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ももいろクローバーZは新たな始まりを告げたーー有安杏果卒業と4人のこれから

2018年01月30日 08:02  リアルサウンド

リアルサウンド

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 ももいろクローバーZの有安杏果が1月15日、突如グループからの卒業を発表したことはモノノフ(=ももクロファンの総称)をはじめ、各方面に衝撃を与えた。きっと誰もが「ずっと5人だと思っていたももクロが、5人でなくなる」という事実のみならず、卒業発表から6日後の1月21日に“5人のももクロ”として最後のライブを行うというスピード感に驚かされたことだろう。


 そして、ついに迎えた有安の卒業当日。『ももいろクローバーZ 2018 OPENING ~新しい青空へ~』と題したライブが幕張メッセ国際展示場9~11ホールにて開催され、会場には2万9765人、隣の幕張メッセイベントホールで実施されたライブビューイングには7472人ものモノノフが、有安の新たな門出を見守った。


 会場に到着してまず驚いたのは、その広さと収容人数だ。発表からたった6日間で約3万人を集客し、チケットが手に入らなかった者はライブビューイング、あるいは当日生中継が行われたAbemaTVを通じてライブを観覧したわけだから、発表タイミングがもっと早ければさらに大きな会場で、大勢の観客を集めることができたのかもしれない。もちろん、それは単なる「たら・れば」の話であり、見方を変えればこのスピード感だったからこそこれだけ集められたとも受け取れる。何はともあれ、常にライブでファンを獲得してきたももクロらしい結果ではないだろうか。


 また、筆者が入場した16時30分過ぎには同時刻にTOKYO FMでオンエア中のレギュラー番組『ももいろクローバーZのSUZUKIハッピー・クローバー!』が場内で流されており、その中で有安は自身の卒業についてや、このあとに始まるライブの意気込みなどを語っていた。場内で開演を待つ時間を退屈に感じる者にとっては、こういう配慮はとてもありがたかったことだろう。


 開演時間になったところで会場が暗転すると、まずはステージに設置されたスクリーンに有安が加入してから卒業を発表するまでを年齢を重ねていく形で振り返る映像を上映。そこから「overture ~ももいろクローバーZ参上!!~」へと続くと、会場のボルテージは一気に加速する。そしてステージには、2014年末の『第65回NHK紅白歌合戦』で着るはず“だった”衣装を身につけた5人が登場。この衣装は紅白実施前に行われた単独ライブ『ももいろクリスマス2014 さいたまスーパーアリーナ大会 -Shining Snow Story-』にて、モノノフが熱いメッセージでイメージカラーに染めた特別なものだ。しかし、有安は直前でインフルエンザを発症して紅白を欠席したため、彼女だけがこの衣装を着ての紅白出場を果たせなかった。そんな思い入れの強い衣装を、自身最後のステージで着ることを選んだことにも、彼女のももクロ、そしてモノノフに対する強い思いが感じられた。


 ライブはももいろクローバーZ名義になって初めて発表された思い出の1曲「Z伝説 ~終わりなき革命~」から勢いよくスタート。続いて有安の加入後初めて制作されたシングル「未来へススメ!」や、有安を中心にフィーチャーした「ゴリラパンチ」、ライブの定番曲「仮想ディストピア」、冬にぴったりなバラード「白い風」と5曲立て続けに披露していく。各曲がパフォーマンスされている間、ステージ後方のスクリーンにはその曲をリリースした当時のアーティスト写真が映し出され、改めて月日の流れとともに5人の成長ぶりを実感させられた。


 それにしても興味深かったのは、この日のステージ構成だろう。先のスクリーンに加え、曲の合間にメンバーが乗って会場を一周するフロート、銀テープといった定番以外は大掛かりな演出がまったくなかったのだ。また、こういった大会場でのライブではダウンタウンももクロバンドと呼ばれる生バンド編成で行われることも多いが、この日は5人だけでのライブとなった。そういうこともあってか、ももクロのアリーナ/スタジアムライブにはお祭りと同様の催しという印象が強く、数々の演出を含めて楽しむというイメージがあった。特に、今回は有安の卒業という一大事だ。彼女を盛大な演出で送り出すこともできたはずなのに、あえてなのかそういったものをほぼ排除して、ライブは5人の歌とパフォーマンスを中心に展開されていく。つまりこの日のライブは、有安最後のパフォーマンスを、そして「5人のももいろクローバーZ」最後のパフォーマンスをじっくり堪能してほしいという思いの表れだったのかもしれない。


 5曲歌い終えた5人は、ステージ後方の高台に上がり、広い会場の後方にいるモノノフたちに向けて「見えますか~?」とアピール。有安は「本当に嬉しいです。今日は精一杯、歌とダンスで感謝の気持ちを伝えたいです」と、来場者に向けて挨拶した。続いてお約束の自己紹介を一人ずつ終えると、百田夏菜子は「5人最後のライブですので、寂しさもありますが、最後まで笑顔でいきましょう!」と満面の笑みで伝えた。そしてライブを再開させると、「行く春来る春」「ツヨクツヨク」でのフロート移動を経て、有安が手袋を着用するオープニングが印象的な「words of the mind ~brandnew journey~」へ。このお約束のパフォーマンスもこの日が最後かと思うと、6人時代から彼女たちを観てきた筆者も何とも言えない感情を覚えた。


