トップへ

『もみ消して冬』から『anone』まで、家族ドラマを考察 求められるのは“ナチュラルエンド”か

2018年01月28日 16:12  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 一年余り前の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)ブーム以来、「誰も傷つかない」「多様な生き方を肯定する」という世界観の作品が増えている。これは視聴者ニーズを感じ取った制作サイドの戦略だが、今冬もその傾向は続いていた。


参考:『anone』第3話はクライムサスペンスに “虚実の対比”描いた水田伸生の巧みな演出


 形こそさまざまだが、“家族=ファミリー”を感じさせる脚本・演出が多いのだ。


 『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』(日本テレビ系)と『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)は、物語の舞台そのものが家族。どこをどう切り取っても、家族というキーワードがついてくる。


 『FINAL CUT』(フジテレビ系)は亡き母の無念を晴らす復讐劇、『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)は夫の不倫で危機を迎える、2月3日スタートの『家族の旅路 家族を殺された男と殺した男』(フジテレビ系)は家族を殺した犯人と対峙するという、家族をきっかけに人生が狂わされる様子が描かれている。


 『anone』(日本テレビ系)は不思議な縁で出会った人々、『海月姫』(フジテレビ系)は共同アパートに住むオタク女性たち、『リピート』(日本テレビ系)は同時にタイムスリップする8人の男女が、血縁を超えたファミリーのような運命共同体となっている。


■本物であれ疑似であれ、思いの深さは不変


 「物語の舞台そのものが家族」の2作は、扱われるエピソードにはシビアなものもあるが、全体のムードは明るい。家族の力で問題を乗り越える展開が予想され、最終的には前述したような「誰も傷つかない」「多様な生き方を肯定する」結末が予想される。


 それをさらに推し進めたのが「血縁を超えたファミリー」の3作。リアリティを最小限に抑えてファンタジーとしての家族=ファミリーを描き、血縁という概念を忘れさせてくれる。だから視聴者は「その不思議なコミュニティに迷い込んだ」ような感覚になるのだろう。


 一方、「家族に人生を振り回される」3作のベースとなっているのは、家族だからこそ悩み、苦しみ、もがく姿。「誰も傷つかない」「多様な生き方を肯定する」という近年の流れに対するカウンターであり、最後まで対極の世界観で楽しませてくれるはずだ。


 アプローチの方法こそ異なるが、出発点となっているのは、人と人の絆。それが本物の家族であれ、疑似家族であれ、思いの深さは変わらない。全作品が終了したとき、「『anone』のハリカ(広瀬すず)と亜乃音(田中裕子)の絆がどの家族よりも深かった」と感じても不思議ではないのだ。


■安易なハッピーエンドへの懸念


 家族=ファミリーの物語が増えたことで懸念されるのは、安易なハッピーエンドへの依存。2015年3月にアンハッピーな結末が続いて批判が殺到したあと、連ドラは大半がハッピーエンドになってしまった。特に、家族=ファミリーの物語は、ほぼハッピーエンドと言っていいだろう。


 実際、かつて『Mother』(日本テレビ系)や『Woman』(日本テレビ系)で、問題を美化せずナチュラルな結末で感動を集めた坂元裕二までもが『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)で無難なハッピーエンドを描いていた。


 しかし、一年前の『カルテット』(TBS系)ではハッピーエンドではなく、ソフトランディングするような……言わば“ナチュラルエンド”。今冬の『anone』でも同様に、安易なハッピーエンドに頼らない結末が期待できそうだが、他の作品も続けるだろうか。


 そろそろ制作サイドが、連ドラの「多様な生き方を肯定する」という世界観だけではなく、ハッピー、ナチュラル、アンハッピーなど「多様な結末を肯定する」という姿勢を見せてもいいのではないか。


 同時に、視聴者もいたずらに不満の声をあげず、「多様な結末を肯定する」包容力があってほしいと感じている。ハッピーエンドでないからこそ、余韻や含みを感じたり、さまざまな反響や驚きの声があがったり、ドラマの楽しみ方が広がるからだ。(木村隆志)