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菅田将暉の歌にある新しい可能性ーー『関ジャム』いしわたり淳治の発言から考える

2018年01月28日 11:32  リアルサウンド

リアルサウンド

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 1月21日放送の『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)には、蔦谷好位置と、いしわたり淳治の音楽プロデューサー2名がゲスト出演。独自の目線で2017年の楽曲を振り返りつつ、「2017年 年間ベスト10」を発表した。


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 番組の冒頭で、いしわたりの発言にもあったように、2017年は国民的な大ヒット曲はなかったが、名曲はたくさん誕生した年だったように思う。というのも、2016年に大ヒットを記録した楽曲、RADWIMPS「前前前世」や星野源恋」は、どちらも社会現象を巻き起こした、映画『君の名は。』やドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)の主題歌であった。当時は連日連夜、テレビや街中でそれらの曲を耳にしていた印象だ。だからこそ、普段は彼らを聴かない人たちの耳に入る機会も多かったと言える。


 だが、2017年には記録的ヒットを飛ばすほど話題になったドラマや映画はない。その分、ドラマ『カルテット』(TBS系)や映画『君の膵臓をたべたい』など、熱狂的な支持を集めた作品は多く、ライター/編集者の小田慶子氏の言葉を借りれば、「“傑作”はないが、“秀作”は数多い一年」(参考:年末企画:小田慶子の「2017年 年間ベストドラマTOP10」 “傑作”はないが、“秀作”は数多い1年)であった。各々の心に響く作品が数多く誕生していたため、それらで使用されていた楽曲もまた人気が分散していたように思う。そんな2017年の名曲の中から、蔦谷といしわたりが選んだ楽曲も実に多種多様であった。


 蔦谷は3位に平井堅「ノンフィクション」、2位にOfficial髭男dism「Tell Me Baby」、1位に米津玄師「灰色と青(+菅田将暉)」、いしわたりは3位にSHISHAMO「魔法のように」、2位にTWICE「TT」、1位に菅田将暉「呼吸」を選出し、プロデューサーらしい視点で、各楽曲の歌詞やメロディ、コード進行、リズムなどを分析していく。


 選出した理由や着眼点も様々で、個性的なランキングとなった中で一曲だけ、蔦谷、いしわたり共にベスト10にセレクトした楽曲があった。それはシンガーソングライター吉澤嘉代子の「残ってる」。蔦谷は4位に選び、その理由について「イントロが井上陽水の『帰れない二人』とそっくりで、おそらくオマージュとしてわざと似せていると思う」とコメント。一方、6位に選んだいしわたりは、「朝帰りのあの感じを直接的、感情的に書くのではなく、“まだあなたが残ってる”と表現する」彼女の作詞テクニックとセンスに着目したという。さらに、シンガーソングライターのあいみょんもまた、楽曲は違えど、蔦谷といしわたりが共に名前を挙げていた。


 そんな中、1位に菅田将暉「呼吸」を選んだいしわたりは「いつからか日本の音楽は、アーティストと呼ばれる人たちの自己表現の場になってしまった」と指摘し、「かつては“役を演じるプロ”である俳優ならではの歌というのがたくさんあった」と振り返る。自己表現の音楽が決して悪いわけではないが、それだけになってしまうのは色々な音楽が生まれる可能性を狭めてしまうのではないかと危惧し、だからこそ「菅田将暉の歌を聴いていると、忘れかけていたその感覚が帰ってくる感じがする」と同時に、「新しい音楽の可能性が詰まっている」のだという。


 いしわたりの指摘通り、かつては西田敏行や舘ひろしなど、俳優活動と歌手活動を並行していた人も少なくなかった。もちろん、皆が皆“シンガーを演じるように歌う”のではつまらないが、“自己表現の音楽”だけでも新鮮味がなくなってしまう。そんな中で、“役を演じるプロ”である菅田は芝居をしながらも、彼だけの歌を魅力的に歌い上げている。佇まいも美しく、見せ方も上手い。どうしようもなく、惹きつけられる。いわば、与えられた歌を自分だけの歌として消化しているのだ。だからこそ彼の歌には、独特な力強さと色気があり、不思議と心をギュッと鷲掴まれるのだろう。


 現代の音楽シーンにとって、彼の存在は良い意味で異質であり、唯一無二だ。現に、蔦谷が「圧倒的な1位」と評した米津玄師「灰色と青(+菅田将暉)」では、米津に「どうしてもやりたいと無理を言いました。この曲は菅田くんでなければ絶対に成立しないと思ったからです」と言わせている。菅田将暉の歌には、現代の音楽シーンに革命を起こすような“新しい可能性”が詰まっているのかもしれない。(文=戸塚安友奈)