2017年のIMSAウェザーテック・チャンピオンシップ最終戦プティ・ル・マン(ジョージア州ロード・アトランタ)に参戦したチーム・ペンスキー。2018年から同シリーズにホンダのアメリカでの高級ブランドであるアキュラの看板を背負ってフル参戦する彼らは、ギブソンV8エンジン搭載のオレカ07で10時間の耐久レースを戦った。
アキュラがスポーツカーのトップ・カテゴリーにチャレンジするのは今回が初めてではない。ル・マンでのセカンド・カテゴリーであるLMP2がIMSAではトップに組み入れられている時代に、ARX-04bを走らせたことがある。このマシンが目指す成績を残す前にアキュラはシリーズから撤退したが、IMSAが2017年にデイトナ・プロトタイプ・インターナショナル(DPi)という新カテゴリーをスタートさせると、2018年シーズンに向けてARX-05の開発に乗り出した。
コストコントロールを重要テーマに掲げるDPiは、 LMP2シャシーをベースに出場自動車メーカーが空力パッケージを開発して自社のエンジンを搭載し、それらにIMSAがホモロゲーションを与える方式。
アキュラとペンスキーはオレカ07をベースに選んだ。キャディラックはダラーラ、ニッサンはリジェ、マツダはライリーと2018年シーズンにエントリーする4メーカーはそれぞれが異なるシャシーを採用している。
チーム・ペンスキーはオレカ07の実力と弱点を把握すべくプティ・ル・マンに出場した。いかにもペンスキーらしいアプローチと言える。
2006年から3シーズンに渡ってポルシェRSスパイダーをLMP2クラスにエントリーさせた時も、ペンスキーは参戦前年の最終戦ラグナ・セカにすでにテストを始めていたポルシェで出場し、翌年からの戦いに備えた。
今回のケースでは、アキュラによるエンジン及びエアロパッケージの開発が十分に進んでいなかったため、チームのトレーニングや学習を目標とした参戦が行われた。
インディ500で他を寄せ付けない16勝を挙げ、スポーツカーでもストックカーでも数々の勝利とタイトルを掴んで来たアメリカレース史上で最も成功して来ているチームは、スポーツカーフィールドへの復帰に関しても準備に抜かりはなく、テスト参戦でありながら予選ではポールポジションを獲得し、レースでは表彰台に上る3位フィニッシュを飾ってチームの実力の高さを見せつけた。
開幕戦が24時間の耐久イベントであることから、デイトナでは事前の合同テストが恒例となっている。ロアー・ビフォア・ザ・ロレックス24と銘打たれた3日間のテストは今年も行われ、アキュラ初のDPiマシンが、まだボディーペイントは施されていない状態ではあったが、ライバルたちの前に初めてその姿を現した。
雪が降ってもおかしくないほど低温のコンディションとなったテストでは、キャディラック軍団がトップ4を独占した。最も準備を整えた状態でDPi初年度を迎えた彼らはデイトナ24時間、セブリング12時間の二大耐久イベントを制し、その勢いを保ってシリーズタイトル獲得へと邁進した。ライバル勢ではニッサンが2勝を挙げる奮闘ぶりで、そのうちの1勝は10時間耐久のプティ・ル・マンだった。
“ロアー”でのアキュラはキャディラック勢のすぐ後ろの5、6番手につけた。プティ・ル・マンの後にデイトナ、セブリング、ロード・アトランタ、そしてラグナ・セカで行った15日間にも及ぶテストを重ねた彼らは、テスト最終日に行われた予選で参戦2年目のニッサンとマツダより速いラップを記録して見せたのだ。
この予選とは、IMSAが各エントラントに三味線を弾かせないよう、レースでの使用ピットとガレージという褒章を用意して開催したものだ。レースで少しでも優位に立てるよう、どのチームも全力でのタイムアタックを行った。
■いよいよデビューウイークエンドの戦いが始まる
そして今週、アキュラARX-05のデビューウイークエンドがやってきた。テスト時よりも暖かくなっているものの、摂氏12~16度とデイトナとしてはかなり厳しい天候の下で2回のプラクティス、そして予選は行われた。
2018年の最初の公式予選、アキュラはポールポジション争いの主役を演じた。昨年でインディカーフル参戦をやめスポーツカーへと転向してきたエリオ・カストロネベスが7号車でセッション半ばに1分36秒090をマークし、タイムモニターのトップに躍り出た。そして、このラップを上回る者が出ないまま予選セッションは終盤に突入したのだ。
チェッカーフラッグが振られる直前、レンジャー・ファン・デル・ザンデのキャディラックDPiが最後のアタックラップに入った。路面にタイヤラバーがもっとも乗っているコンディションを味方につけ、彼はカストロネベスを0.007秒上回って大逆転でのPP獲得を成し遂げた。
カストロネベスとアキュラは予選2番手。惜しくもデビュー戦でのPPは逃したが、フロントローグリッドから今週末のレースに出走することとなった。初レースでの好パフォーマンスは初シーズンの好成績を期待させるものだ。
「予選ではドライバーとしてできることはすべてトライした。残念ながら0.007秒という差でポールを獲得することはできなかった。獲れたと思ったんだけれどね。悔しいね。でも、僕たちはプラクティス、予選ともに強さを見せた」
「決勝に向けては、マシンにあと少しのセッティング変更が必要だろう。予選で思い切りプッシュした結果、改善の必要な点が幾つか見つかった。僕にとって1台のマシンを複数のドライバーとシェアするスポーツカーレースは新しいチャレンジだ」
「しかし、自分にはペンスキーという強力なチームがある。IMSAには性能を調整するルールがあるが、それを乗り越えて勝利を掴むために必要なマシンの完璧な準備、セッティング能力など、チームの総合力がある。デイトナでは優勝、シーズンではチャンピオンシップ獲得と、望める最高の成績を目標に掲げている」とカストロネベスは話した。
2台目のアキュラ=6号車のエースはインディカー、F1、そしてアメリカン・ストックカーでも活躍したファン・パブロ・モントーヤ。タイムアタックは若手のデイン・キャメロンが担当し、こちらの予選順位は10番手となった。
キャメロンの記録したベストラップは1分36秒931で、PPとは0.848秒差、チームメイトとは0.841秒差だった。PPタイムから1秒以内に13台がひしめいており、2018年のプロトタイプ・クラスは前年を凌ぐ激戦になるとデイトナでの予選だけで明らかになった。そして、アキュラは2台とも十分にコンペティティブに戦うことができそうだ。
決勝スタートを明日に控え、モントーヤは、「初レースを迎えるが、マシンの仕上がり具合には満足している。エリオのペースを見ただろう? スピードは十分にある。僕らは少しブレーキに問題があってパフォーマンスが低くなっていたけれどね」
「レースではその問題も解決されているだろうから、スタートから全開でいく。ライバルたちのペースに合わせたりはしない。日曜には雨も降る予報だし、簡単なレースとはならないだろうが、優勝を目指していく。最初のレースから勝ちにいけると確信しているんだ」と語った。
カストロネベスは昨年度DPiチャンピオンのリッキー・テイラーとのコンビ。デイトナでの助っ人としては2016年インディカー・チャンピオンでスポーツカーでの経験、実績ともに申し分ないシモン・パジェノーを迎えている。モントーヤのチームもホンダのインディカー・ドライバーでデイトナ24時間での優勝経験を持つグラハム・レイホールが3人目に起用されている。