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The Mirrazの“予測不可能”なバンド像 ギターロックを再び鳴らした2017年を振り返る

2018年01月27日 11:32  リアルサウンド

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 The Mirrazは2017年に何度目かの大きな転換点を迎えていた。メジャーデビュー、『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)への出演から5年と待たずして事務所を設立、その社長をフロントマン自身が務めるバンドの現状を誰が予想しただろう? もっとも、そのような予測不可能なロックバンド像こそミイラズの魅力であり、その環境の変化も決してネガティブなものではないのだけれど。


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 さて、そこに至るまでにはいくつかの紆余曲折があったことを述べる必要があるだろう。遡ること2015年、ミイラズはその代名詞ともいうべきゼロ年代ガレージロック直系のバンドサウンドに、当時広く流行していた所謂EDMのサウンドを取り入れ始めた。以前より最新の洋楽を取り入れることを公言・実行してきたミイラズだが、ギターロックを離れてのシンセサイザーの導入やビルドアップの挿入など、その表面的な音楽性の変化は特に大きなものに感じられた。


 そしてそのままミイラズはシンセサイザーを前面にアルバムを1枚とEPを2枚制作、ドラマーの脱退とベストアルバムのリリースを経て、2017年2月にEDM期の作品の総決算ともいうべき通算8枚目のフルアルバム『ぼなぺてぃっ!!!』をリリースする。ここからミイラズの怒涛の2017年が始まる。


 2017年4月1日、ミイラズは前作から2カ月と経たないうちにギターロックに振り切ったフルアルバム『Mr.KingKong』を配信限定でリリースする。エイプリルフールの余興と思いきや、翌日には新レーベル兼事務所を設立、独立することを発表。もとより作詞作曲、エンジニア、MV作成、グッズやアートワークのデザインを全て一人で行ってきたフロントマンの畠山承平がその社長を務め、まさにDIYも行くところまで行ったという具合だ。LAガレージを意識したという全10曲の『Mr.KingKong』はEDM期以前のものと比べて楽曲それぞれの密度、あるいは強度が格段に上昇しており、リズムパターンやコードの乗せ方、畠山承平による派手なミックスの妙など、ミイラズがこれまで培ってきたものが存分に還元されていることがうかがえる。そこではより自由に、かつてのミイラズがブラッシュアップされた形が提示されていた。ちなみに『Mr.KingKong』はiTunesのデイリーランキングJ-POP部門でも2位を記録。


 5月には毎週1曲ずつ「/ / /D.O.G. IS G.O.D. / / /」、「レゾンデートルの存在理由」、「Ningenno Switch」、「最近じゃデパートのオリジナルソングにすら幸せを感じるんだ」といった新曲をリリース。それぞれテンションを変えながら、どれもミイラズらしい言葉数多めのニヒルなロックナンバーとなっている。


 さらに7月、ミイラズは早くもミニアルバム『バタフライエフェクトを語るくらいの善悪と頑なに選択を探すマエストロとMoon Song Baby』をリリース。7曲が収められたこのミニアルバムは、よりメロディや歌を意識したつくりになっている。要するにキャッチーなのだ。そこら中に真新しいリズムパターンが散りばめられ、歪みまくったダークなリフはそのままに、情報過多な畠山承平の歌唱が冴えている。8月になるとミニアルバム収録曲のリミックス、「Moon Song Baby (City Funk Remix)」、「ムームー・フムフム・ヌクヌク・アプアア・ククイ・ネネ・ナニ・ノア(Summer Funk Remix)」、「月の死体(Mad Funk Remix)」を毎週1曲ずつ公開。どれも原曲とは大きく装いを変えた鍵盤主体のつくりとなっていて、そういった新しい表現もEDM期を経たからこそのものだろう。


 10月にはまたしても、全7曲のミニアルバム『ヤグルマギク』をリリースする。『ヤグルマギク』はリフのアルバムだ。The Strokesを思い起こさせるようなギターの掛け合いは過去のアルバムでもやっていたことだが、それをド頭のリフでやっているのはあまりなかったように感じる。畠山承平によるミックスは隙間を埋めながら音の分離がはっきりしていて、リフの一つでもただのそれに収まらない生々しさを備えている。甲高い音で鳴り響くサイレンか、今にも破裂しそうな何かのような。


 12月、ミイラズは11曲からなるフルアルバム『RED JACKET』をリリースした。2017年の集大成のようで、その細やかな部分には畠山承平の新しいことへの試行錯誤が垣間見れる、まぎれもない新作だ。畠山承平は先行公開された「DAWN」で<どうせ終わりなんてないから ただ進み続けるだけ 止まんな>と歌った。


 ほぼ毎月のようにアルバム単位の楽曲を発表しながら、そこには必ず「The Mirrazが鳴らすべき新しい音楽」への試行錯誤があった。今回はリリースのみを挙げ列ねたが、バンドは2度のツアーを行い、YouTubeに長尺の番組を投稿したり、ライトノベルゲームを製作したり、およそロックバンドらしくないユニークな活動も行っていた。2017年のミイラズは、走りまくった。


 そしてそれは2018年も走り続けるために他ならない。今月からは全国ツアーも始まる。会社の後ろ盾などないにも関わらずの、ものだ。2018年のThe Mirrazは本当にどうなるかわからない。だから、最高に面白い。(池田 誉)