2018年01月28日 11:02 弁護士ドットコム
秋田市立秋田商業高に勤務する元五輪選手の高校教諭が、同校を受験する予定だった中学3年の生徒の母親にキスをしたり、交際を求めたりするなどのわいせつ行為をしたとして、1月19日付で市教委から懲戒免職の処分を受けたという報道が相次いだ。
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この元五輪選手はアテネ五輪やアトランタ五輪のレスリングに出場した男性教諭だという。生徒はショックを受けており、受験を辞退したと伝えられている。
大きなショックを受けたこの生徒や家族が、慰謝料をもらったり、再受験の機会を得たりするといった救済を得る余地はないのだろうか。また、刑事事件として立件される可能性はどの程度ありそうか。高島惇弁護士に聞いた。
ーーまず民事についてお尋ねします
「報道されている事実関係によれば、受験を口実に保護者へ近づき、近くの駐車場に止めた車内で抱きつきキスしたとの話ですので、その性的自由を侵害したとして母親に対する損害賠償責任が発生します。
本件をいわゆる『スクールセクハラ』と評価するかどうかは難しいですが、受験先の学校の教員という立場を利用してセクハラ行為に及んでいる以上、少なくとも不法行為が成立しますし、その動機につき一定の悪質性があることは否定できないと思います」
ーー生徒に対する損害賠償責任はいかがでしょうか
「生徒に対する損害賠償責任が発生するかどうかは微妙かもしれません。というのも、教諭は、生徒に対し直接セクハラ行為を行っておらず、受験の辞退についても、あくまで生徒本人の判断だったと評価できる場合は、入学機会の喪失との間に相当因果関係があるとはいえない可能性があるからです」
ーー生徒がレスリング部に入部予定だったとしたらいかがでしょうか
「強いて言えば、例えば生徒が事実上入学が内定しており、入学後レスリング部に所属予定だったという事情があれば、学校の安全配慮義務違反を追及する余地はあるかもしれませんが、報道された事実関係を前提とする限り、やはり難しいと理解するのが通常だと思います」
ーー刑事責任はいかがでしょうか
「刑事責任ですが、仮に抱きしめる際やキスに際し、保護者を叩いたり腕を強く掴んだといった事情がある場合には、強制わいせつ罪が成立する余地はあります。また、そのような暴行がなくても、保護者の身体に直接接触し、その性的羞恥心を著しく害し、又は不安を覚えさせたと評価できる場合には、秋田県の迷惑防止条例に違反したとして6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる可能性はあります」
ーー立件の可能性はありそうでしょうか
「刑事責任として立件されるかどうかは、前科前歴の有無や保護者との示談状況などの事情を総合的に考慮しないと判断できません。もっとも、東京都など一部の教育委員会では、教職員の非違行為のうち刑事事件については告発又は告訴を行う旨公表しているため、秋田県教育委員会についても、今後告発する展開はあり得ると思います。
教職員がその地位を利用してセクハラ行為を行うことは、決して許されるものではありませんし、教育委員会も、他の問題行動と比べて厳罰に処分する傾向にあります。今回の行為は問題だったと言わざるを得ませんし、一瞬の過ちで人生を台無しにしないよう、常日頃から教職員としての責務を自覚するのが大切だと思います」
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
高島 惇(たかしま・あつし)弁護士
退学処分、学校事故、いじめ、体罰など、学校内におけるトラブルを精力的に取り扱っており、「週刊ダイヤモンド」にて特集された「プロ推奨の辣腕弁護士たち」欄にて学校紛争問題が得意な弁護士として紹介されている。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp