F1マシンの完成には、コンセプトの提案から冬のバルセロナテストで実車を走らせることにこぎ着けるまで、実に1年以上の歳月を必要とする。ルノーF1チームのテクニカル・ディレクター、ニック・チェスターへの独占インタビューを基に、F1マシン製作の全過程を「コンセプトを決める」「マシン製作」「開発のスケジューリング」「F1マシンのデザインとは」の4テーマにわたって紹介しよう。
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●コンセプトを決める(その2)
「各領域での許容範囲内でのデザインスタディを行うことで、ドライバーの両足がマシンのフロント部分のどの辺りに位置するかとか、燃料タンクがドライバーに対してどの位置に来るかとか、具体的なイメージがつかめる。と同時に、マシン全体のボリューム感もわかってくるんだ」
「ただし誤解しないでほしいんだが、空力エンジニアがマシンの形状をすべて決定するわけではない。彼らの決めた形状に従って、他のエンジニアたちがそこに無理矢理パワーユニットやドライバーを押し込んでいたら、まともなマシンはできない。すべてはエンジニア同士の密接な協力が、絶対条件になる」
「実際のところ、いろんな作業は同時進行されて行くものなんだ。空力開発者たちは常に、自分のデザインしたパーツをいかに『合法範囲』内に置けば、最高の空力性能を発揮するか熟考しながら仕事を進める。どのボリュームのデザインにすれば、空気の流れがどう変わるか、彼らは熟知している」
「彼らはフランス・ヴィリーのエンジンエンジニアたちとも、協力して仕事をしている。車体後部のエンジンを含めたパッケージングをどうデザインするかによって、マシン軽量化と空力性能が大きく変わってくるからだ。なのでエンストンとヴィリーの間で、頻繁にコンセプト変更のキャッチボールが行われる」
中でも特に苦労するのが、燃料タンクのデザインだという。
「レース中は最高105kgの燃量を搭載しなければならない。その制限の中で車体とエンジンエンジニアたちは協力して、最適な形状と大きさを割り出して行く。燃料タンク後部は恒常的に、V6ターボエンジンが発する高熱にさらされる。これもかなり、頭の痛い問題だ」
「長さと幅で、かなり高いレベルでの妥協点を見つけ出す必要がある。たとえば幅広のタンクにすると、冷却系の効率悪化と空気抵抗の増大を招く。一方でERS(エネルギー回生システム)の効率を増せば、それ自体の温度は高くなるもののラジエターを小型化できる。同時に、空力効率の向上も見込めるわけだ」
(その3に続く)