 曲終盤でラメが入りキラキラした手袋を客席に投げ込んで、ライブ前半戦は終了。5人が衣装チェンジをしている間、スクリーンには彼女たちのレギュラー番組『ももクロChan ~Momoiro Clover Z Channel~』(テレビ朝日系)などでの有安名場面集が上映され、場を和ませる。そして幕間映像が終わったところで、『MOMOIRO CLOVER Z DOME TREK 2016』で着用した衣装に着替えた5人が再登場。最新シングル曲「BLAST!」からライブを再開させ、続けてサンバ調の「DECORATION」で場を再び加熱させていく。さらに「行くぜっ!怪盗少女」ではその熱気が頂点に達し、モノノフたちのコールにもさらに熱が入っていく。それもあってか、曲終盤の有安のフェイクもいつもより力強いものが感じられたような気がした。


 そんな会場の空気を一変させたのが、続くバラード「灰とダイヤモンド」。個々の歌唱力が重要となるこの曲で、有安は“ももクロの歌姫”らしく堂々と、そして伸び伸びとした歌声を会場に響き渡らせた。さらに「走れ!」「モノクロデッサン」では再度フロートに乗って場内を一周し、5人は場内のモノノフたちに手を振り続けた。


 ここまでの14曲を5人だけで突っ走ってきたももクロだが、ついに終わりが近づいてきた。ここから有安に向けて、メンバー4人が一人ずつメッセージを贈っていく。その詳細はすでにさまざまなメディアで公開済みの「全文書き起こし」に譲るが、個人的には高城れにが腕を骨折した際に有安が高城をサポートしたことが心の支えになったこと、佐々木彩夏の「ももクロを辞めてよかったと思うぐらいの人生を送ってほしいし、私たちはあのとき辞めなきゃよかったと思ってもらえるぐらい輝いていたい」という発言、玉井詩織の「年も近くて血液型も一緒なのに、性格は正反対。でも、自分にないものを持っている杏果を見て、密かにああなれたらと思っていた、よきライバルでした」という告白が印象に残っている。また、百田による「本当は10周年は5人で迎えたかったです」という本音がこぼれると、場内からはモノノフたちのすすり泣く声が一斉に聞こえてきたのも印象的だった。


 4人が有安にメッセージを贈ると、彼女へのサプライズとして贈る曲「新しい青空へ」をプレゼント。これには有安も驚いた様子で、4人は有安を囲んでそれぞれの思いが綴られた楽曲を歌っていく。途中、高城が泣き崩れてしまう場面もあったが、そんな彼女に有安は優しい微笑みを贈る。さらに曲の後半には、有安のソロ曲「ありがとうのプレゼント」の一節がフィーチャーされ、百田の合図で会場中から大合唱が沸き起こる場面もあった。


 場内一面が有安のイメージカラーである緑色に染まる中、メンバー4人から花束を受け取った有安が最後の挨拶。4人への感謝の言葉、そしてスタッフやモノノフへの感謝の気持ちを伝える中で、彼女は「ももクロは“奇跡の5人”と言われるけど、私はあまりそんなことを思ったことなくて。この4人と、モノノフさんで5人だと思ってます。だから10周年も、20周年も、この4人のことをよろしくお願いします」と気持ちのこもったメッセージを伝え、ステージから去っていった。


 有安が退場したのと同時に、ステージ後方のスクリーンに映されていた5人の写真から有安の写真のみ消え、ここから“4人のももクロ”がスタートすることとなる。百田が「4人でたくさんの人に笑顔を届けられるグループでいたいと思います。私たち4人には、その覚悟があるよね」と気持ちも新たに宣言すると、場内には聴き覚えのある“お約束のあの曲”が流れ始める。そう、ももクロに対しての重大発表があるときにはおなじみの、松崎しげる「愛のメモリー」だ。ステージに突如現れた松崎は「愛のメモリー」に乗せて、5月23日に東京ドーム公演が決定したことをメンバー4人、そして場内のモノノフたちに伝えると、それまでのしんみりした空気から一変、会場は再び熱い熱気に包まれた。


 玉井の「皆さん、私たちと一緒に走り続けてくれますか?」との問いかけに、大声援で応えるモノノフたち。最後は「あの空へ向かって」を、4人になったももクロで初パフォーマンスしてライブを終えた。そしてステージからの去り際、百田が「今日は気持ちをぐちゃぐちゃにしてすみません。『ずっとついてこい!』とは言いませんが……」と気持ちを伝えようとすると、そこに高城が「そんなことは言えねえ! ずっとついてこい!」と勢いよく割って入り、最高の笑顔で「4人のももいろクローバーZ」のスタートを切ることとなった。


 この日のライブは有安杏果のラストステージではあったものの、筆者には「5人のももいろクローバーZ」のラストステージという印象が強かった。派手な演出が控えめで、またステージセットも極力シンプルな構成だったのも、そういった印象に拍車をかけたのは間違いない。そして、ライブタイトルにある「OPENING」の文字は2018年最初のライブという意味と同時に、ここから新たなももいろクローバーZが始まるという意味も込められていたのではないか。そう思わずにはいられないくらい、前向きさを前面に打ち出した内容だったと思う。


 終演後には東京ドーム公演と同日の5月23日に、「5人のももクロ」の証を残すかのように初のベストアルバムが発売されることもアナウンスされている。結成10周年イヤーとなる2018年はまだ始まったばかり。今後もパワーダウンを感じさせることなく、いや、さらにパワーアップしたももクロが我々に最高の笑顔を届けてくれることだろう。(文=西廣智一)