F1マシンの完成には、コンセプトの提案から冬のバルセロナテストで実車を走らせることにこぎ着けるまで、実に1年以上の歳月を必要とする。ルノーF1チームのテクニカル・ディレクター、ニック・チェスターへの独占インタビューを基に、F1マシン製作の全過程を「コンセプトを決める」「開発のスケジューリング」「F1マシンのデザインとは」「マシン製作」の4テーマにわたって紹介しよう。
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●コンセプトを決める(その3)
全体のコンセプトが決まったあとは、燃料タンクの形状、エンジンのサイズ、ギヤボックスの長さとサイズ、サスペンションのジオメトリーなどが、マシン性能を決める重要な要素となっていく。
もちろんこれらはF1の技術規約に則ったものでなければならない(重量配分や最大ホイールベース長なども規定されている)。いうまでもなく空力分野の制限も、同じように厳しいものだ。なので上述のような主要コンポーネントをいかにパッケージングするかは、空力性能を決める上での決定的な要因の一つになっている。
実際の生産工程では、主要コンポーネントはまず内部構造が製作され、ハウジングを作るのはその後なのが普通だ。内部パーツの製作の方がずっと時間がかかるからだが、たとえば冬のテストの際にいくつかの仕様のトランスミッションを試したいからという理由も関わっている。
「新車開発の中でも、ギヤボックスの設計はかなり初期からスタートする。製作までに最低でも6ヶ月のスパンを見込む必要があるし、何よりパワーユニットと足回りに直接連結される重要なパーツだからね。ホイールベースとサスペンションを決めるエンジニアにとっては、ギヤボックスが決まらなければ作業を先に進められないんだ」
「ギヤボックスはサスペンションの負荷を支える構造物でもあるし、リアサスペンションのジオメトリーを決めるには、ギヤボックス上のピックアップポイントがわからないことには話にならない」
「つまりマシン設計においては、すべての要素が密接に絡まり合っているということだ。なので各パーツの設計図は正確に指定されたスケジュールで、それぞれの開発部門から出てくることが絶対に必要なんだ」
「車体デザインは何月何日、ギヤボックスのケーシング設計は何月何日、内部パーツの設計は何月何日という具合にね。それが守られて初めて、実際の製作が開始され、平行して作業を行うことで初めて、冬のテストに完成車を投入することができる」
F1マシンの製作は、文字通り時間との戦いである。なので設計から製作、完成車のテスト走行に至るまでいかにスケジュールを決めるかは、最重要の課題なのである。次回の第2章『開発のスケジューリング』で、それについて説明しよう。