ。苦い記憶がフラッシュバックする中、ステージをトボトボと歩く姿は思わず目を覆いたくなるシーンだった。その窮地を器用にフォローしてみせたのが、編集者の吉崎(桐谷健太)。一緒に取材に来ていた漫画家スズキ(ムロツヨシ)と共に軽快なトークを披露し、沈黙のステージを笑顔に変えたのだった。


参考:向井理、『きみが心に棲みついた』星名役のハマりっぷりがすごい! 原作と瓜二つの“真っ黒な瞳”


 第3話では、なぜキョドコはここまでひどい仕打ちをされても星名から離れられないのか……という疑問よりも、星名がどれだけキョドコに執着しているのかが明確になったように思う。星名は、キョドコが自分以外の人から興味関心を持たれると、こうして試練を与えて孤立させていくパターンなのだ。キョドコは誰にも愛されてはならない。そうしなければきっと自分を求めてこないという、星名の自尊感情の低さが露呈した回だった。星名のイケメンな外見も生まれながらにして持っていたものではない。仕事ができるように見えるのも人の嫉妬心を焚き付けているだけで、人望や能力があるわけではない。ありのままの自分を認めてくれる人なんて誰もいない……キョドコ以上に星名自身が自分の呪縛から逃れられずにいるのだろう。


 キョドコを、どんなに仕事で振り回しても先輩社員の堀田(瀬戸朝香)はフォローをし、相性最悪だと思っていた八木(鈴木紗理奈)も少しずつキョドコを認め始め、吉崎も新たな味方になろうとしている。また、見逃せないのがスズキの発言だ。「やっぱ、小川さんの話、聞きたいです。僕はどうしてもあの人、気になるんだよな。小川さんが、小川さんがいいです!」キョドコの過去を見ると、いつも透明人間扱いだった。これほど個人として注目をしてくれる存在が出てきたのは、星名にとって大きな誤算だったのではないか。


 スズキもかなり個性的な人物だ。吉崎を「高校までサッカー部のレギュラーで、テニス部の部長、いや副部長タイプの女子とつき合ってて、 うまいこといい大学入ってその抜群のコミュ力で面接突破して出版社に入社した勝ち組かなって」と推察し、「僕はそういうキラキラした青春を美術部の部室から呪ってた」とも。スクールカーストは、ある意味で社会以上に明確だ。仕事という名目があるからこそ、スズキも今では吉崎と対等に話しているが、それでもパシリだったクセは抜けない。


 そう、環境は人にクセを作る。「私なんか」とつい口をついてしまうキョドコも、「キョドコのくせに」とネクタイを緩める星名も、ついキョドコからのメールをチェックする吉崎も、堀田と比べられると火がつく八木も、自分のあざとさを自覚しているからキョドコを「卑怯だ」と感じる飯田(石橋杏奈)も……それぞれが過去の環境や経験からクセができ、そのクセが知らず知らずに定着していく。多くの人が抱えるクセを“普通”と呼んだり、少数派のクセを“変だ”と言ったりもする。きっとスズキも、キョドコと同様に“変な人”というレッテルを貼られてきたのだろう。その感度が高いがゆえに、キョドコがどう変わっていくのか、そもそも変われるのか、なぜそんなクセが強くなってしまったのか、と興味をそそられるのかもしれない。


 その感覚は、限りなく視聴者に近い。キョドコを通じて人は変わることができるのか、それとも別の幸せを見つけられるのかを見てみたいのだ。誰もが、少なからずそれぞれのクセを持っている。もしかしたら、そのクセを自分も周りも受け入れられたとき、はじめて“その人らしさ”となるのかもしれない。なぜなら、ムロツヨシが演じるスズキはクセがだいぶ強い。だが、それがムロツヨシらしさであり、私たちはその様子を愛しく思う。ムロツヨシの演技そのものが、このドラマのひとつの答えを見せてくれているような気がする。(佐藤結衣)