年収850万円以上の会社員は増税、たばこ税も増税、国際観光旅客税を新設――昨年末に発表された2018年度の「税制改正大綱」では、個人向けの増税が目立ち、疑問を感じた人も少なくなかったようだ。
しかし民間税制調査会の代表を務める、青山学院大学の三木義一教授(租税法)は、
「日本の財政を考えると、もっと増税をしなければ危ないと思っています。所得税を見直したり、法人税の課税ベースを広げたりする必要があるのではないでしょうか。たばこ税も上げてもいいと思います」
とさらなる増税の必要性を語った。
「法人減税が世界の潮流。安倍政権も法人税率を下げようとしている」
個人向け増税が目立つ一方、「大綱」には賃上げや設備投資を行う企業への法人減税や、中小企業の後継者が払う相続税や贈与税の負担軽減が盛り込まれている。財政がひっ迫しているというのなら、法人増税を行ってもよいのではないか。
「世界中で企業誘致のため、法人税率の引き下げ合戦をしており、安倍政権も税率を引き下げようとしています。こうした中で、国外を利用できない庶民に頼らざるを得なくなっているのではないでしょうか」
税率が高いままでは、企業が他国へ移転してしまう可能性がある。そのため、日本だけ高税率のままではいられないということだ。しかし「税率を上げるのが難しくても、法人税収を増加させることはできる」と三木教授は指摘する。
現在、企業の所得のうちの約32%しか課税対象になっていない。それは、研究開発を行った企業に対する控除をはじめ様々な政策的控除があるからだ。租税特別措置と呼ばれるこれらの控除を見直して、課税する収入の範囲である「課税ベース」を拡大する必要がある。
増税訴える議員を落とす国民も「だらしない」
法人の税制負担を増やすことも必要だが、それで個人の負担を減らせるわけではない。
「高額所得者もある程度、税負担に耐えていく覚悟が必要だと思います。一般に『増税は悪いことで減税は良いこと』という意識が強い。しかし、国が税を集めて政策を行わなければ、『自助努力』の社会になってしまいますよ。裕福な人は裕福だけれど、貧しい人は貧しいままだという社会になってしまいます」
格差を縮小して、貧困層の生活を底上げするためにも、一定の再分配が必要だという。三木教授は、政治家がこうした税の必要性をきちんと説明しなければならないと力説する。
「与党が選挙で勝つために、増税について触れないのは間違いです。日本の債務残高がここまで膨れ上がってしまった以上、真正面から増税の必要性を訴えるべきなんです。議員と話すと『そんなことを言ったら選挙で落ちてしまう』と言っています。そうした議員を落とす国民もだらしないと思います」
三木教授が所属する民間税制調査会は1月15日、「民間税調2018年度税制改革大綱 国民のための税制改革」を発表。この「大綱」でも、昨年の選挙における政治家の姿勢を批判している。
「昨年も選挙前には増税策は一切示さず、選挙が終わった翌日から給与所得控除引き下げの議論を始めている。これでは、必要な増税も『だまし討ち』と評価され、国民はますます税から逃げるだけである」
政治家は有権者からの票を失うことを恐れて、増税を訴えることはしない。しかし増税を含む税制の見直しについて、きちんと問題提起していくことが必要だ。
「医療費を抑えるためにも、たばこ税はもっと上げてもいい」
今回の税制改正では、たばこ税の増税も決まった。紙巻きたばこは来年10月から段階的に1本あたり3円の増税、加熱式たばこも5年かけて税率を引き上げる。不満を抱く喫煙者も多いが、三木教授は「むしろもっと税率を上げてもいいのでは」と語る。
「加熱式たばこへの切り替えが進み、たばこ税の税収が5000億円ほど減少しました。そのため税率を引き上げたのでしょう。ただ、国民に健康を維持してもらって、医療費を抑えるために、もっと税率を上げてもいいんじゃないでしょうか」
三木教授が「増税が不十分」だと指摘する「大綱」を元にした、「2018年度税制改革法案」は現在行われている通常国会で提出される見込みだ。